水深800メートルのシューベルト|第864話
はっきりと約束していない約束。秘密かどうかわからない秘密。そんな曖昧なものが僕を縛っているようだった。しかし、その縛りは、僕がひとりぼっちでない証しであるようにも思えた。仄かに温かみのある束縛。一緒に暮らすのは悪くないかもしれない。
「で、アシェル。お前の返事は?」
その声には、何かを期待するような調子が含まれていた。
「返事はしていない。でも家賃が安いのは魅力だね。オークランドのアパートは引き払ったし」
僕が答えると、彼はちょっと嬉しそうな声で言った。
「どうやら海軍は辞めないようだな? 君はクラムジーだから心配してたんだ。噂では色々言われただろうが、気にするな。もう済んだことだ」
彼が、僕があの事件を起こしていないと信じているのだろうか? どうでもいいといった口ぶりに聞こえた。