マイネームイズマイナンバー
あたしの名はルナ。美少女戦士。黒い霧一味からこの世界を護るため、放課後になると同じ学園の仲間と一緒に戦ってる。
ところでなんで美少女が巨大な悪と戦わなきゃならないか、君たち真剣に考えたことある?その秘密はね、恋するパワーにあるって思うんだ。ほら、恋ってすごいエネルギーの塊みたいなもんでしょ。だから恋する乙女のパワーは最強なんだよ。
そりゃもちろん男の子だって恋はするだろうけど、なんとなく恋する乙女の方がサマになるっていうか、絵になるっていうか。あたしの言いたいこと分かってくれる?つまりそれが美少女戦士が世界を救う秘密ってわけ。
でもね。あたしにはもう一つ名前があって、それ地獄の番犬っていうんだ。これって実は黒い霧一味の仲間になった時に使う名前で、あたし実は黒い霧一味の仲間でもあるの。
やっぱりあたしも人間だから。正しさや優しさや美しさ?そういうものにすごく疲れちゃう時もあるんだ。だからそんな時は全部真っ黒に塗りつぶしてやる!って叫びながら悪行の限りを尽くして暴れ回るとスッキリするんだよね。
それで結局そんな自分を反省して、次の日からまた正義のために頑張ろうってなる。その繰り返しかな。誰かを好きになったり嫌いになったりするのと同じことだよ。
とはいえこれはゲームの中での話で、タウンでは僕はポッキーっていう名前で生活してる。ポッキーっていうのは昔うちで飼ってた犬の名前で、僕がまだ小さい頃に死んでしまったんだ。だからキャラクターにもポッキーの写真を取り込んで、僕は今ポッキーの顔をしてる。
僕が男なのにゲームの中では美少女戦士なのは、体は男だけど心は女だから、というわけでもなくて、単純に美少女キャラが好きだから。自分が好きなものになりたいと思うのは別に普通の事だと思うんだけど、やっぱりなんとなく恥ずかしい気もして秘密にしてる。
だからゲームの中で僕が美少女戦士だってことは誰も知らないけど、タウンではポッキーがポッキーの顔をした僕なんだってことはみんな知ってるし、僕だって仲の良い友達がタウンではどんな顔をしてるかだいたい知ってる。
幼なじみの吉田は好きなラーメンの顔をしてるし、ボンボンの田所は5000ポイントもするオリジナルの二枚目キャラだ。素顔を知ってるから笑っちゃうんだけどね。
一通りゲームもやったし、そろそろ十五歳以下のネット接続が遮断される時間だから、制限ギリギリまでコミックモールで立ち読みしようかなとおもってたら、大根とネギが飛び出した買い物かごを持った母さんと鉢合わせしてしまった。ちなみに母さんはタウンでは昔の外国の貴族の顔をしている。
「あんたまだこんな所で遊んでんの、早くお風呂に入りなさい。」
そんなこと何もタウンのど真ん中で言わなくてもいいのにな。僕は今のが知り合いに見られなかったか周囲を見回した。
しばらくするとドアをノックする音がして、母さんが本物の顔をドアから覗かせた。
「直人、ネットはやめてお風呂に入りなさい。」
「はあい。」
どうせもうすぐ制限時間だから僕はスマホの電源を落とした。
学校で先生が、ネット中毒の親を持った子供は同じようにネット中毒になる可能性が高い、だから制限は必要なんだと授業の時に話していた。
母さんもネット中毒なのかもしれない。でもこんな時間まで明日の夕食の買い物をしている母さんをそんな風にいうのは嫌だ。
お風呂は少しぬるくなっていたけど、僕はぬるい方が好きだからちょうど良かった。入浴剤は濃いブルーで、プチプチと弾ける炭酸入りだった。
その濃いブルーの水面にプチプチと弾ける無数の泡は、私にあの懐かしい遠く離れた故郷、天の河を連想させた。
この中田直人という日本人の少年の肉体は、中田直人自身のものであると同時に、天の河連邦から地球を調査するために派遣された私のものでもある。中田直人が見たもの、感じたこと、その経験のすべてを私は記憶し、中田直人の肉体が消滅するのと同時に、文字通り昇天して天の河連邦へ帰還する。
その長い任務のために、私は中田直人の意識の奥深くに侵入しているのだ。
6060838872889それが私というファイルに与えられたナンバーである。
2020/01 tobe小説工房応募
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?