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水深800メートルのシューベルト|第860話
彼女が立ち去ると、もはやランニングに戻る気力を失くしてしまった。彼女に与えられた宿題を抱えたまま兵舎に戻るしかなかった。憂鬱な気分で鉄の扉を開けると、時が泊まったように外から聞こえていたざわめきがしんと鎮まり、一斉に何人かの視線が僕に集まってくるのを感じた。左斜め前の僕のベッドの下ではエウヘニオが座っていて、目が合うと肩をすくめてみせた。
「デートは楽しめたかい? 二人きりにしてやったんだぜ」
冗談めかして言っていたが、顔は笑っていなかった。こちらも冗談めかして答えた方がいいのかわからず、黙って梯子に手を掛け、自分のベッドまで登った。すると、そこかしこで話し声が響き渡り、僕だけが疎外されたように時が進みだした。