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水深800メートルのシューベルト|第863話

隠そうかどうか迷ったが、どうせ彼とは余程の運がなければもう会うこともないだろう。そう思った。


「そうじゃないけど。海軍を辞めるなってさ。それと、同居して欲しいって」
「おい……辞めるって? いや、それより同居?」
 声にはちょっとした動揺と驚きが含まれていた。僕は慌てて取り繕った。
「ルームメイトを探しているんだよ。家賃が浮くからね」


 父親代わりの話はしなかった。彼女に子どもがいることを、他の訓練生が知っているかどうか、彼女に訊いたことはなかったし、周りからそのような噂を耳にしたこともなかった。シングルマザーだということが知れ渡ったとしても、それほど珍しい事ではないのだが、もしかしたらトリーシャは僕だけに打ち明けたのかもしれないからだ。

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