詩『最後の手紙』#シロクマ文芸部#創作大賞2024
手紙にはそのひとの色が滲む、音が泳ぐ、言葉が香る、温度が漂う、そして息遣いが隠されている。誰かを想って、文面にしたためる時間。誰かに想われて、文面にしたためられた空気を読む時間。濃密なときを過ごす。冷凍されていた感情が解凍されてゆく。息を吞む。太陽が昇る。柔らかなひかりの帯が差し込んで、解剖するように咀嚼するのだ。
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色褪せたインクの文字を目でなぞって
奥に刻まれている記憶を呼ぶ
くるり、くるり、くるり、と
体内時計が廻りだす
あなたに触れられた肩、腕、耳朶、頬、
に残留する感覚
透明な痣が点々とできている
誰も知らない
誰も見えない
ふるい手紙を何度も黙読して
痣がしずかに発熱する
沈黙と発熱のあいだで
空席のブランコが啼きながら
ゆらゆら揺れている
消せない電話番号
宙を混ぜる指先
まだ鼓膜の振動が声を覚えている
耳掻きで掘り起こせたらいいのに
広くなったテーブルの地平線で
百合の花が項垂れてお辞儀している
ちいさな西日が沈みかけて
便箋が透けてゆく
想い出の骨格が浮かび上がってくる
組み立てては崩れて
崩れてはまた組み立てる
砂の標本を食む
じゃりじゃり、と歯が違和感を擦る
ぺっ、と吐き出す
真夏の午後
冷えたペットボトルを掴んで
ミネラルウォーターを一気飲みする
忘れる
また蘇る
また忘れる
またまた蘇る
夏の蜃気楼に溶けながら、sigh
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手紙ーーー、わたし、はあの紙の手触りや色や匂いやざわめきが好きだ。手紙にはそのひとの色が滲む、音が泳ぐ、言葉が香る、温度が漂う、そして息遣いが隠されている。深呼吸。駆けてゆく慟哭。ぱちぱち、と音を立てて、真夏が燃えてゆく。季節はまた巡る。
photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、まつばらあやさん)
photo2:Unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾
お久しぶりです。多忙のため、投稿できませんでした。また頑張ってゆきます。よろしくお願いします。
2024.7.5 未来の味蕾
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