花が二人を繋いだように。(仮) #2
啓太と初めて会ったのは私が10歳の時。私の父がいわゆる転勤族、母は在宅で仕事をしている兼専業主婦。そんなわけでこの土地に引っ越してきた。対コミュニケーションはイマイチ。啓太に「よろしく!」って話しかけられた時も、
「あ、あ、よろしくお願いします。」みたいな。仲良くなればなるほど緊張感は減っていくけど、最初が一番ぎこちないのは自分でもよく分かっている。
誰かに何かを伝えることには抵抗はない。例えば、演技や歌うこと。自分ではない第三者の側に立って、その第三者になりきることに全力を注ぐ。それが私の感情をコントロールできる唯一の手段。
新しい学校に登校して、ホームルームで先生からの紹介を受け、普通の女子よりちょっと暗めの声で自己紹介をし、空いていた啓太の隣の席に座った。席は前から2列目の窓側。春らしい優しい風と桜が舞っている。緊張も少しくらい吹き飛ばしてくれればいいのに。
最初の授業は国語みたい。机の上に積まれていた教科書の仕分けをして、「国語」とノートだけを机上に残す。目次にパラパラ目を通して指定されたページを開く。まずは音読からみたいなので自分の番を静かに待つ。
読んだ本は、あまんきみこさんの「白いぼうし」の一部分(※)。
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車に戻ると、おかっぱの小さなかわいい女の子が、ちょこんと後ろのシートにすわっています。
「道にまよったの。行っても行っても、四角い建物ばかりだもん。」
つかれたような声でした。
「ええと、どちらまで。」
「え。ええ、あの、あのね、菜の花横丁ってあるかしら。」
「菜の花橋のことですね。」
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読み終えて座ると、少しざわついているのが一瞬ではあるが耳で感じ取れた。どうやらイメージと違ったからなのか、それとも声が大きかったことに驚いたのか、先生も含めてそんな感じで見つめられている。もちろん、隣の啓太も。それからはいつも通りの感じで授業は進んだ。
みんなは状況を整理できていないのか、それとも他人への関心なんて無いのだろうか。授業間の休みもそんなに相手にされなかった気がする。ただ1人、啓太を除いては。
啓太はこの時、私に”恋”したようなことを言ってたっけ。
※「白いぼうし」より抜粋 (作: あまんきみこ)