空想お散歩紀行 凶悪モンスターほどいい宝物を持っている
深い森の中。巨大な木々や植物の数々。大小様々な虫や動物が住む地帯。人間は決して住むことのできない危険なその場所に今、二人の男がいた。
「・・・行ったか?」
「ええ、行ったみたいです」
短く言葉を交わした直後、二人は大きく息を吐いた。まるで何時間も息を止めていたかのような気持ちだった。実際は十数秒だったのだが。
「今のは危なかったな」
「何とかバレませんでしたね」
二人が姿を隠している岩の隙間から覗くと、その先にいるのは、巨大なドラゴンだった。
赤い鱗に覆われ、紅い目を輝かせながら、まるでこの森林の王者のような風格で歩いている。その血のような色の口は、人間の大人でも一口で飲み込んでしまうだろう。
「それにしても、まだなのかね」
「そろそろだと思うんですけどね。さっきグリフォスを食ってから3時間くらい経ってますし」
グリフォスというのも、ドラゴンに並ぶこの森のモンスターである。人間から見ればどちらも、見つかろうものなら死を覚悟しなければならないレベルの生物である。
しかしドラゴンから見れば、グリフォスもエサの一つに過ぎない。
「ッ!!来ましたよッ!!」
「よしッッ!!」
二人が待ちに待った瞬間がついに来た。
彼らは興奮しながらも、決して見つからないように、物陰から見つめるその先には先ほどのドラゴン。
しかし、様子が変わっていた。
四足歩行のドラゴンが、今は腰を下げ、犬でいうところのお座りのような格好になっている。そしてその体が今かすかに震えている。
その時間はおよそ数十秒。その後はまた何事も無かったかのように歩き出した。
その様子を見て、二人の男はしばらくそこにいた。ついさっきまでドラゴンの後を尾行していた彼らは、今はそのドラゴンが去るのをただ待っていた。
そして完全にドラゴンの気配が消えたのを確認すると、慎重に岩の陰から出て、先程までその凶悪なモンスターがいた場所まで近づく。すると、
「よしッ!思った以上に大量だ!早く回収してさっさとずらかるぞッ!」
「はいッ!」
二人は急いで、その地面の上に落ちている、正確には先程ドラゴンが落としていったものを拾って袋に詰めると、その場を後にした。
二人が拾った物は、ドラゴンの糞であった。
彼らは冒険者でもなければ、ハンターでもない。
彼らは農家だった。
彼らが求めていたものは肥料となる材料。
ドラゴンの糞はその中でも最上級の物である。
どんな痩せた土でも、その肥料を混ぜればまたたく間に豊穣な土地となり、どんな作物も信じられないくらいによく育つ。
しかも、ドラゴンの糞には微量にドラゴンの魔力がこもっているのか、この肥料を使った畑には、イノシシや猿といった作物に対する害獣も本能的に危険を感じ近寄らなくなる。
「よーし!これでついにやれるぞ。だれも育てることができなかった。ゴールデンスタートマトを!」
期待に胸膨らませる彼らだったが、まだこの森を出るまでは安心はできない。改めて気を引き締めるのであった。
農作物を育てる人たち。彼らは時にどんな冒険者よりも身の危険を省みず、あらゆる場所に足を踏み入れるのである。
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