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はるるん、海を渡る

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重症心身障害児として生まれ、盲目で車椅子が必須のハルが、家族とともにどこへでも出かけ、登山にも海にも行き、そうしてついに、家族と一緒に海を越えてインドにやってきた。インドでの彼女…
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そこに「在る」生活を知りたい(パプア滞在記④最終回)

そこに「在る」生活を知りたい(パプア滞在記④最終回)

セブンイレブン。ユニクロ。無印。DAISO。マクドナルドにKFC、スターバックス。イケアにH&M。

なんの名前か?

ここ数年で夫の赴任先となったインドにもフィリピンにもあった世界に展開する店舗である。10年以上前に1年だけ住んだタイにももちろんあった。インドはそれなりに買い物も大変だったけれど、それでも日本食屋さんもあったし、困ったら少し高くても知った名前のお店に行く事ができた。

それが、パ

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道なき道をゆく(パプア滞在記③)

道なき道をゆく(パプア滞在記③)

「本当にこんなところに学校があるんだろうか?」

肢体不自由、目が見えない、言葉が喋れない次女のパプア・ニューギニアでの学校探し。

私たちの車は怪しい雰囲気の道を走っていた。

夫がこちらに住み始めてすぐに中古で購入したホンダのCR-Vが、とんでもなく揺れる。周囲には裸足で歩く現地の人たち。外国人が乗ってるのがわかってリンチされないだろうか、とヒヤヒヤである。

車、ひっくりかえってるし……。

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どうかアレを受け止めて!(パプア滞在記②)

どうかアレを受け止めて!(パプア滞在記②)

「ごめん、ちょっと俺寝てもいいかな」

うんざりした夫の声が聞こえた。時刻は午前3:00(@パプア時間)。

え?どうしたの?何?

パプアニューギニアに赴任中の夫と次女を訪ね、0泊2日でポートモレスビーにたどり着いた末っ子と私は泥のように眠っていた。

たどり着くまでの記事はこちら▼

夫と共に生活している次女は、生まれつき脳性麻痺で体が不自由。一人では寝返りができず、何か不快なことがあれば泣く

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何倍か、何十倍か。それが問題だ。(パプア滞在記①)

何倍か、何十倍か。それが問題だ。(パプア滞在記①)

円だと思ったのだ。
だからまあまあ英語ができるふりをして、「noted」と返事をした。
(本当は英語はたいしてできない)
そして決済をした。
(決済とか一番やりたくないし向いていない業務)

夫が10月から赴任したパプアニューギニアに10日ほど行くための往復チケットの話である。夫とともにいる障害のある次女の学校や生活の立ち上げヘルプのためにもともと私が一人で行くつもりでチケットをとっていた。1週間

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当たり前の、ウラガワで

当たり前の、ウラガワで

朝起きると、ブリキ缶のようにベコベコと音がした。
ような気がした。
疲れているのかもしれない。

あわててここ数日を振り返る。
少し前に、普段海外に住んでいる夫と次女が急に帰国して、10日ほど滞在した。滞在中、夫は私に代わってせっせと料理をし、家事も分担してくれた。分担というか、リモートワークをしながらほとんどの家事を夫が担って私はぐーたら。

それなのに疲れてるとかそんなわけあるかい、と思うでし

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「いや、血ぃ、出てるよ? なんで痛がったらあかんねん」

「いや、血ぃ、出てるよ? なんで痛がったらあかんねん」

2023年1月クール、「ブラッシュアップライフ」というドラマが話題になった。

主人公がよりよいものに生まれ変わるために人生を生き直すことでブラッシュアップし、徳を積むという話。主人公の職業は、最初は市役所職員だったのが、2周目の人生では薬剤師になり、3周目はテレビ局員、4周目は医者、そして5周目は…と物語が展開していく。

この「ブラッシュアップライフ」をみて、私ははて、と考えた。
人生ブラッシ

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はるるんの福祉クエスト

はるるんの福祉クエスト

はるるん、先日8歳の誕生日を迎えた。
誕生日前日深夜に帰国し、誕生日翌日にはまたフィリピンの自宅へ、という超強行スケジュールだったけれども家族みんなでお祝いすることができた。

彼女が生まれた8年前、出産した病院で何枚もの同意書にサインをしながら、先の未来なんてまるで思い描けずにいた。
ただ毎日やってくるトラブルをドッチボールのように体をくねらせてよけたり、時には正面から受け止めたりしながら、必死

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「特別支援教育」は特別なままなのか

「特別支援教育」は特別なままなのか

さて、前回の記事で、障害や特性に関係なく、地域の学校に多様な子どもたちが通えることの意義に触れて書いた。

はい。わかってます、あくまで理想です。
現状においては、校舎の問題、教育カリキュラムの問題、教員配置の問題など、ありとあらゆる点において、多様な子どもたちを地域の学校に受け入れる準備は到底十分とは言えない。だからこそ、現時点では副学籍制度に期待する部分が大きいのだけれど、副学籍制度においても

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「副籍」制度と公教育の本当の理想

「副籍」制度と公教育の本当の理想

学校ってなんだっけフィリピンで2年間学校に通っていなかった重症心身障害児の次女ハルは、小学2年生も終盤になって、日本の小学校に1日体験入学したわけだが、実はその少し前から、来年度以降の日本での就学について、教育委員会と相談を始めていた。

運動機能の発達も知的発達も生まれつき限られていたハルについて、学びについてもあまり期待していなかった。もちろんリハビリや療育を通じてトライしてみたことはあれど、

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はるるん、日本で学校に行く

はるるん、日本で学校に行く

2年3組質問タイムこれは、二学期の終業式前日、地域の小学校の2年3組でのやりとりである。

日本の小学校に体験入学夫とともにフィリピンに暮らし始めてまもなく2年の次女ハル。うまれつき肢体不自由で目が見えない。重い知的障害もあり、いわゆる重度心身障害児に分類される。

現在小学校2年生に該当するが、この2年、フィリピンで学校に通っていない。彼女が学校に毎日通う必要性を親の私達がそこまで感じていなかっ

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私は障害児であるハルのことをよく知っているけど、ハルじゃない障害児のことはよく知らない

私は障害児であるハルのことをよく知っているけど、ハルじゃない障害児のことはよく知らない

みなさん、どうも。こちらの世界ではお久しぶりです。
久々にいろいろな肩書や役割を取っ払って、ただの心の露出狂として、キーボードを叩いています。

最近は、わかりやすい文章の書き方とか、タイトルの付け方とか、SEOとかいろんな話があって。そのどれも大事な話だと頭ではわかるんだけど、あんまりワクワクしなくて、そうこうしているうちに、文章の書き方がよくわからなくなってしまいました。

構成を考えて書くと

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はるるんと、きょうだいと、社会

はるるんと、きょうだいと、社会

刺激の少ない家生活はるるんについて書きたいことが、最近、あまりなかった。

ロックダウン開始後、ハルが通っていた特別支援学校でもオンライン授業が始まったけれど、ハルはなかなかセッションの時間に合わわせて生活のリズムを調整できずにいた。先生や級友やネット環境などの様々な都合で予定通りに開始しないオンラインセッションは、むしろハルにとって負担になることも多く、まるまる夏休みだった6月の終わり、休み明け

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その時はその時だ

その時はその時だ

ロックダウン下のインドに残留3月23日からデリーが、次いで25日からインド全土がロックダウンに入り、駐在日本人の多くは、しばらく様子を見ていたと思う。ロックダウンが延長し、事態が長引く様子をみて、避難便で日本に帰国することに決めたという家族も多いかもしれない。感染の拡大ということもそうだけれど、おそらくいざというときの医療体制が日本の方が安心できる、というのが大きな理由なのだろう。

WHO勤務の

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インドでケトン食療法⑤はるるん、ケトン食をやめた?!

インドでケトン食療法⑤はるるん、ケトン食をやめた?!

お久しぶりのはるるんネタです。

思えば1年前の2月、どういうわけかはるるん、生まれて以来ずっと苦しみ続けていたはずのてんかん発作がまったく消え去ったのだった。あの笑顔にあふれたハルはいったい何だったのか・・・あれから1年経ったのが嘘のようである。

結局発作がなくなったのはほんの1ヶ月のみで、その後は発作は増える一方であり、5月からはケトン食療法をスタートさせた。

一旦は発作も減ったものの、そ

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