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#この経験に学べ

『シェエラザード』(『女のいない男たち』より)

『シェエラザード』(『女のいない男たち』より)

『シェエラザード』(『女のいない男たち』より)
村上春樹

羽原は、何かの理由で「ハウス」という場所で、隠遁生活を送っている。名前不明の女性が週2回彼の元を訪れ、食品を提供し、性的な関係を持つ。

『羽原と一度性交するたびに、彼女はひとつ興味深い、不思議な話を聞かせてくれた。』という言葉で物語は、始まる。主人公の羽原は、彼女の行為を見て、"シェエラザード"(「千夜一夜物語」の主な語り手)と勝手に名

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『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』

『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』

『「死ぬとき幸福な人」に共通する7つのこと』
小澤竹俊著

著者は、1963年東京生まれで、1987年に東京慈恵会医科大学を卒業し、1991年に山形大学大学院医学研究科の博士課程を修了。救命救急センターや農村医療に従事した後、1994年から横浜甦生病院ホスピス病棟にて病棟長を務め、3000人以上の患者を看取った。2006年にめぐみ在宅クリニックを開院し、2015年には一般社団法人エンドオブライフ・

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「独立器官」(『女のいない男たち』その5)

「独立器官」(『女のいない男たち』その5)

「独立器官」(『女のいない男たち』その5)
村上春樹著

著者(僕)の知人渡会(とかい)が、ある女性に恋してしまったことを僕に打ち明けるところから物語が始まる。

なかなか、主題を掴むことが難しいと思った。

渡会は、52歳の男性、六本木で美容クリニックを経営する医師。彼は独身でいることを良しとして、常に2〜3人のガールフレンドとデートをしたり、セックスしたり充実した人生を送っていた。

元々、恋

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『狂人日記』

『狂人日記』

『狂人日記』
ゴーゴリ著

本書は、一言で言えば、主人公の下級官吏ポプリシチンが、精神病患者の日記という体で、この世の官僚や上流階級の俗悪・虚飾を妄想のように語るという物語。

村田沙耶香ワールドの原点は、もしかして、ここにあるのではないか?と思わされるくらいのはちゃめちゃストーリー。

ポプリシチンには、どういう訳だか、犬同士の会話が聞こえてくる。そして、犬同士の手紙のやりとりが、この世の俗悪・

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『外套』

『外套』

『外套』
ゴーゴリ著

主人公は、まじめな、クリスチャンで下級役人のアカーキイ・アカーキエウィッチ。ツギハギだらけの上着を補修しようとしたのだけど、高額の外套を買うことになって、人生で初めて、喜んでいた。お披露目パーティーの帰り道で、外套が、引ったくられてしまう。悲しみにくれているうちに、病気になって死んでしまう。そして、幽霊となって復讐するという話。

格好ばかりで、何もしない高級官僚を批判した

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『国境の南、太陽の西』

『国境の南、太陽の西』

『国境の南、太陽の西』
村上春樹著

再読版

一人っ子で不完全な自分に悩む男性ハジメが、小学校時代に好きだった島本さんという女性と大人になって再会し、希望、絶望、理想、現実の間をだらだら、揺れ動くという物語。読んでいて、主人公ハジメの身勝手な態度に頭にくる部分は多いのだけど。

「国境の南」とは、通常、メキシコやラテンアメリカ諸国を指す言葉。アメリカとラテンアメリカとの文化的あるいは地理的な分断

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『円弧(アーク)』

『円弧(アーク)』

『円弧(アーク)』
ケン・リュウ著

再読版

人類で初めて不老不死になった女性リーナの生涯の物語。

映画化もされているのだけど、映画は観てません。

16歳で子供を産んで、18歳で子供を捨てて、遺体を芸術的に保存する会社に勤めて、ひょんなことから、30歳で、永遠の命を得る。

様々な、分野の勉強をして、博士号をいくつも取得して、とにかく、見た目は30歳という何とも羨ましい世界。そうしているうち

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『バイナリー彼女』

『バイナリー彼女』

『バイナリー彼女』

宇佐川昭俊著
著者の実体験に基づいた小説。

発達障害から、精神疾患を患ってしまうというひとは、けっこうな数、いるのだと思う。

最近は、耳が聞こえないひとを取り上げた恋愛ドラマが流行っているけれど、話の中の恋愛もかなか現実的で切なさを感じさせられた。

私自身は、年代的に、「出会い系サイト」での出会いには、抵抗を感じてしまうが、机上で、恋愛感情を持つことも、今の社会だとあり

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『1984』

『1984』

『1984』
ジョージ・オーウェル著

1949年に発表されたいわゆるディストピア小説。

核戦争後の1984年の世界を舞台に、オセアニアという国家に住む主人公ウィンストン・スミスの日常が展開される。

ビッグ・ブラザーと呼ばれる党首が絶対的な権力を握り、テレスクリーンという監視器や思想警察によって人々の行動や思考が厳しく管理されてる。

ウィンストン自身は、党の都合に合わせて歴史や事実を改竄する

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『わたしを離さないで』

『わたしを離さないで』

『わたしを離さないで』
カズオ・イシグロ著

(再読版)

物語は、主人公のキャシー・Hは、孤児院の友人たちと一緒に、生き方を模索する。孤児院の子供達は、次第に自分たちがどのような運命に置かれているのかを知る。彼らは粛々と、死ぬ運命を受け入れつつも、希望を捨てずに生きる、という話。

普通の教育を受けているのだから、自分の運命を知ると発狂するものではないのだろうか?とか、思ってしまったのだけど。

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『白痴 3』

『白痴 3』

『白痴 3』
ドストエフスキー著
亀山郁夫 訳

登場人物が多くて難解な作品で、ムイシユキン公爵、ロゴージン、イッポリートがナスターシアとアグラーヤという美女を巡る複雑な三角関係が展開される。

文章には独特の引力があって、理解が難しいものの、魅了される。 2度読みしているのに、なかなか理解が難しい。

愛情深く破滅的なナスターシア。
世界をひっくり返す美しさとされるアグラーヤ。

ムイシュキン公

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『マリーの愛の証明』

『マリーの愛の証明』

『マリーの愛の証明』
川上未映子著

マリーは「死ね」という言葉を使うことができなかった。もちろん口に出すことはできないし、頭で考えることもできない。そんなマリーはミア寮というところで暮らしている。最近別れた元恋人カレン(女性)から、自分のことを愛していたのか?と問われる。という話。

何だこれは⁇なのだけど、案外深い話なのだと思った。

キーワードとして、「虐待」,「愛情」で、検索してみた。そう

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『ドグラ・マグラ』

『ドグラ・マグラ』

『ドグラ・マグラ』
夢野久作著

この小説を読破した者は精神に異常を来すと言われている。
(今のところ大丈夫だけど)

極論すると、記憶喪失の青年の1日の物語なのだけどね。

あらすじとしては、

呉一郎という青年が、母親と婚約者モヨ子を殺してしまう。その動機は不明。それは、家族の絵巻物と先祖の呉青秀の影響によって、変態的な性欲が遺伝的に子孫に伝わっているいるため起こってしまったと説明されている。

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『THE LEGEND & BUTTERFLY 』

『THE LEGEND & BUTTERFLY 』

THE LEGEND & BUTTERFLY 』(角川文庫)

●矢野 隆:ノベライズ
●古沢 良太:映画脚本

戦乱の時代に咲く、淋しい愛―信長と濃姫、運命の絆が紡ぐ伝説の物語。

歴史の謎につつまれた、信長と濃姫の愛と激動の物語。

物語は、織田信長と美濃の濃姫という二人の政略結婚から始まる。当初、二人の仲は険悪だった。運命の流れの中で次第に強い絆が生まれていく。

信長というのは、本当に鬼だ

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