静寂
見んな見んな見んな見んなどこみとんじゃいいいいい。
「じゃかましボケ誰も見てるかドアホ」
見んな見んな見んな見んなどこみとんじゃいいいいい。
「見てへんいうとんじゃカス食ったろかドアホ」
公園では、いまどき珍しい長ランにリーゼント姿のツッパリが、蝉とタイマンを張っているところだ。その少し離れたところから、おじいさんと、おじいさんに手を引かれた男の子がその様子を眺めていた。
「見てご覧。ああいうのをヤケクソというんだよ。」おじいさんが男の子にこっそり耳打ちした。すると男の子は、右手を高くかかげて、元気の良い大きな声で叫んだ。
「セミの勝ち!」
ツッパリがゆっくりとおじいさんと男の子の方をふり向いた。
おじいさんの背中を、ひとすじの冷たい汗が流れ落ちた。
見んな見んな見んな見んなどこみとんじゃいいいいい。
公園の噴水から湯気が立ち上るほど暑い、ある夏の午後のことであった。
(2020年8月 ssgに投稿したものを転載/「異種格闘技」改題)
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