水深800メートルのシューベルト|第866話
僕はサイコパスかもしれないと思った。ママの棺が大きな深淵に沈められるときも涙は出なかった。ゲイルさんは枯れたように見える顔からも絞り出すように涙を流していたというのに。僕がパパを失った時よりも幼く見える息子の両肩に手を置いてまま、しゃくり上げていた。ジョーと呼ばれたその子は、何も知らずに父親の顔を不思議そうに眺めている。そんな光景を見ても、心に穴の空いた感覚がしただけで、込み上げるものは何もなかったのだ。
ようやく、ベッドの上で泣けそうな気がしてきた。しかし、ここで声をあげるのはみっともないし、嘘だという気がしていた。そう、本当はママが居なくなって悲しんでいるのではなく、エウヘニオとの別れや、自分が取り残されることを嘆き悲しんでいるような気もしたのだ。それに、周囲にそう思われるのは何よりも嫌だった。