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毎日ちょっとだけ連載小説|水深800メートルのシューベルト

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連載で小説を始めてみました。一話をかなり短く(200文字くらい)毎日ほんの少しずつ進める予定です。 読んで頂けると嬉しいです。
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2024年3月の記事一覧

水深800メートルのシューベルト|第867話

 余計なことを考えているうちに、集中してようやく盛り上がってきた感情が搔き乱され、ついそ…

吉村うにうに
8か月前
3

水深800メートルのシューベルト|第866話

僕はサイコパスかもしれないと思った。ママの棺が大きな深淵に沈められるときも涙は出なかった…

吉村うにうに
8か月前
7

水深800メートルのシューベルト|第865話

彼はひと呼吸おいてつけ加えて言った。 「ダカーリは気の毒だったと思う」  軍を辞めたことに…

吉村うにうに
8か月前
3

水深800メートルのシューベルト|第864話

 はっきりと約束していない約束。秘密かどうかわからない秘密。そんな曖昧なものが僕を縛って…

吉村うにうに
8か月前
3

水深800メートルのシューベルト|第863話

隠そうかどうか迷ったが、どうせ彼とは余程の運がなければもう会うこともないだろう。そう思っ…

吉村うにうに
8か月前
6

水深800メートルのシューベルト|第862話

 突然、電灯が消えた。消灯時間になったのだ。いつの間にか体が震えて兵舎がうすら寒くなった…

吉村うにうに
8か月前
6

水深800メートルのシューベルト|第861話

 まだほんの十数分前の、耳に残った彼女の言葉と唇の塩味が僕を捉えていた。提案を断って海軍を辞めるのがさほど簡単ではないように思えてきた。確かに、ゲイルさんも言っていたように、希望を失くして全てが面倒臭くなったとしても、人間、何かをして生きていかなければならない。僕も行き詰ったらブリッジから身を投げたらいいのだろうか? それで解決するのだろうか? その時、水の恐怖が甦り、慌てて溺れた時の苦しさを追い払おうとした。  生きるのも消えるのも難しいなら、トリーシャの言うように流され

水深800メートルのシューベルト|第860話

 彼女が立ち去ると、もはやランニングに戻る気力を失くしてしまった。彼女に与えられた宿題を…

吉村うにうに
8か月前
4

水深800メートルのシューベルト|第859話

「急には決められないよ、だって……」  そう言いかけた時、彼女は僕の手を強く引き寄せ、唇…

吉村うにうに
8か月前
4

水深800メートルのシューベルト|第858話

  彼女は僕の返答を待たずに続けた。 「あなたの住んでいる家を引き払ってさ。サンディエゴ…

吉村うにうに
8か月前
2

水深800メートルのシューベルト|第856話

「トリーシャは、どうして僕なんかに? 好きだったとか……」  それを訊くと、怒ったように…

吉村うにうに
8か月前
5

水深800メートルのシューベルト|第855話

「アシェルは、このまま除隊したら、自分を保てなくなる。そう思うのよ」  彼女は懇願するよ…

吉村うにうに
8か月前
6

水深800メートルのシューベルト|第854話

「からかってる?」  そう訊かれると、彼女は真面目な顔になった。 「いいえ、本気よ」 「だ…

吉村うにうに
8か月前
2

水深800メートルのシューベルト|第853話

 突拍子もない話を聞いて、頭がおかしくなったのは、僕なのかトリーシャなのかわからなくなった。混乱したまま彼女の瞳を見つめていると、手をそっと握ってきた。引っ込めようと思ったが、彼女はそれを強く握って離そうとしなかった。 「私からあなたに生きる目標を与えてあげる。あなたはアビアナの父親として生きていくの、いいわね」  おかしいのはトリーシャだと気づき、ようやく手を振りほどいて、言葉を発した。 「ちょっと待ってよ。そんな話、承服していないよ。つまり……君が言う意味は……」