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seiji_arita
2025年2月17日 10:49
「立ち入り禁止の其の先で」「立ち入り禁止」という札のかかった金網の下を潜り抜けなだらかな坂を上がった僕は歩を止めてアスファルトの割れ目に咲いている何本かの花を見たそして丘の上に浮かんだ雲を見た 太陽はもう其処に沈みかけていた僕の君を呼ぶ声は希薄な冷たい空気の中で弧を描く風は無く 空気は静止している地上の全ての万物をぐっと押さえつける様に春が芽吹き 寄
2025年2月12日 12:56
「二月の残酷な月」僕等にはロマンスへの回帰が必要とされている二月の残酷な月 愚行の後悔を映し出し人の心を腐敗させてゆくそれはいつ果てるとも知れない無力さとして夜空を覆い尽くしていたその場しのぎの礼儀が愛想笑いをして通り過ぎてゆく独善的で幸運に恵まれた女性ロマンスや想い出をもたらしてくれるかもしれない危険珈琲に砂糖を入れないなんてアナーキストだわそ
2025年2月10日 14:43
「破砕物」紙にペンを走らせ自分の名を冠にするに足る創作をなそうとする者よ言葉の実験を繰り返し型破りなストーリーを語る高度にドラマチックな散文が降り注ぐ言葉の構築物はストーブの上で溶けていく氷の様に跡形もなく消えていく寄り道を拒絶する詩の定義第一原稿が書き上がった時夜を嘲笑う様に稲妻が光る常識に始まり常識に終わる物語ほど味気ないものはない雑誌に掲載
2025年2月6日 21:21
「草の葉」僕の手に思考の電撃が走るそれは恋の始まりの様なものだった君は途方に暮れ 向かうべき道を示す常夜灯を探し彷徨っていた それは想像もつかない程の暴力を秘めた夜に似ている巨大にして偉大な静けさをもたらす夜に人々は優しい夢を見るというのに僕は路上で風に吹かれ散っていくラブレターを追いかけている彼女の意識の中にあるうちなる両手が僕を包み込んで離
2025年2月3日 12:28
「愛の外郭」波の砕ける音がする あれは海なのか正義の道を踏み外さない様に 真っ直ぐと防波堤は伸びている僕は随分と長い間 彼女の事を描写していたそう 描写と言う言葉が一番的確な表現だ彼女の横顔 仕草 指先の動きまでも克明に彼女の微笑みは僕個人に向けられたものではないその事はわかっていたが僕は彼女の微笑みに合わせる様に微笑んだ世界を終末に導く悪しき事
2025年1月7日 18:58
「奇跡の羽」僕は意識の中にある無明の深みに降りていく其処には檻の中に閉じ込められ其処から抜け出ようとしている自由な魂の羽ばたきが聴こえる鋭い革新性や力強い文体も無い親密で独特な語り口で其の羽ばたく音が聴こえるまるで文章の余白にある語られざる語りの様にいつでも無い時代の何処でも無い場所へと僕を誘う其れは若き日の僕が恋人と抱き合って 美しい宵の時を過ごして
2024年12月8日 19:12
『 記憶の残滓 』あまりにも残酷に思えた記憶の欠片広い集め全て灰にしたかった然れど 時を重ね記憶の残滓は私の一部と化したそう思えた瞬間私の心は救われた頬を撫でる冷たい風も頬をつたう涙のしずくの感触も私が生きている証なのだJun Takeici「使いみちのない物語」オイルの切れた機械の様にガチャガチャとうるさい音がするどんよりとした灰色の雲ソフ
2024年12月7日 23:45
「全ての夜は」全ての夜は彼女の為にある魅力的な気まぐれさを漂わせる仕草煙草を口元にやる時の手 其の指先を見つめていた日々の時間の単調さや面倒な色々な出来事などとりとめのない事柄は背景の中に沈み込み消える物事をそれぞれに帳尻を合わせ それぞれの棚の上におとなしく収める僕の現実そのものが…其の何もかもが手違いであるかの様に思えた彼女の指先の赤いネイル
2024年12月5日 21:08
「夜の中に」夜の中にキスを投げるまでネックレスについた黒い星僕は夏の火花の片鱗を見ていた星は光を瞬かせ海のまわりには灯火が煌めく水面を渡る静かな風が旋律を奏でるある種の陶酔を僕の中に誘発する一対の黒い瞳 其れはただ得もいわれず美しかった深い夏の情熱に満ちたプラチナ色のさざ波恋に落ちた男の気配を君は感じ取っているはず彼女の微笑みは口づけへの誘いの様
2024年12月3日 19:43
「最後の紅葉」ナイフで切れそうな程たちこめた煙不確かな船出の時君の唇に其の言葉が浮かんでいる彼女は僕の人としての弱い部分を本能的に見抜いている其れを非難する事よりも 受け入れてくれようと寄り添ってくれていた僕の人生からこぼれ落ちて消えて行った人の数をかぞえた心の痛む想い出の一部を譲り渡したまま最後に残された紅葉が揺れている人生の舵取り能力の弱さが致命傷
2024年12月2日 21:56
「氷の街」静かな午後と夕暮れの一刻太陽が僕に貸し与えた不確かな影小天使は眠りを貪り 名も無き花は其の花弁を空に向けて広げる記憶が呼び起こす微かな芳香彼女の帽子のひらひらとした縁が揺れている灰薔薇色の風が丘の斜面を上るこの世で最も美しく名前を持たない感情が夢と共に育つ吐く息はくっきりと白い彼女は子供の様に宙に向け息を吐いて遊ぶ僕は手に入れられる限
2024年11月28日 15:25
「月のない夜」シャボン玉が虹色に光る危険であるほど燃える恋境界線も標識もない大地に足を踏み入れる暗闇の中 時計が時を刻む音 重なり合う長針と短針男は女がいつまでたっても変わらないと思い女は男が常に変わり続ていると思うでも本当はどちらも間違っている彼女はキスされる為に眼鏡を外すそして ゆっくりと息を吐きながらヒールを僕の革靴に気怠く擦り付ける偽者はいず
2024年11月21日 22:19
「太陽が捕らえた街」笑顔の固定された少女の人形が床に転がる淡いブルーの夏用のワンピースに赤い靴其の靴の赤だけが 些か不似合いで際立って見えた昼下がりでも薄暗い部屋の中で生温いビールを飲んでいる足元には妙な匂いのする犬が眠っている彼女と暮らし始めて三か月が経っていた陽当たりの悪い古い平家の一軒家だ近くに多摩川が流れている 理想的な環境とは言い難いが
2024年11月20日 21:16
「ベルが鳴る」僕等は同じ夢物語を見ている 見ていたはずだった唐突に電話のベルが鳴る 何度も何度も ベルが鳴る僕は其の電話に出る事は無かった彼女からの電話だと言う事は僕にはわかっていた単調で無個性な雨が降り続いている窓の外はいつも雨が降っている雨を見ながら煙草を吸った煙草には味が無かった きっと昨夜ウィスキーを飲みすぎたせいだ海辺のカフェ 僕の他に