水深800メートルのシューベルト|第853話
突拍子もない話を聞いて、頭がおかしくなったのは、僕なのかトリーシャなのかわからなくなった。混乱したまま彼女の瞳を見つめていると、手をそっと握ってきた。引っ込めようと思ったが、彼女はそれを強く握って離そうとしなかった。
「私からあなたに生きる目標を与えてあげる。あなたはアビアナの父親として生きていくの、いいわね」
おかしいのはトリーシャだと気づき、ようやく手を振りほどいて、言葉を発した。
「ちょっと待ってよ。そんな話、承服していないよ。つまり……君が言う意味は……」
彼女はにっこりと笑って「そうよ、君と私は結婚するの、まずは一緒に暮らしましょう」と言った。