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ダウ90000『旅館じゃないんだからさ』と一緒に聴きたいBase Ball Bearプレイリスト

ダウ90000 第6回演劇公演「旅館じゃないんだからさ」 を配信で観た。2021年に初演され、ダウの名を一躍世に広めた名作の3年ぶりの再演である。千葉のTSUTAYAを舞台に、様々な恋慕がひしめき合う物語だ。あれから3年経ち、より色濃くなった”レンタルビデオ“への郷愁が記憶をくすぐってくる。

本公演のテーマソングはBase Ball Bearの「夏の細部」。作品との呼応性、劇中での使われ方など両者のファンとしてこれ以上ない贅沢なコラボである。『天使だったじゃないか』のビデオがいらすと屋だったこともあり、もう他カルチャーとの交差などないかもしれない、と恐れた折の幸福なタイアップだ。

ベボベのソングライターである小出祐介もダウ90000の主宰である蓮見翔も、表現における細部へのこだわりが光る作家だ。「夏の細部」における丹念な感情描写と具体的なアイテムを散りばめた場面描写の応酬は、劇中にないシーンまでもあるように錯覚させるほどに見事なもの。蓮見も小出のこの表現力を知っているからこそ、その余韻をベボベに安心して任せられたのだろう。


強く呼応し合うダウ90000とベボベの描写力に私も想像が爆発したので、この記事では勝手に選んだ「旅館じゃないんだからさ」と一緒に聴きたいBase Ball Bearの楽曲8選を載せようと思う。本作の8人の登場人物それぞれにちなんだ楽曲となっているので、すでに本作を観た方も、まだこれからの方も、あれこれ考えていただけると!


1.「Power (Pop) of Love」ー 塚田(道上珠妃)
劇中、色々ありすぎて恋心を見失いかけるのだけれども、やはり《君が愛おしいってこと》で溢れるエネルギーが物語を裏で牽引していく。嫌な予感をすっぽかして、いつか届きますように!!


2.「逆バタフライ・エフェクト」ー 片山(園田祥太)
自分の選択だったはずなのにその運命を受け入れられず彷徨う男。笑ってしまうのだけど、その身悶えは身に覚えのある痛みが。「夏の細部」とも共通する“花束”のモチーフも、彼の逡巡に刺さる。


3.「アンビバレントダンサー」ー 今カノ(吉原怜那)
《大胆な決断が出来ないで揺れてる》とはまさに、2月の彼女そのものだろう。嘘をついてるわけじゃない、良かれと思い隠してるだけのことがなぜこんなにも。矛盾の中で戸惑い踊るその姿。


4.「Cross Words」 ー 及川(上原佑太)
同棲しはじめの高揚感とともに、どこか落ち着かない気分を抱えることになる彼もまた彼なりに本当のことをずっと知りたいだけなのだ。《少しずつ教えて》が叶わない恋もあるという苦い現実。


5.「Summer Melt」ー 元彼(蓮見翔)
劇中で随一ぶっきらぼうに振る舞う徹底的なツッコミ役だが少しずつ綻びが生まれてくると途端になんだか哀愁のある背中。《君に教えてもらったことだって/僕の知識として育ってく》。まさに。


6.「抱きしめたい」ー ユウト(飯原僚也)
本作で最も余裕のある感じの男だが、不意になぜだかアツくなってしまう瞬間がある。まるで17才の恋心、《自分でも知らない自分に出会ってしまった》ような突発的な抵抗。ほど良い情けなさ。


7.「A HAPPY NEW YEAR」 ー リナ(中島百依子)
嫌いなわけじゃないけどもう違くて、でも相手から勝手に想われ続けてしまう、という状況において、彼女の言葉は否定でも肯定でもなくずっと真ん中。されど、こう思ってくれてはしないかと。


8.「kamiawanai」 ー TSUTAYA初めての女性(忽那文香)
とにかく噛み合わない。しかし噛み合わなければ噛み合わないほど面白い。


様々な具体的なアイテムの引用によって作品のリアリティと生活感、そしてノスタルジーを高めながらその世界へと誘う。ダウ90000とBase Ball Bearにはそんな共通点がある。小出は「神はディテールに宿る」という論旨の話を頻繁にしている。最初に聞いたのは「ベボベLOCKS!」でベッキー♪♯へ楽曲提供を行うコーナー内でだった。なぜか数週間に渡ってベッキー♪♯が出てた時期があったのだ。あれは一体なんだったんだろう。

と、まさしくこの私の中にあるベッキー♪♯の記憶にも象徴的だが、別に忘れていいことなのになぜか思い出してしまうことがあり、時折それらは今この瞬間に噴出し、不意に過去が干渉してくる心地になる。ダウ90000もベボベもそのような事象を喚起する表現が持ち味と言える。一般化された、普遍的な、集合知のAIで導き出したようなものでなく、作り手の強いこだわりからもたらされる美しいディテールが2組の表現を特別にする。

小出祐介は「夏の細部」と同じ時期に、ソロプロジェクトmaterial clubの制作も行っており、先日リリースされたアルバムにも魅惑的な固有名詞や具体性の高い情景描写の力が光っている。ベボベとバンドメンバーは違うものの、同じようなムードを共有するという点で、これは小出祐介のソングライティングの記名性なのだろう。もはや景色の記述のみで大半を魅せる歌詞も多く、考察不要でそのまま受け取る喜びに満ちる詩世界だ。


蓮見翔と小出祐介が作品に施した細部まで行き届いたこだわりは人を選ぶものかもしれないが、ひとたび選ばれれば、痛みや感傷を伴う楽しさや切なさに取り憑かれてしまう。ただ笑えて、ただ踊れて盛り上がるだけではない、特別な表現なのだ。ダウ90000、Base Ball Bearのどちらかのファンだという方は、もう片方に出会う絶好のチャンスが今まさに到来している。あなたに出会いたがっている演劇/お笑いと音楽が今ここにある!


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