三月うさぎ(兄)

ウサギです

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最近の記事

『樵る---激情』 トーマス・ベルンハルト

『樵る---激情』 トーマス・ベルンハルト 初見基=訳 河出書房新社 冒頭の数行を、初読で朗読してみた。

    • 『喜べ、幸いなる魂よ』 佐藤亜紀

      -- しかし、主は真実なかたであるから、あなたがたを強め、悪しき者から守って下さるであろう -- (テサロニケ人への第二の手紙 3.3) 悪しき者は概ね男であろうか。 この作品に登場する主な男は「女(ヤネケ)に都合の良い男」リストになっている。 ファン・デール氏 ヤネケを抑圧する筆頭候補の父親だが、かなり早い段階で脳卒中で倒れ、言葉をなくし、しかし死なないで物語の最後まで生き残る。殺すことすらしないという点でかなりの悪意を感じる。 テオ・ファン・デール ヤネケの倫理的

      • 『コンビニ人間』村田沙耶香(読書会のあと) 

        ということで、第7回の「終わらない読書会」での違和感と、自分の読み方がどう変わったかを振り返る。 違和感の反省 読書会の事前アンケートを見逃していた(すいません)ので、この『コンビニ人間』を、 という読み方をするとは全く思っていなかったのでした。 読書会でずっと感じ続けた違和感を週末散歩しながら考えた結果、ちょっと視点を変えて、『コンビニ人間』に隠れた設定があると仮定して読み方が変わるか検証したい。 隠れ設定 冒頭に近い上記引用部分を膨らませて、設定を追加してみる

        • 『コンビニ人間』村田沙耶香(読書会用メモ)

          これは、終わらない読書会(第7回)のためのメモです。 古倉さんの感情表現 ざっと拾ってみると、 「困る」「薄気味悪く思う」「驚く」「うんざりする」「不愉快」「呆然」「不気味」がほとんどで、比較的「驚く」ことと「不気味」に思うことが多い。 しかし、その感情は喜怒哀楽や嫌悪につながらず、古倉さんの「正常」と合致しないことに対する違和感の表明にすぎない。 コンビニをやめた後、「コンビニの声」を聴くまでは、ほぼ「睡眠」と「空腹」しか感じておらず、性欲含め、あらゆる欲望も感情も持

          ジョイス『下宿屋』(ダブリナーズ)

          このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。 読んだのは下記。 『ダブリン市民』安藤一郎訳 新潮文庫(昭和58年11月20日 43版) 『ダブリンの人びと』米本義孝訳 ちくま文庫(2008年2月10日 一刷) 『ダブリナーズ』柳瀬尚紀訳 新潮文庫(平成22年3月1日 一刷) 引用は柳瀬訳から。 どの訳も芝浜を一席始めそうな口調でけっこうノリノリの出だし。明らかに喜劇風で米本義孝解説ではオペラの

          ジョイス『下宿屋』(ダブリナーズ)

          ヨン・フォッセ『だれか、来る』

          『だれか、来る』 ヨン・フォッセ 河合純枝=訳 白水社 ニーノシュクから訳せる人は日本にはほとんどいない。これはドイツ語からの重訳だが、「著者と20年以上親交を重ねてきた」友人による翻訳だそうだ。 戯曲として読むと、詩のようにぶつ切れで台詞に感情を込めづらくかなり難渋する。わたしは半ばを過ぎたあたりで、「これは一人の台詞でも会話のように読むべきではないか」と思い始めた。テーマとも密接につながるので、読み方としては間違っていない気もする。例えば、p.106-107の「彼女」

          ヨン・フォッセ『だれか、来る』

          パラダイムということ

          トマス・S・クーン(イアン・ハッキング序説)『科学革命の構造』青木薫訳 みすず書房 パラダイムとか通約不可能性とかよく使われる割に概ね間違われる(というか科学じゃないところに使われる)可哀想なクーン。 とか言いながら、読みながら再認識したのは、ぼくも主に文学に敷衍して、「通常文学」の最先端でパラダイムシフトするような作品が読みたい、と思っているのだなということでした。 そもそも「通常文学」ってなんだ?ということで、ぼくは何十年にもわたって、あちこちでずっとこんなことを言い続

          パラダイムということ

          セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点

          セシリア・ワトソン 萩澤大輝/倉林秀男 訳 左右社 概念(表現したいこと)の「厳密さ」を言葉の定義(ルール)で決定できるものなのか、言葉の運用(コミュニケーション)で近づくものなのか、という点で著者のセシリア・ワトソンは、言葉をルールで縛っても常に裏をかかれ変わっていくのは当然なので、静的な定義はない。曖昧さこそが豊穣さの土台だと訴えている。 著者は科学概念・科学史の専門家とのことで、以下のような話は当然わかった上で書いているのだろうけれど、自分が攻撃している「言葉の政治

          セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点

          ジョイス ダブリナーズ『エヴリン』

          ネタばれかもしれないので注意。 このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。 読んだのは下記。 1.『DUBLINERS』NORTON CRITICAL EDITIONS Edited by Margot Norris 2006 2.『The Collected Works of James Joyce』THE CASTANEA GROUP (kindle版) 3.『ダブリン市民』安藤一郎訳 新

          ジョイス ダブリナーズ『エヴリン』

          『恋するアダム』イアン・マキューアン(読書会メモ)

          このブログは、第4回「終わらない読書会―22世紀の人文学に向けて」の予習用メモです。 以下、たくさんの刺激的なトピックリストは、講師をされる予定の濱野ちひろさん(大阪公立大学 UCRC 研究員/ノンフィクション作家・『聖なるズー』の著者)の提供です。ありがとうございます。 読んだのは、イアン・マキューアン『恋するアダム』(村松潔訳, 新潮社, 2021) 1. アダムは人間にそっくりな姿をしているように描かれているが、どこがどのくらい似ているのか? またどこは似ていない

          『恋するアダム』イアン・マキューアン(読書会メモ)

          ダブリナーズ『アラビー』読書会用トピックリスト(なんかよく分からんから)

          ネタばれかもしれないので注意。  このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。 https://www.stephens-workshop.com/deep-dubliners/ 「何これ」と思うような拍子抜けの作品で、全くわからんので、えらそうにトピックリストをあげてみます。 読んだのは下記。 『DUBLINERS』NORTON CRITICAL EDITIONS Edited by Mar

          ダブリナーズ『アラビー』読書会用トピックリスト(なんかよく分からんから)

          ミシェル・ウエルベック『ある島の可能性』 読書会用の終わらないメモ(ネタバレしてます)

          このブログは、第3回「終わらない読書会―22世紀の人文学に向けて」の予習用メモです。 以下、たくさんの刺激的なトピックリストは、講師をされる予定の八木悠介さん(ロレーヌ大学博士課程)の提供です。ありがとうございます。 頁番号は、ミシェル・ウエルベック『ある島の可能性』中村佳子訳 河出書房新社 2016 年(文庫本版) ただし、私はKindleで読んだので頁がわからず、引用元なしは全て「ある島の可能性」で引用頁は省略しました。すいません。 1 献辞の宛先、アントニオ・ムニョス

          ミシェル・ウエルベック『ある島の可能性』 読書会用の終わらないメモ(ネタバレしてます)

          ジョイス ダブリナーズ『出会い(An Encounter)』(解答篇)

          【問題】 「ぼく」のこの麻痺(パラリシス)は、一体、何が原因なのか? 男は、一度、2人から離れ、野原のはずれで「He’s a queer old josser!」(D En.248)(「あいつ、変態爺いだぞ!」(D-Y En.39))とマホニーに評される何事かをしてから、戻ってくる。 マホニーは、猫を口実に早々と逃げ出すが、「ぼく」は迷ったまま麻痺している。 男はまた話し始めるが、 それは、「新しい中心」の周りをゆっくりと輪を描くようにうっとりと、なされる。 男が「ぼく

          ジョイス ダブリナーズ『出会い(An Encounter)』(解答篇)

          ジョイス ダブリナーズ『出会い(An Encounter)』(問題篇)

          ネタばれかもしれないので注意。  このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。 https://www.stephens-workshop.com/deep-dubliners/ 読んだのは下記。 『DUBLINERS』NORTON CRITICAL EDITIONS Edited by Margot Norris 2006 『The Collected Works of James Joyc

          ジョイス ダブリナーズ『出会い(An Encounter)』(問題篇)

          読書会(2023/4/21)トピック・メモ

          2. クローンたちの名前にある(大文字.)は名字の略なのか? イニシャルのある登場人物 ■第一部 キャシー・H、ジェニー・B、グレアム・K、レジー・D、スージー・K、アーサー・H、アレグザンダー・J、ピーター・N、キャロル・H、ロイ・J、ポリー・T、シルビー・C、マージ・K、モイラ・B、クリストファー・C、ミッジ・A、ピーター・J、クリストファー・H、ゲリー・B、ロブ・D、ハリー・C、シャロン・D、パトリシア・C、シャルロッテ・F ■第二部 シンシア・E(ヘールシャム)、ロ

          読書会(2023/4/21)トピック・メモ

          ジョイス ダブリナーズ『姉妹』

          ネタばれかもしれないので注意。  このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。 https://www.stephens-workshop.com/deep-dubliners/ 読んだのは下記。 『DUBLINERS』NORTON CRITICAL EDITIONS Edited by Margot Norris 2006 『The Collected Works of James Joyc

          ジョイス ダブリナーズ『姉妹』