吉村うにうに
連載で小説を始めてみました。一話をかなり短く(200文字くらい)毎日ほんの少しずつ進める予定です。 読んで頂けると嬉しいです。
記事を採用して頂いたこと、ちょっとしたラッキーなことを載せていきます。
ここでは、自分の来歴、小説執筆のスタイル、これまでに学んだこと、作品の解説、受賞コメントなどを載せています。自分語りもちょいちょい混ざっております。
毎月一度「純文学風」の掌編小説を乗せるつもりです。 オチなし、文体にこだわる、心理描写減らす、会話文の最後に〇をつけるスタイルです。
創作大賞2024応募用する猫小説です。
ここ数年、毎日小説やエッセイを書いている。それに加えて読書や文体模写、物理の勉強も行っているが、これらのやり方が、他の人から見れば相当変わっているのだと自覚している。どのように変わっているか、ここで、朝のルーティーンを例に出してみようと思う。 週の半分くらいは近所のカフェで朝を過ごす。まず、カフェで注文を出してから、フローベールの「ボヴァリー夫人」を十二ページ読む。続いて、「記憶の深層」を十二ページ続けて読む。すると、このころに注文した紅茶とパンケーキとサラダが揃う。し
それほど酸素残量に不安があるのだろうか? それとも騒ぎがあったというが、反乱に近いもので、命令で抑え込まないといけない類のものだったのだろうか? 僕はセペタに問いかけるような視線を送ったが、反応はなかった。 「では、この命令は一二〇〇より施行とする。いいな」 最後は士官らしく毅然とした調子で告げると、中尉はそそくさと出て行ってしまった。 セペタはロバートの真向かいのベッドにへたり込むようにして座り、頭を抱えた。 「おい、元気出せよ。後十二分喋れるじゃねえか。お前のお
これは命令だ。ノーマン中尉はただそれを伝えに来ただけだと。しかし、会話禁止と言うストレスが溜まるだけで効果の期待できない命令を素直に聞く気にはなれなかった。きっとセペタやボブも同じ気持ちだろう。上官の命令には忠実で、口を挟むことを決してしないセペタでさえ「イエス」と即答せず、困惑したような顔をしていた。しかし、発せられた命令には従うしかない。誰もが同じ事を考えていたと思う。 中尉は僕らを見て咳払いをした。 「まあ、数日の辛抱だ。コミュニケーションは、ハンドサインや文字でや
妻は咳で肋骨を折ってダウン、私は走行中に車をパンクさせるという、天中殺のような一日でした。この日、妻は買い物も料理もできないということで、自分の晩御飯は自分で用意することに(妻と子は私が帰る前に外食です)。先日の余った肉を使ってステーキ丼作りました。旨い!サラダは別に食べました。
「い、いや喋るなって、無理ですよ。勤務にならない」 「勤務中は上官の許可があればよい」 セペタの反論に、技術中尉は苦しげに答えた。 「それじゃ、休憩中はずっと話ができないって言うんですか? ゲームしか、する事がありませんよ」 「その通りだ」 ボブの不満げな声にも、中尉は答えていた。 「馬鹿馬鹿しい。それで酸素がどれ位節約できるっていうんですか? 中尉殿はそんな滅入れに意見具申さえしなかったんですかい?」 ロバートは軽蔑したような目をしていたが、それ以上は言わなかった
「艦が着底して救援を待つことになった。現状では酸素はたっぷりあるが、長期の待機に備えねばなるまい」 「水は大丈夫ですか? シャワーや洗濯、飲料水の制限が出るなんて事は……」 セペタがノーマン中尉に、心配そうな顔を向けた。 「そちらは命令が出ていないが、大丈夫だろう。魚雷発射管に使うための補水タンクは手つかずのはずだ。あの真水が予備として使用可能だ」 中尉は咳払いをして、口の周りのうっすら生えた髭を、腕に彫った青い女性の顔で拭うようにしてから続けた。彼が告げた指示事項は、
「おや、珍しい方が来ましたね。ところで、原子炉はどうなりました、中尉殿?」 ロバートは、彼がなぜここにやって来たかさっぱりわからない、といった顔をしていた。 「今は、原子炉の関係できたわけじゃない」 もしかしたら、再起動を告げに来たのかもと、淡い期待を込めて、ベッドから身を乗り出しかけたが、すぐに浮いた腰を落ち着けた。中尉は首を巡らせ、この部屋に僕らしかいない事を確認すると、小声だが毅然とした調子で告げた。 「艦長命令を伝えに来た。君達は発令所で騒ぎがあったのは、知っ
「せめて、海上に味方が来るまで待とうよ」 僕は宥めるように言った。彼はこっちを見つめて、すぐに下を向いた。 「畜生! 俺は何もしてねえのに!」 その時、通路から部屋に漏れていた仄かな光が遮られたので、みんなが一斉に開け放してあるハッチの方を見た。光を塞ぐ人影があった。闇に目を凝らしてみると、ついこの間見た顔だと気づいた。原子炉操作士官のノーマン中尉だった。 「はい、お喋りはそこまでだ」 彼は残念そうに言いながら、居住区を珍しそうに見渡した。アフリカ系で、体幹は太くな
「なんて無謀な奴だ。どのみちあれが使えるのは水深二百メートルまでだ。たしかトラブルが起きたのは四五百メートル地点だったから、もっと深いところに着底したかもな。脱出筒は多分持たない」 ボブが、呆れたように言った。 「無理だって。ロバートも本当はわかっているんだろう?」 セペタが話を引き取った。 「それに万一、水面に出られたとして、どうする? 南太平洋の暗い波間に永遠に漂流することになるぞ。捜索も困難だろうしな。低体温か、餓えで死ぬだけだ」 「うるせえよ。こんな海底で日も
「脱出用装具を被って、脱出筒で出る気か? よく考えるんだな。水圧で押し潰されるか減圧症にかかるかして終わるだろうぜ」 僕は、一度だけ説明を受けた脱出法の話を思い出した。頭のフードと救命胴衣がセットになったオレンジ色の装具を試しに着たことがあるが、あんな頼りないもので、脱出したところで……。僕なら、その後待ち受ける運命を想像するだけでとても乗る気になれないと思い、小さく首を振った。 セペタが口を開いた。 「個人脱出は最後の手段だ。それまで救援を待てばいいんだ。慌てるなよ
「ASRを要請したから来ると思うよ。それまで、バッテリーと酸素発生装置を持たせて……」 僕はそう答えた。 「それは正確じゃないな。我が国のASRは退役しているからな。イギリスあたりはASRを提供するかもしれないが。もし政府が派遣するとしたら、別の原潜か航空機が運んでくるチェンバーかDSRV(深海救難艇)だろうね」 ボブは僕を見ながらそう説明した。 「どこでもいいから早く来やがれ」 ロバートがうんざりしたように言った。 「それとも、こっちから出て、海面で待ってやろうか
もう十五年にもなるだろうか。引っ越してきた頃、突然奥歯が痛くなった私は、慣れない土地で口コミサイトを頼りに歯科医を探して予約を入れた。歯科医に行くのは大学生の頃、被せ物をしてもらって以来で、面倒だけれども放置しては鬱陶しいと思い、勇気を振り絞ったのだ。 さいたま市の街中にある歯科医に予約時間に行き、診察の背もたれ付きの椅子に座ると、若そうに見える院長は予想外の事を言った。 「このまま歯の治療に入ってもいいですが、まずは口内環境を整備、つまり歯周病を抑えてから歯の治療し
「まだ決まったわけじゃない。それに、食料も酸素もまだあるんだ。バッテリーも原子炉の復旧までは持つだろう。それまでは不安だろうが、なあに、中世の蝋燭や灯火しかなかった時代を想えばどうって事はない」 「俺の家は、よく電気を止められたんだ。暗かったが、親父が発電機を回してくれておかげで真っ暗という事はなかったな」 ロバートが調子を合わせるように言った。 それきり、みんな黙りこくってしまった。セペタは柵の切れ目から両腕を回して抱きかかえるようにし、一段下のベッドを見つめていた。
「嫌なら、ロバートには退室してもらってもいいんだぞ。それとも歩けるなら医務室まで肩を貸しても……」 僕は首を振り、三人の顔を順に見て言った。 「もう、荒くないよ。ごめんな、色々喋ったみたいで」 「まったくだ。お前が俺と自分の親父をとことん嫌っているとはな」 ロバートが冗談めかして言うと、ボブは肘で彼を突いていた。しかし、彼はその肘をどけるようにして続けた。 「ふん、ユースレスなんかが嫌ったところで、気にはしちゃいないがな」 そして、更に何かを言いたげにしていたので、
「いいんだよ。もう平気さ、ロバート」 僕は彼の目を見た。暗がりに見える緑の目は微かに震えているようだった。彼は頭を掻いて、 「お互い、フラストレーションが溜まっていたようだな。俺も怒り過ぎたな。何しろ、アシェルが歯向かってくるとは思わなかったから驚いちまった」 と、ボブの肩越しに首を伸ばしてこちらの様子を窺うようにしていた。その表情は照れたようでもあり、暴力的になった事への気まずさを感じているようでもあった。 「呼吸は速くないか、アシェル?」 セペタがゲイル先生に指示
はじめに こんにちは、吉村うにうにです。普段は長編小説、ショートショート、エッセイ、詩などを書いております。例えばこんな作品です。 今回は、第一回京都やおよろず文学賞の表彰式に行って参りました。表彰式をオフラインで参加するのは人生二度目です。一度目についての記事はこちら きっかけは入選のお知らせ 京都を舞台にした短編小説の募集に、応募したのは締め切り当日の23:59分でした。決して舐めていたわけではなく、それまで2週間余り、アイデアが浮かばず苦戦していて、ようやく閃い