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空想お散歩紀行 この術は著作権で保護されています

突然ですが、私は今ピンチです。
「ちょっと!どういうことなのよッ!!」
私は思わず叫んでいた。
私、トレジャーハンターのサリーナはお宝の情報があれば世界のどこにでも向かう。
今回も、やっとのことで得た情報でついに辿り着いた古代遺跡。
でも貴重なお宝が眠っている場所ほど、危険な罠や怪物がウヨウヨしてるってもの。
だから私は、用心棒を雇った。
魔導士のルナ。女の子で、私と同い年くらいなのにも関わらず、A級魔導士のライセンスを持っていたので雇うことにした。
そして私たちは古代遺跡へとやってきたのだが、
「何でさっき魔法使わなかったわけッ!?」
今さっき、私たちはこの古代遺跡を守っていると思われる怪物たちに襲われた。大きさはさほどでもないけど、やたら数が多く、集団で襲ってきた。
「魔法使えばさっきのやつら倒せたんじゃないの?例えば、本でしか見たことないけど、ファイアウォールとかっていう魔法なら」
ルナが魔法を使わないものだから、私が持っていた火炎瓶で何とかあの場は切り抜けることができた。
「確かにそれなら倒せたでしょうね」
ルナはたんたんと答えた。
「じゃあやれば良かったじゃん」
「私はその魔法は使えない」
あっさりとルナは言い放った。
「え?あなた魔導士でしょ。しかもA級ライセンスの。え?嘘なの?」
急に私を襲い来る不安。もしかして詐欺師に捕まったか。
「いえ、それは間違いない。私はれっきとした魔導士よ」
「じゃあ、私の知らない内に魔力切れとかしてるとか?」
それだったら理解はできる。魔法を使うための元になるものがそもそも無かったら使えないのだから。
「それも違うわ。魔力はほとんど減ってない。有り余ってると言ってもいいわ」
「じゃあ、なんなのよ」
まったく要領を得ない展開に正直イライラしてくる。
私のそんな雰囲気が伝わったのか、ルナは言い出しにくいことを絞り出すように話し始めた。
「・・・・契約がないのよ」
「は?」
「著作契約を結んでないの」
どういうことだろうか?私が訝しんでいると彼女はそのまま説明を続けた。
「魔法ってのはね。単に炎とか水を出すことを言うんじゃないの。その炎とか水をどんな形にするか、どんな効果を乗せるか、そういうのをいろいろ組み合わせて、数式のように定まった形にすることを魔法って言うの」
「それが何だって言うのよ」
「その数式を組み立てるのが魔導士よ。そして魔法の術式はそれを作った魔導士に使用の権利が認められる」
「まさか・・・」
私は何だか見えてきた気がする。
「そう、私は魔法を使うための権利の契約を結んでいないから使えないの!」
「偉そうに言うことかッ!!」
私は思わずルナの頭をはたいてツッコミを入れていた。
「じゃああんた魔導士でも何でもないんじゃない!何なのよA級ライセンスって!!」
「ライセンス自体は筆記と実技の試験受かれば取れるのよ。自慢じゃないけど私、魔力量ならそんじょそこらのやつらに負けるつもりはないから。大抵の魔法は使えるはずなのよ」
「じゃあ何でその権利契約とやらを結ばないのよ」
「他人が作った魔法を使うには著作権料払わないといけないの。そのお金が私には無いのよ。私が今使える魔法は、ファイアボールとかウォーターニードルとか、大昔に作られて、もう著作権が切れてフリーになってる魔法だけ。最近の便利で使い勝手のいい魔法ほど著作権料が高いのよ」
「魔導士の世界も世知辛いのね」
私はいつの間にかルナに少しだけ同情していた。
「・・・ん?じゃあ何であなたは今回私についてきたの?」
「決まってるでしょ。著作契約結ぶためのお金が欲しいからよ。ここの遺跡、すごいお宝があるんでしょ」
・・・なんてこった。私はここのお宝を手に入れるために魔導士の力が欲しくて、ルナは魔法の使用料のためにここのお宝が欲しい。
お互いの目的が完全に入れ違ってしまっている。
ここはすぐにでも撤退するのがいいか?いや今さらそれは難しいかもしれない。
「と、とりあえずあなたが使える魔法教えてくれる。それで作戦の練り直しよ」
古代遺跡の深部に差し掛かろうかという地点で、まさか私は頭を抱えることになってしまった。
「ところで、あなたが自分で魔法作ればいいんじゃない?」
「私、そっちの才能はまるで無いみたいなのよね、これが」
あっけらかんと答えるルナに私は、そう、としか言えなかった。

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