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空想お散歩紀行 優秀な人材を求めてどこまでも

薄暗い通路に響くのは誰かが歩く靴の音だけ。
わずかな灯りだけがその空間を照らす。
それだけで分かることは、その空間は想像以上に広いということ。通路は小型の飛行機なら十分入るほどあり、天井も高い。通路の両側は五つの階層で構成され吹き抜けになっている。両側の階層はどちらも壁一面に等間隔で部屋が設置されている。
しかし、その部屋の入口を担っているのはドアではない。鉄格子だ。
ここは宇宙にあるとある惑星。大きさは地球の半分以下。さらに陸地よりも海の方が大きい。その海は常に激しい嵐によって荒れ狂っている。
監獄惑星ジェイル。星一つがまるごと牢獄というもので、特に凶悪な犯罪者が入れられる、過去脱獄した者は一人もいないという場所だった。
現地時間で深夜。その時間帯ではありえないことがそのセクションでは起こっていた。
誰かが歩いている。この監獄惑星の中の牢獄でも、特に一級の犯罪者が入る場所。そこは全てをAIとアンドロイドで管理されていて人間の看守などいないはずだった。
その地面を靴が叩く音をそれぞれの牢屋に入っている全ての者が聞いていた。
足音は突然止まると、今度は声がその空間に響いた。生の人間の声だ。
「えー、皆様。お休みのところ申し訳ございません」
男の声。しかも想像以上に若く明るい声だった。
ここでは私語は厳禁だ。ちょっとでもおかしなマネをすれば、警備アンドロイドに警告なしで射殺されてしまう。
しかしそんなことは起こらず、その男は普通に言葉を続けた。
「私はスカウトマンのエックスと申します。単刀直入に言いましょう。今日はここにヘッドハンティングに参りました」
エックスと、いかにも偽名丸出しの名前を名乗ったその男は相も変わらず、明るい声で話を続ける。おそらく彼の営業スタイルなのだろう。
「私はとある方の依頼でここに来ました。優秀な人材があれば、どこへでも赴くのが私のモットーですので」
エックスの言葉に今のところ誰も疑問を投げかけたりしていない。
無視しているのか。それとも様子を見ているだけなのか。
「さて、私の依頼主が求めているのは、人を人とも思わない残虐性、そして純粋な強さです。ここはまさに宝箱と言えるでしょう。ですが・・・」
エックスはそこで言葉を切り、懐から何かを取り出した。どうやら小さなスイッチのようだ。
「あなた方のやってきたことはあくまで過去のこと。私は現在の皆さんを、そして未来の可能性を見たい」
次の瞬間、囚人たちが入っている牢屋の鍵が一斉に開いた。
「なので今の皆さんの力を測らせてください。そして特に優れた人たちと契約を結びたいと思います」

翌日、宇宙の至る所までそのニュースは行き渡った。
『監獄惑星ジェイルのクラスSセクションで暴動。そこに収監されていた837名のうち830名が死亡。7名行方不明』

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