原文 信言は美ならず、美言は不信なり。 善者は弁ぜず、弁者は不善なり。 知者は博からず、博者は知らず。 聖人積まず、既く以って人に為すが、己いよいよ有し、既く以って人に与えるが、己いよいよ多し。 天の道、利して害せず。 聖人の道、為して争わず。 解釈 信用できる言葉は、飾り気がない。 飾り気のある言葉は、信用できない。 真の知者は博識ではなく、博識な者はその本質を知らない。 聖人は自分の所に貯めこまず、全て人のために使うが、それによってますます得るものが多くなる。 天
原文 小国にして民少なし、使うに什伯の器あるも用いず。 民、死を重んじて遠くに徒らず。 舟有りといえども、これ乗る所なく、甲兵有りといえども、これを陳ねる所無し。 人をしてまた縄を結び、これを用いず、その食を甘とし、その服を美とし、その居を安とし、その俗を楽しみ、隣国相望み、鶏犬の声相聞こえども、民をして老死に至るまで相往来せず。 解釈 人口が少なくて小さな国、たとえ逸材がいても活躍するときがない。 国民は生きることを大切に思い、その答えを遠くに求めない。 舟があっても
原文 大怨を和すれば必ず余怨あり。 善を以って為しやすくすべし。 これを以って聖人、左契を執りて人を責めず。 徳有りて契を司り、徳無くて徹を司る。 天道は親無し、常に善人に与す。 解釈 大きな恨みを買って和解しても、必ず恨みは残るものだ。 常に善を行うよう心がけ、人から恨みを買わないようにするべきだ。 これを以って聖人は、約束を違えても人を責めない。 徳があれば、約束事を融通のきくものとするが、徳がなければ、税金を取り立てるように冷徹になる。 天の道には親のようなえこひ
原文 天下に水より柔弱はなし。 而して堅強を攻むるはよくこれに勝るものなし。 以ってそのこれを易えるを以って無し。 弱が強に勝ち、柔が剛に勝つ、天下に知らざるものなし、よくこれを行うもなし。 これを以って聖人は云う。 「国の垢を受ける、これ社禝の主といい、国の不詳を受ける、これを天下の王となす。」 正しき言は反のごとし。 解釈 天下に水より柔弱なものはない。 しかし、堅くて強いものを攻めるときは、水に勝るものはない。 水以外には考えられない。 弱いものが強いものに勝ち、
原文 天の道はそのさらに弓を張るがごときか。 高き者はこれ抑え、下の者はこれを挙げる。 余りある者はこれを損し、足らぬ者はこれを補う。 天の道は余り有るを損して不足を補う。 人の道はすなわち然らず、足らざるを損し、もって余り有るに奉ず。 たれかよく余り有るを以って天下に奉ぜん。 ただ道にある者のみ。 これを以って聖人、為して恃まず、功なりておらず、その賢を見せること欲せず。 解釈 天の道は弓を張るようなものだ。 長い弓はたわませて縮め、短い弦は引いて広げる。 余裕のある
原文 人の生は柔弱なりて、その死は堅強なり。 草木の生は柔脆なりて、その死は枯縞なり。 故に堅強は死の徒、柔弱は生の徒なり。 これを以って兵強ければ滅し、木、強ければ則ち折れる。 強大は下におり、柔弱は上におる。 解釈 人は生きていれば柔らかく弱いものだ。 死ねば、硬くこわばってしまう。 草木は生きていれば、柔らかく脆いが、死んでしまえば枯れてひからびる。 ゆえに堅く強いものは死に近く、柔らかく弱い者は活き活きとしている。 これを考えれば、兵も強ければ滅んでしまうし、木
原文 民の餓えるは、その上の税を食むことの多きを以ってなり。 これを以って餓える。 民の治め難きは、その上の為すことを有るを以ってなり。 これを以って治め難し。 民の死を軽んずるは、その上の生を求めることの厚きを以ってなり。 これを以って死を軽んず。 それにただ生を以って為すこと無き者は、これ生を貴ぶより賢きなり。 解釈 人民が餓えるのは、税金が高すぎるからだ。 これでは、生活できない。 人民を治めにくくするのは、政治がいろいろやらせるからだ。 これでは人民の抵抗を招く
原文 民、死を畏れずば、何を以ってこれ死を懼れしめん。 もし民を使い、常に懼れさせれば、而して奇を為す者は 吾、これを執ってこれを殺すも、たれか敢えてせん。 常に司殺者ありて殺す。 それ司殺者に代わりて殺す、これ大匠に代わりて斵るという。 それ大匠に代わりて斵る者は、その手を傷つけずということは希なり。 解釈 人民が死を恐れないなら、何を以って死をおそれさせたらいいだろうか? もし人民を常に恐れさせれば、重大な罪を犯した者を、私は捕えて死刑に する。しかし、人民が死を恐
原文 敢えて勇なるは則ち殺、敢えて勇になさざるを得んならば、則ち活。 この両者は或いは利、或いは害あり。 天のにくむ所、たれかその故を知らん。 これを以って聖人、なおこれを難しとす。 天の道は争わずして善く勝ち、言わずして善く応じ、召さずしておのずから来、禪然として善く謀る。 天網恢恢、疏にして失わず。 解釈 勇んで空回りする者は殺される。やむを得ず勇気を振り絞る者は、活きる。 この両者、利害にこだわれば、いずれにしても殺される。 天の差配は、だれにもわからない。 これ
原文 民、威を畏れざるは、則ち大いなる威の至りなり。 その居る所に狎れることなかれ、その生まれる所を厭うことなかれ、それただ厭わず、これを以って厭わず。 これを以って聖人、自らを知りて自らを見ず、自らを愛して自らを貴ばず。 故に彼を去りてこれを取る。 解釈 人民が君主の権威を畏れずに暮らしているなら、それは君主の最高レベルの権威である。 人民のいるところを軽視してはならない。 人民の動きを軽視してはならない。 ただ、人民の意見や動静を軽視しないということ。 これを以って
原文 知らぬを知るは上、知るを知らざれば病。 それただ病を病となす。 聖人は病ならず、その病を病を以ってす。 これを以って病ならず。 解釈 自分が知らないということを知っているのは、レベルの高い知者であり、知っているということはどうゆう事なのかを知らない者は、病気である。 知っているという事はどういうことなのか知らないということを病気とすることを知らない者は、病気である。 聖人は病気ではなく、知らないことを知っているということを病気となすことを、知らないということを病気
原文 吾言は甚だ知り易く、甚だ行い易し。 天下よく知ることなく、よく行うことなし。 言に宗あり、事に君あり。 それただ知らず、これを以って我知らず。 我を知る者は希なり、我に則る者は貴し。 これを以って聖人、褐を被りて玉を懐く。 解釈 私の言葉はカンタンで、すぐに行える。 しかし、天下の人々は理解できず、実行する者もない。 言葉には法則があり、何事を為すにもリーダーがいる。 それを知ろうともせず、それゆえに私のいう事を理解できない。 私の言う事を理解するものはまれであり
原文 兵を用いるに言有りて、吾あえて主と為さずして客と為し、あえて寸を進みて尺を退く。 これ無行の行と言い、無臂を攘い、無敵につき、無兵を執る。 禍は敵を軽んずるにおいて大なるは、なし。 敵を軽んずれば、いくらでも吾宝を失う。 故に兵で抗すこと、相のごとくなれば、哀しむ者が勝つ。 解釈 兵を用いるにおいて、こんな言葉がある。 「こちらはあえて戦いをしかけず受け身でいて、あえてわずかに進んでは大きく退く。」 これを無行の行と言い、見えない腕を振るい、見えない敵に付き、見え
原文 善く士たる者は武ならず。 善く戦う者は怒らず。 善く敵に勝つ者はあらそわず。 善く人を用いる者はこれ下にあり。 これを不争の徳といい、これを人の力を用いるといい、これを天の極みに配すという。 解釈 善なる士は、武力を使わない。 善なる戦士は、怒らない。 善く敵に勝つ者は、争わない。 善く人を使う者は、へりくだっている。 これを争わずの徳といい、人の力を使うといい、天の法則という。 コメント 武術家は、相手と同じ場所に立っていない。 あくまで自分の道を真っ直ぐ行
原文 天下皆、我が道大なるも不肖に似るという。 それただ大、ゆえに不肖に似るなり。 もし肖なれば、久しいかな。 その細なることや。 我に三宝あり、持ちながらこれを保つ。 一に曰く慈、二に曰く倹、三曰くあえて天下に先んずることなし。 慈、ゆえによく勇なり。 倹、ゆえによく広し。 あえて天下に先んずることなし、ゆえによく器長となる。 今、慈を捨てて、かつ勇ならんとし、倹を捨てて、かつ広からんとし、後を捨てて、かつ先んじ、死すかな。 それ戦を以って慈しめば、則ち勝ち、守りを以って
原文 江海、よく百谷の王者たるゆえんは、その善、これ下るを以ってなり。 ゆえによく百谷の王となる。 これを以って民に上たらんと欲すれば、必ず言を以ってこれを下り、民を先んぜんと欲すれば、必ず身を以ってこれに後るる。 これを以って聖人は、上に居りても民は重しとせず、前にいても民は害とせず。 これを以って天下を楽しみて推すといえども厭わず。 その争わずを以ってゆえに、天下、よくこれと争うことなし。 解釈 大河や海が、多くのものを生み出し育むのは、その善行が、集まる水の下流だ