木露尋亀ノノート

木露尋亀のノートです。

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ノノートノート

2022/07/11 尋亀ツイノベよりぬきノノートの2投稿 2022/03/19 小小説「籤」公開 2022/01/30 小小説「アドバルーン」「白鳥の湖」公開 2021/1121 twnovel 朗読動画を2本投稿。ツイッターノベル用のマガジン開設。 2021/1120 twnovel no.084「切符を拝見」朗読動画を投稿。 2021/1024 tobe小説工房落選作「コーヒーゼリー」 公開。 2021/1012 アイコンを変更。(ツイッターと統一しました)

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      イメージ用のストック集ノノート230608

      • 見たことのない絵

        「たのしみだなあ」少年は白い包帯で覆われた目で遠くを見るようにしてそういった。  もしかすると少年はそのときすでに、包帯の下で閉じられた瞼越しに淡い光を感じていたのかもしれない。包帯が取れたらパリのルーブル美術館へ行いけるのだ。そして夢にまで見たモナリザを見ることができるのだ。「たのしみだなあ」少年はまた遠くを見るように、まるでそちらの方向にパリがあるように顔を上げてそういった。  少年は生まれながらにして盲目だった。医者は、移植手術を受ければ目が見えるようになる可能性はあ

        • ローカル線の旅

           ピリンピリンピリンピリンピリンピリン  エコーのかかったようなホイッスルの音にはっとして反射的に列車から駆け下りたが、自分が寝ぼけていたことに気がついたときには、もう、深緑色の車両は動き始めていた。幸いリュックは手にしっかり握られていて、忘れ物はしていない。朽ちかけたコンクリートが周囲の自然と見事に調和しているプラットホームには、「たつのみや」と駅名の書かれたサビの浮いた看板が立っていた。  最近世間では、休暇は無理にでも消化しなくてはならない、という新しいルールが追加され

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        • ショートショートノノート
          14本
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          14本
        • 後で読む
          1本
        • ストックフォトブック
          1本
        • best of 尋亀2020 渦
          11本
        • vest of 尋亀 2019
          15本

        記事

          流れ星

           宇宙ステーション・そらの人工知能は、今日も補給船からの連絡を待っていた。  嘗てそらには大佐以下七人のクルーが常駐していたのだが、現在のそらは無人である。ただグルグルと地球の周りを回りながらクルーの帰りをずっと待ち続けていた。  そらにクルーが常駐していた頃、月に一度の補給船はクルーの何よりの楽しみだった。新しい味の宇宙食、諸々の生活用品、壊れた機材のパーツ、そして交代のクルー。そらでの半年の勤務が終了したクルーは、毎月ひとりずつ交代で地上へ帰って行く。クルーは皆自分の勤務

          回文ショートショート・サンタクロースの実存

          呼ぶよ。トナカイ、行かなと。サンタさんサタンさと。仲いいかなと。呼ぶよ。  サンタクロースは煙突から家の中に入ってくるという話にはあまり現実味がなく、そのことがサンタクロースの存在を否定する根拠とされるケースがまま見受けられるが、いうまでもなくそれは間違いである。一体どういうわけでそのような話が広まってしまったのか、いまとなっては確かめようもないのだが、あるいはそのような荒唐無稽なストーリこそ、サンタクロースという存在の神秘性と非合理性を受け入れるために人々によって生み出さ

          回文ショートショート・サンタクロースの実存

          回文ショートショート・ 柿太郎

          蔵暗く 鹿、案山子、狗ら苦楽 くらくらくしかかかしくらくらく 上 案山子とイヌ  柿から生まれた柿太郎  あられぽりぽり鬼退治  あらあら鬼さん泣き出した  柿太郎印の柿あられ  鬼の格好をした売り子がそんな唄をうたいながら、タレの焦げる匂いをプンプンさせた屋台を引いて歩くと、屋台の後には子供たちの長い行列ができた。子供たちが面白がって鬼に合わせて唄うと、今度は大人たちまで何事かと窓から顔を突き出した。タレの焦げるいい匂いがする。お試し品をちょっとつまむ。ピリ辛で南蛮風の

          回文ショートショート・ 柿太郎

          老人とカエル

          「ひと雨来そうだな。」見回りボランティアの詰め所の窓から覗くと、空には厚い雲がたちこめていて、老人は半透明の雨ガッパを羽織って詰め所を出た。  見回りボランティアというのは、地域の高齢者有志が当番制で地域を巡回する、軽い運動を兼ねた社会活動だ。公民館にある見回りボランティアの詰め所は、体(てい)の良い寄り合い所になっていた。とはいえ、下着ドロボーを発見したり、遅くまで遊んでいる子供に声をかけたり、徘徊老人を保護したり(それはメンバーの顔見知りだった。)それなりの実績もないわけ

          回文ショート・ショート/時計塔

          時計叫ぶ、今朝、行け!と。  その小さな市には、市の規模からすればやや不釣り合いなくらい大きな古い時計塔があった。その麓にひとりの男の赤ん坊が捨てられていたのは、いまから何十年も前のことである。赤ん坊は時計塔の管理人夫婦によって発見され、そのまま、子供のいなかった夫婦に引き取られた。ところがいったいどういう訳か、管理人夫婦は赤ん坊に名前を付けるのを忘れていて、赤ん坊のことをただ”坊や”と呼んでいた。そんなわけで近所の人たちも、その赤ん坊のことを”時計の坊や”とか”時計小僧”

          回文ショート・ショート/時計塔

          マイネームイズマイナンバー

           あたしの名はルナ。美少女戦士。黒い霧一味からこの世界を護るため、放課後になると同じ学園の仲間と一緒に戦ってる。  ところでなんで美少女が巨大な悪と戦わなきゃならないか、君たち真剣に考えたことある?その秘密はね、恋するパワーにあるって思うんだ。ほら、恋ってすごいエネルギーの塊みたいなもんでしょ。だから恋する乙女のパワーは最強なんだよ。  そりゃもちろん男の子だって恋はするだろうけど、なんとなく恋する乙女の方がサマになるっていうか、絵になるっていうか。あたしの言いたいこと分かっ

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          帽子の似合う叔父さん

           母の叔父に当たる吾郎叔父さんは、いつも贔屓のチームの野球帽を被っていたので、子供の頃、私は叔父さんのことを帽子のおじさんと呼んでいた。比較的近所に住んでいた叔父さんは、父親のいない私を気遣ってか、頻繁に我が家に遊びに来ては、父親代わりに私の遊び相手になってくれたものだった。  いつもは野球帽を被っていた叔父さんだったが、葬式や結婚式など少しかしこまった集まりのある時は、黒いニット帽を被っていることもあった。ただ一度だけ、外国の探偵が被るような帽子を被って家に遊びに来たことが

          帽子の似合う叔父さん

          大魔王とゴマくん

          「おーい、誰かおらんのか。」 大魔王が煙になって壺の中から出てみると、外は真っ暗でそこに人の気配はなかった。  大魔王は自分を呼び出した主人の願いを三つ叶えなければ壺に帰ることは赦されない。それが大魔王にかけられた呪いなのだった。  大魔王は途方に暮れ、小さくなって壺の口に腰掛けた。 「もしもし。」  そう呼びかける声がして大魔王が振り返ると、闇の中に小さな赤い光が灯っていた。 「これはこれは、そちらにおいでとは気がつきませなんだ。早速三つの願いを叶えてご覧に入れましょう。」

          大魔王とゴマくん

          行進曲

          サル、ゴリラ、チンパンジー  確かあれは古い戦争映画のテーマ曲だったのではないだろうか。病院の待合室でモニターに表示されている順番待ちの番号を眺めていると、小学校の運動場で何度も何度も繰り返し聞かされたあの行進曲が蘇ってきた。 サル、ゴリラ、チンパンジー 子供だった私たちはその行進曲にそんな歌詞をつけて笑っていた。  いったい何のためにそんなことをするのか当時は全く理解できなかったのだが、私の通っていた小学校では毎週月曜と木曜の朝と土曜の下校時間、運動場を全校生徒で行進するこ

          秋刀魚の味

           サンマと聞いて「テレビでヒーヒー笑っているおじさん」と連想する人もあまりいなくなってしまった程の未来、日本の食卓からは秋の味覚であるサンマは完全にその姿を消していた。食卓だけではない、かつてそんな魚が海を泳いでいたことすら、ほとんどの人はとっくの昔に忘れてしまっていた。ある年を境にサンマはこの地球上からこつ然とその姿を消してしまったのである。  サンマが居なくなってしまったことに最初に気がづいたのは、もちろん漁師たちであった。ありえないほどの不漁に疑問を感じた漁師たちは、漁

          静寂

          見んな見んな見んな見んなどこみとんじゃいいいいい。 「じゃかましボケ誰も見てるかドアホ」 見んな見んな見んな見んなどこみとんじゃいいいいい。 「見てへんいうとんじゃカス食ったろかドアホ」 公園では、いまどき珍しい長ランにリーゼント姿のツッパリが、蝉とタイマンを張っているところだ。その少し離れたところから、おじいさんと、おじいさんに手を引かれた男の子がその様子を眺めていた。 「見てご覧。ああいうのをヤケクソというんだよ。」おじいさんが男の子にこっそり耳打ちした。すると男の子は、

          シン・タイムマシン

          冷蔵庫編  一見すると電子レンジのような形をした逆時間発生装置の扉を開き、明智博士愛用の高級腕時計を取り出した助手の小林くんは、時計の文字盤を確認してから、明智博士に腕時計を手渡した。時計の針は実験を開始した一時間前の時刻を示していた。 「博士、ついにやりましたね。」 「うむ。」  明智博士が逆時間理論の着想を得たのは、わずか10歳のころだったという。それから70歳になる今日まで、博士は逆時間理論を応用したタイムマシンを完成するためにその生涯を捧げてきたのだ。  そしてついに

          シン・タイムマシン