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水木三甫の短編小説よりも短い作り話

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自著の超短編小説(ショート・ショート)をまとめました。 ユーモアあり、ブラックあり、ほのぼのあり、ホラーらしきものあり、童話らしきものあり、皮肉めいたものあり、オチのあるものあり…
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記事一覧

迷画劇場

迷画劇場

◯アラン・ドロンが末期がんと闘う壮絶な映画『潰瘍がいっぱい』

◯ボニー&クライドが川崎から木更津まで短時間で逃げなければならなくなる映画『俺たちにアクアライン』

◯クリント・イーストウッドが持っている鉄砲を使う場面がまったくなかった映画『童貞ハリー』

◯沈没する船の中では愛なんて言ってられやしないという映画『大パニック』

◯登場人物たちが年老いていき、体が酸化していく映画『加齢と共に錆ぬ』

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盲目の男(超短篇小説)

盲目の男(超短篇小説)

真っ暗な部屋に盲目の男が座っている。
書斎も兼ねている寝室のベッドに身動きひとつせずに男は座っている。
目の見えない人は他の感覚が優れるというが、男は特に鋭い聴覚を持っていた。
男の見えない視線の先では、黒い蜘蛛が壁を這っている。
真っ暗な部屋では目の見える人でさえ黒蜘蛛を見つけることはできないだろう。しかし、男の耳には蜘蛛の足が壁を這う音が聞こえている。蜘蛛はときどき動きを止める。男は聴覚を研ぎ

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洪水からの帰還(超短篇小説)

洪水からの帰還(超短篇小説)

自分は大丈夫だろう。そう考えて外に出たのがいけなかった。

雨は強く、近くの小川は氾濫し始めていた。あっという間に水は膝小僧の下まで迫った。慌ててしまい、僕は倒れてしまった。急な流れが僕の体をどんどん押し流していく。
もうダメだ。

そのとき奇跡的に救助のボートがやってきた。救助隊員二人が僕をボートへ引き上げてくれた。
不思議なことに屋根もないのにボート内に雨は入ってこなかった。さらにボートの中は

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愛の花(超短編小説)

愛の花(超短編小説)

愛の花が咲いた。

土を作り、種を選別し、毎日水をやり、芽が出てからは毎日写真を撮って、成長を喜んでいた。
やっと咲いた愛の花はピンク色の花びらがハートの形をしている。
でも、次の日の朝見てみたら、愛の花は誰かに抜き取られていた。
もう何度も盗まれているから、監視カメラを付けておいた。
録画を見ると、近所の幼稚園の女の子が花を取っていた。
急いで幼稚園へ行ってみると、女の子が男の子に愛の花を渡して

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花火(超短編小説)

花火(超短編小説)

ある日、僕の頭が吹っ飛んだ。僕の頭は空高く舞い上がり、爆発音とともに花火になって消えた。

まわりのみんながそれを見上げながら、「キレイだね」って言ってたけれど、僕にはその花火が見えなかった。

景色のいい部屋(超短編小説)

景色のいい部屋(超短編小説)

私は景色のいい部屋に住んでいる。
窓からはパノラマ写真のように180度の景色が見渡せる。
風のない日には、窓を開けると川のせせらぎが聞こえたし、夕方には山々が真っ赤に染まるのが見えた。
窓から飛び出せば、どこにでも行けるつもりでいた。

もともと私たちは10人で暮らしていた。私たちはみんなで羽根を作った。
器用な男の子が一番最初に窓から飛び出した。しかし、男の子は下に落ちていった。
それからも一人

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古い時計台の伝説(超短編小説)

古い時計台の伝説(超短編小説)

その町には古い時計台があった。
時計台は壁が崩れ、鉄筋がむき出しになっていた。その四方は立入禁止の柵で囲まれている。
取り壊されない理由は、時計台には神がいて、大きな災難がやってきたとき神が救ってくれるという言い伝えがあるから。

ある日、その町を大地震が襲った。
時計台は崩れ落ち、長針が地面に突き刺さった。その途端に大地震は治まった。

長針は今、あなたの町の博物館に静かに納められている。
次の

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愛が見える女(超短編小説)

愛が見える女(超短編小説)

「私に愛を見せて」
彼女はそんな使い古された無意味な言葉を口にした。
僕は彼女を強く抱きしめた。
「そんなのは愛じゃない。ただの性欲よ」
彼女は私の体を突き飛ばした。
「じゃあ、どうやって愛を見せればいいの?」
僕は聞いた。
「私のことをちゃんと愛せばいいの」
彼女が言った。
「私には愛が見えるの」
僕は彼女を置き去りにして、その場を立ち去った。愛が見えるような不幸な女とは付き合いたくなかった。

日々tokidoki臆測

日々tokidoki臆測

<愛星心>

愛国心は強くなりすぎると、他国との争い事になることもあるが、
愛星心というものを全世界の人たちが持てたとしたら、
地球のために全世界の人たちが一致団結できるんじゃないのかな?

ミニチュア国会(超短編小説)

ミニチュア国会(超短編小説)

小学生が社会科見学で国会議事堂にやってきた。
国会議事堂は男の子が一人で持ち上げられるほど軽かった。
中では小さな大人たちがワイワイガヤガヤ騒いでいた。あるハゲ親父は討論の相手を罵倒し、化粧の濃いおばさんは叫び声をあげながら一番偉そうな人に絡んでいた。かと思うとそんな騒音公害の中、ゆうゆうと寝ている人までいた。
先生は子供たちに、「この人たちがこの国を動かしているんですよ」と説明した。
子供たちは

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意味のわからない小噺

意味のわからない小噺

筋肉隆々の老人とやせ細った老人の会話

筋肉「何ヒョロヒョロ歩いてるんだい?」
痩せ「夏バテでね。もう私も棺桶に片足突っ込んでるからね」
筋肉「何言ってるんだい! 俺なんか棺桶に両手両足突っ込んでブリッジしてるぜ」

小説家(超短編小説)

小説家(超短編小説)

文章が1行も出てこない。それどころか、さっきから一文字も書けていない。
今週末までに短編小説2つとエッセイ1つを書かなければいけないのに。
エッセイならば書けるだろうと、パソコンの前に座って1時間経つ。前回、小説のネタがなくなって困ったという話は載せてしまった。もう書くことがない。いつかこんな日が来るのではと恐れていたことが現実になった。
やはり自分は小説家の才能などなかったのだろう。運良く新人賞

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大穴(超短編小説)

大穴(超短編小説)

東京競馬場に、穴の大きなドーナツを売る店ができたそうだ。大穴を当てるという意味があると聞いて、私は大金を持って東京競馬場へ向かった。
早速、大穴ドーナツを購入し、万馬券狙いで馬券を買い続けた。
しかし、結果はひとつも当たらず、大金はあっという間に消えてしまった。
どうしよう。私は困ってしまった。実は持ってきた大金は会社から横領したものだったのだ。
次の日、会社に社内監査が入り、大金が消えていること

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悪知恵だけは働く愚かな奴ら(超短編小説)

悪知恵だけは働く愚かな奴ら(超短編小説)

人類だけでは地球温暖化を止められないことがわかった人類は、他の生き物との共栄共存を計るべく、各生物界の生物を集めた。
それぞれの生物が立候補できる平等な選挙を行おうと生物界全体で決まったはいいものの、既得権益を失うのを恐れた人類はひとつの条件を出した。
「生物界議会の議員になるためには、それなりの知識と教養が必要である。だからテストを行い、及第点を取れなかったものは当選を無効とする」
この文章を最

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