空想お散歩紀行 毎日が何かの誕生日
多くの人が行きかい、挨拶を交わす。
いつもの朝の風景。ただ一ついつもと違うことを除けば。
それは、道に等間隔に並ぶ街灯のその全てが火を灯しているということだ。
周りは暗闇に包まれている。空に一切の光はない。時計は朝の時間を指しているが、景色は夜。
しかしそれに驚いている人は一人もいない。
「おはよう。あれ、あいつは?」
「ああ、今日誕生日だから」
この世界には一つの決まり事があった。
その日、誕生日の者は一日の休みを与えられる。
それだけならなんてことない決まりかもしれないが、これは人間だけに適用されるものではない。
全てに当てはまる。
今日は、太陽の誕生日でもあった。だから今日一日太陽は昇らない。太陽の休みの日なのだ。
それを知っているから人々も特に慌てたりはしない。
慌てているのは、今日が太陽の誕生日だと忘れていて洗濯ものを干そうとしていた人くらいかもしれない。
「明日って何の誕生日だっけ?」
星も月もない、ただ黒の空の下で普通にしゃべり合う人たち。
「明日は・・・ああ、鏡とチョコレートの誕生日だね」
「チョコの方はまあ、いいとして、鏡の方はちょっと困るな」
それは明日は一日中、鏡には何も映らないことを意味していた。
毎日何かが誕生日を迎えている。
その日に休むことで、周りの全てがその誕生を意識する。
今日一日太陽が昇らない日を過ごすことで、皆がそれを祝うのだ。
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