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散文詩

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#彼女

立ち入り禁止の其の先で 《詩》

立ち入り禁止の其の先で 《詩》

「立ち入り禁止の其の先で」

「立ち入り禁止」という札のかかった
金網の下を潜り抜け

なだらかな坂を上がった

僕は歩を止めてアスファルトの
割れ目に咲いている

何本かの花を見た

そして丘の上に浮かんだ雲を見た 

太陽はもう其処に沈みかけていた

僕の君を呼ぶ声は
希薄な冷たい空気の中で弧を描く

風は無く 空気は静止している

地上の全ての万物を
ぐっと押さえつける様に

春が芽吹き 寄

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二月の残酷な月 《詩》

二月の残酷な月 《詩》

「二月の残酷な月」

僕等にはロマンスへの回帰が
必要とされている

二月の残酷な月 

愚行の後悔を映し出し
人の心を腐敗させてゆく

それはいつ果てるとも知れない
無力さとして

夜空を覆い尽くしていた

その場しのぎの礼儀が
愛想笑いをして通り過ぎてゆく

独善的で幸運に恵まれた女性

ロマンスや想い出を
もたらしてくれるかもしれない危険

珈琲に砂糖を入れないなんて
アナーキストだわ

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破砕物 《詩》

破砕物 《詩》

「破砕物」

紙にペンを走らせ自分の名を冠に
するに足る創作をなそうとする者よ

言葉の実験を繰り返し

型破りなストーリーを語る

高度にドラマチックな散文が
降り注ぐ

言葉の構築物は
ストーブの上で溶けていく

氷の様に跡形もなく消えていく

寄り道を拒絶する詩の定義

第一原稿が書き上がった時

夜を嘲笑う様に稲妻が光る

常識に始まり常識に終わる物語ほど
味気ないものはない

雑誌に掲載

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草の葉 《詩》

草の葉 《詩》

「草の葉」

僕の手に思考の電撃が走る

それは恋の始まりの様なものだった

君は途方に暮れ 

向かうべき道を示す
常夜灯を探し彷徨っていた 

それは想像もつかない程の
暴力を秘めた夜に似ている

巨大にして偉大な静けさを
もたらす夜に

人々は優しい夢を見るというのに

僕は路上で風に吹かれ

散っていくラブレターを
追いかけている

彼女の意識の中にある

うちなる両手が
僕を包み込んで離

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愛の外郭 《詩》

愛の外郭 《詩》

「愛の外郭」

波の砕ける音がする 
あれは海なのか

正義の道を踏み外さない様に 

真っ直ぐと防波堤は伸びている

僕は随分と長い間 
彼女の事を描写していた

そう 
描写と言う言葉が一番的確な表現だ

彼女の横顔 仕草 
指先の動きまでも克明に

彼女の微笑みは僕個人に
向けられたものではない

その事はわかっていたが

僕は彼女の微笑みに
合わせる様に微笑んだ

世界を終末に導く悪しき事

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奇跡の羽 《詩》

奇跡の羽 《詩》

「奇跡の羽」

僕は意識の中にある
無明の深みに降りていく

其処には檻の中に閉じ込められ

其処から抜け出ようとしている
自由な魂の羽ばたきが聴こえる

鋭い革新性や力強い文体も無い

親密で独特な語り口で
其の羽ばたく音が聴こえる

まるで文章の余白にある
語られざる語りの様に

いつでも無い時代の
何処でも無い場所へと僕を誘う

其れは若き日の僕が
恋人と抱き合って 
美しい宵の時を過ごして

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記憶の残滓 《詩》

記憶の残滓 《詩》

『 記憶の残滓 』

あまりにも残酷に思えた
記憶の欠片
広い集め全て灰にしたかった

然れど 時を重ね
記憶の残滓は
私の一部と化した

そう思えた瞬間
私の心は救われた

頬を撫でる冷たい風も
頬をつたう
涙のしずくの感触も

私が生きている証なのだ

Jun Takeici

「使いみちのない物語」

オイルの切れた機械の様に

ガチャガチャとうるさい音がする
どんよりとした灰色の雲

ソフ

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全ての夜は 《詩》

全ての夜は 《詩》

「全ての夜は」

全ての夜は彼女の為にある

魅力的な気まぐれさを漂わせる仕草

煙草を口元にやる時の手 
其の指先を見つめていた

日々の時間の単調さや
面倒な色々な出来事など

とりとめのない事柄は

背景の中に沈み込み消える

物事をそれぞれに帳尻を合わせ 

それぞれの棚の上に
おとなしく収める

僕の現実そのものが…

其の何もかもが
手違いであるかの様に思えた

彼女の指先の赤いネイル

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夜の中に 《詩》

夜の中に 《詩》

「夜の中に」

夜の中にキスを投げるまで

ネックレスについた黒い星

僕は夏の火花の片鱗を見ていた

星は光を瞬かせ
海のまわりには灯火が煌めく

水面を渡る静かな風が旋律を奏でる

ある種の陶酔を僕の中に誘発する
一対の黒い瞳 

其れはただ得もいわれず美しかった

深い夏の情熱に満ちた
プラチナ色のさざ波

恋に落ちた男の気配を

君は感じ取っているはず

彼女の微笑みは
口づけへの誘いの様

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最後の紅葉 《詩》

最後の紅葉 《詩》

「最後の紅葉」

ナイフで切れそうな程たちこめた煙

不確かな船出の時

君の唇に其の言葉が浮かんでいる

彼女は僕の人としての弱い部分を
本能的に見抜いている

其れを非難する事よりも 

受け入れてくれようと
寄り添ってくれていた

僕の人生からこぼれ落ちて
消えて行った人の数をかぞえた

心の痛む想い出の一部を譲り渡したまま

最後に残された紅葉が揺れている

人生の舵取り能力の弱さが致命傷

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氷の街 《詩》

氷の街 《詩》

「氷の街」

静かな午後と夕暮れの一刻

太陽が僕に貸し与えた不確かな影

小天使は眠りを貪り 

名も無き花は
其の花弁を空に向けて広げる

記憶が呼び起こす微かな芳香

彼女の帽子のひらひらとした縁が
揺れている

灰薔薇色の風が丘の斜面を上る

この世で最も美しく名前を持たない
感情が夢と共に育つ

吐く息はくっきりと白い

彼女は子供の様に

宙に向け息を吐いて遊ぶ

僕は手に入れられる限

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月のない夜 《詩》

月のない夜 《詩》

「月のない夜」

シャボン玉が虹色に光る

危険であるほど燃える恋

境界線も標識もない大地に
足を踏み入れる

暗闇の中 時計が時を刻む音 
重なり合う長針と短針

男は女がいつまでたっても
変わらないと思い

女は男が常に変わり続ていると思う

でも本当はどちらも間違っている

彼女はキスされる為に眼鏡を外す

そして ゆっくりと息を吐きながら
ヒールを僕の革靴に気怠く擦り付ける

偽者はいず

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太陽が捕らえた街 《詩》

太陽が捕らえた街 《詩》

「太陽が捕らえた街」

笑顔の固定された少女の人形が
床に転がる

淡いブルーの夏用のワンピースに
赤い靴

其の靴の赤だけが 

些か不似合いで際立って見えた

昼下がりでも薄暗い部屋の中で

生温いビールを飲んでいる

足元には
妙な匂いのする犬が眠っている

彼女と暮らし始めて三か月が経っていた

陽当たりの悪い古い平家の一軒家だ

近くに多摩川が流れている 

理想的な環境とは言い難いが 

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ベルが鳴る 《詩》

ベルが鳴る 《詩》

「ベルが鳴る」

僕等は同じ夢物語を見ている 

見ていたはずだった

唐突に電話のベルが鳴る 

何度も何度も ベルが鳴る

僕は其の電話に出る事は無かった

彼女からの電話だと言う事は
僕にはわかっていた

単調で無個性な雨が降り続いている

窓の外はいつも雨が降っている

雨を見ながら煙草を吸った

煙草には味が無かった 

きっと昨夜ウィスキーを
飲みすぎたせいだ

海辺のカフェ 僕の他に

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