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ポップカルチャーは裏切らない

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”好きなものを好きだと言う"を基本姿勢に、ライブレポート、ディスクレビュー、感想文、コラムなどを書いている、本noteのメインマガジン。
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#コラム

気高さを貫く/ASIAN KUNG-FU GENERATION『ライフ イズ ビューティフル』

気高さを貫く/ASIAN KUNG-FU GENERATION『ライフ イズ ビューティフル』

ライフ イズ ビューティフル。ロベルト・ベニーニが1998年に監督・主演した映画。猛烈に多弁なお調子者の男グイドはそのどうかしてるアプローチ力で結婚し息子をもうけるが、第2次世界大戦下にユダヤ人ということでナチスドイツによってホロコーストの強制収容所に親子ともども連れていかれる。映画の前半と後半で全くトーンが異なる物語だが、グイドのお喋りだけは変わらない。息子に「これはゲームだ」と教え、辛い収容所

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the pillowsとフリクリが見せた夢、米津玄師とガンダムの今

the pillowsとフリクリが見せた夢、米津玄師とガンダムの今

※米津玄師 2025 TOUR/JUNKの若干のネタバレがあります

ガンダムにほぼ触れていない私としても先日鑑賞した『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』は高揚した。色々と興奮した箇所はあったが、やはり"発進"に際したアニメーションの躍動感、それを強調する米津玄師「Plasma」の威力は特筆したい。やはり何かが動き出す瞬間にアッパーな楽曲は欠かせない。特に、飛びあが

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2024年ベストドラマ トップ10

2024年ベストドラマ トップ10

良作の多い年だったと思います。私は明確なメッセージにひた走るタイプの作品を苦手としていて(良質かつ誠実なのは分かるが好きになれない)、ゆえに近年のドラマのトレンドは刺さりづらかったのですが、配信限定も含めると今年は久しぶりに連続ドラマであることの豊かさを堪能できました。大半は配信中。皆さま是非!(特に1位)

10位 3000万

ふとした結果で3000万円を手に入れてしまった家族が巻き込まれるブ

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筋肉は裏切らないどころか/石田夏穂『ミスター・チームリーダー』【読書感想文】

筋肉は裏切らないどころか/石田夏穂『ミスター・チームリーダー』【読書感想文】

石田夏穂の新刊『ミスター・チームリーダー』が破格の面白さだった。当人のみが見えている世界や思考を1人称に限りなく近い3人称の視点で綴り、その過剰さをシニカルに見せる作風が強みの作家だが本作はまさしくその魅力を全方向に炸裂させた作品だった。

石田夏穂と言えばデビュー作でも肉体改造を扱い、話題となった冷え性をテーマにした『ケチる貴方』とそれに収蔵された、脂肪吸引をテーマにした「その周囲、五十八センチ

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異界の際にて/吉澤嘉代子トライアングルツアー「旅する魔女」@住吉神社能楽殿(2014.10.19)

異界の際にて/吉澤嘉代子トライアングルツアー「旅する魔女」@住吉神社能楽殿(2014.10.19)

吉澤嘉代子がピアノに梅井美咲、ギターに細井徳太郎を迎えたトライアングル編成で開催しているツアー「旅する魔女」。一般的なライブベニューではない場所で開催される公演も多いこのツアー、福岡は住吉神社能楽殿にて敢行された。この会場は能楽のみならず様々なライブも開催されておりこれまで後藤正文、藤原さくら、折坂悠太、フラワーカンパニーズらがここで演奏してきた。吉澤自身も2017年以来、2度目のライブとなった。

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ダウ90000『旅館じゃないんだからさ』と一緒に聴きたいBase Ball Bearプレイリスト

ダウ90000『旅館じゃないんだからさ』と一緒に聴きたいBase Ball Bearプレイリスト

ダウ90000 第6回演劇公演「旅館じゃないんだからさ」 を配信で観た。2021年に初演され、ダウの名を一躍世に広めた名作の3年ぶりの再演である。千葉のTSUTAYAを舞台に、様々な恋慕がひしめき合う物語だ。あれから3年経ち、より色濃くなった”レンタルビデオ“への郷愁が記憶をくすぐってくる。

本公演のテーマソングはBase Ball Bearの「夏の細部」。作品との呼応性、劇中での使われ方など両

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「虎に翼」とオープニング食いつきベビのこと

「虎に翼」とオープニング食いつきベビのこと

「虎に翼」が終わった。個人的に2013年「あまちゃん」以来の朝ドラ完走。「あまちゃん」が新たな層に朝ドラの存在を訴求した作品だとするならば、「虎に翼」は別角度から朝ドラの在り方を照らし直す強烈な1作だった。

伊藤沙莉を始めとするコメディ巧者たちによる軽妙な会話劇、生活へと持ち帰りたい重厚なメッセージなど様々に受け取ったものはあるが1つ大きなものとしてオープニング映像の素晴らしさがある。米津玄師が

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労働し空想する/米津玄師『LOST CORNER』【ディスクレビュー】

労働し空想する/米津玄師『LOST CORNER』【ディスクレビュー】

米津玄師が4年ぶりにリリースした6thアルバム『LOST CORNER』が凄まじかった。その多くがタイアップ付きであり大きく世に知れた既発曲12曲とせめぎ合うような新曲8曲によって構成された全20曲の大ボリューム作だ。聴くまでは新鮮味という観点では軽く考えていたのだが、結論から言えば72分間、圧倒されっぱなしだった。

既発曲を美しく繋ぎつつ、新曲たちも負けじとギラギラ輝く。“サブスク時代のアルバ

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この1年でよく読まれた記事ベスト10【note6周年】

この1年でよく読まれた記事ベスト10【note6周年】

2018年から書き始めて6年が経ちました。900記事くらい書いてるようです。毎年恒例の年間アクセス数ランキング。この1年で書いた記事で上位10本を載せてみようと思います。

10位 アジカン精神分析的レビュー『マジックディスク』/語り直しと混ざり合い(2023.8.18)

去年、勤しんでいたアジカン精神分析レビューの1本。だんだん書き方が掴めてきた頃。現在、これらの記事を基にレビューZINEを制

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2024年の遥か彼方/ASIAN KUNG-FU GENERATION『Single Collection』

2024年の遥か彼方/ASIAN KUNG-FU GENERATION『Single Collection』

ASIAN KUNG-FU GENERATIONがメジャーデビュー20周年を1年遅れで祝うシングルコレクションをリリースした。最新シングル「宿縁」から1stシングル「未来の破片」まで、現在から過去へと遡るような形で全33曲が収録されている。

本作のDisc1の1曲目を飾るのはメジャーデビューミニアルバム『崩壊アンプリファー』の1曲目であり、代表曲の1つ「遥か彼方」の再録テイクである。現時点で最新

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すべてはロマンのために/UNISON SQUARE GARDEN『SUB MACHINE, BEST MACHINE』

すべてはロマンのために/UNISON SQUARE GARDEN『SUB MACHINE, BEST MACHINE』

UNISON SQUARE GARDENが結成20周年を記念してキャリア史上初のベストアルバム『SUB MACHINE, BEST MACHINE』をリリースした。10周年はアルバム曲からのセレクト、15周年はB面集と様々な形でアニバーサリーを祝ってきた彼らだが20周年にして遂に正面突破のシングルコレクションである。

しかしそれはDisc2、Disc3の内容。Disc1は未発表曲たち(サブスク配

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2024年上半期ベストドラマ トップ10

2024年上半期ベストドラマ トップ10

最近は上半期ベストドラマというのは選んでこなかったけど今年はどういうわけか山ほどドラマを観ている。これは恐らく昨年「ゲーム・オブ・スローンズ」全シリーズを観ていた時間をドラマ視聴時間に充てることができている、ということなのだけど、それにしても良作が多すぎる気がする。年間ベストで拾い切れなくなる作品が惜しいので、トップ10を久々に決めてみた。

10位 エリック

今年、数多い"子供が失踪する"とい

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2024年上半期ベストアルバム トップ10

2024年上半期ベストアルバム トップ10

アルバム編、今回の10枚は結構新鮮な顔ぶれになっているのではないだろうか。何度目かの新たなものを求めるターム。それでいて、常に安心感をくれるものも同時に愛したいターム。これですね

10位 グソクムズ『ハロー!グッドモーニング』

振り幅も円熟味もフレッシュさとはかけ離れた充実のメジャー1stアルバム。各曲ごとのフォークとロックンロールとダンスビートの切替が絶妙で、それぞれのキャラは濃いのにつるん

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MONO NO AWAREはなぜメシを食うアルバムを作ったのか/『ザ・ビュッフェ』【ディスクレビュー】

MONO NO AWAREはなぜメシを食うアルバムを作ったのか/『ザ・ビュッフェ』【ディスクレビュー】

メシを食う。何をするにしても、生命はその行為から逃れられない。根本的には生命維持の役割を持ちながら、五感を充足させる快楽物としての役割も果たす。そんな個人としての本能を満たすものでありつつ、時には食を共にする人との絆を確かめるような役割も果たすし、宴や儀式のようにより大きな存在へ捧げられる役割も果たす。

上の記事に書いたように、種々の表現やスタンスの表明としても食事は機能する。しかし食事はこうし

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