ジョイス ダブリナーズ『エヴリン』

ネタばれかもしれないので注意。

このノートは、「Deep Dubliners — ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』オンライン読書会」の予習メモです。

読んだのは下記。

1.『DUBLINERS』NORTON CRITICAL EDITIONS Edited by Margot Norris 2006
2.『The Collected Works of James Joyce』THE CASTANEA GROUP (kindle版)
3.『ダブリン市民』安藤一郎訳 新潮文庫(昭和58年11月20日 43版)
4.『ダブリンの人びと』米本義孝訳 ちくま文庫(2008年2月10日 一刷)
5.『ダブリナーズ』柳瀬尚紀訳 新潮文庫(平成22年3月1日 一刷)

以下、原文の引用は1から(D Ev.行数)、翻訳は5から(D-Y Ev.ページ数)。

①「エヴリン」におけるキーワード、「家」はどのように解釈できるか?

冒頭、evening が avenues をinvadeし、Belfast からの移住者が ピカピカの屋根の明るいレンガの houses を空き地に立てるなどアングロ・アイリッシュの侵略を思わせたり、フランクが語っていたらしいブエノス・アイレスの新天地など、こちら(アイルランド)の「家」に、あちら(外国)の「家」が上書きされるように描かれる。

また、アイルランドの「家」は、dusty で hard であるが寝食はなんとかなるし知り合いも多い。対して、ブエノス・アイレスの「家」ではフランクの妻として尊敬を受ける暮らしだろうと思っている。

②エヴリンの恋人、フランクはどのように表象されているか?

自由間接話法のエヴリンの目からは、Frankという名前通り、very kind, manly, openhearted (D Ev.80) であると描かれている。
また、外国や船旅、ボヘミアンな甘い生活のことなどを歌ったり語ったりする恋人として描かれている。

エヴリンの父親は、“I know these sailor chaps, he said.” (D Ev.105) と、おそらく荒くれ者や犯罪者の類と思っている。(父親とフランクの言い争いとはなんだったのか?)

フランク自身が声を出しているのは、最後の節の “Come!” “Come!” “Eveline! Evvy!” だけで、フランクの描かれ方はエヴリンの目からのみである。最終節ではそのエヴリン自身が麻痺してフランクをどのようにも見ることができなくなっている。

③エヴリンの両親は、どのような存在か?父と母の存在は、短篇全体でどのような意味を持つか?

父親は、抑圧的で暴力的。たまに優しいこともある。父親がエヴリンの駆け落ちの原因であるように思えるが、作品の後半にいくほど、良い印象に変わる。

母親は、前半はエヴリンの味方であるが、後半の印象は以下のようにガラリと変わる。

まず、単語 home, house は主に前半に頻出し、

her promise to keep the home together as long as she could.

D.Ev 123-4

を最後になくなる。
この場面で、エヴリンを「家」に縛りつけようと死の床で約束させた抑圧者としての母親が、エヴリンの前に立ち現れる。それは、

—Derevaun Seraun! Derevaun Seraun!

D Ev.135

という狂気の叫びをともなって思い出され、”a sudden impulse of terror” (D Ev.136) に襲われて、エヴリンに逃げることを決めさせた。
完全に憶測だが、エヴリンはこの叫びが、”De-Re-Born Set-Room!” (生き-返ら-ない、部屋-いる)と聞こえることに、思い至ったのではないか。

④「エヴリン」は、「青年期(adolescence)」の最初の作品ですが、これまでの「幼年時代(childhood)」の3作品との共通点、あるいは相違点は?
 そして、それは短篇集全体の主題の「麻痺」とどのように関わるか?

前三作品では、「出ていく」ことは、せいぜい1日程度で市内のことでしかなかったし、戻ること前提であった。
この作品で初めて、戻らないこと、異国へ出ていくことが描かれる。
が、結局は出ていけない、立ち止まる、ということでは共通している。

「麻痺」は、最終節の世界中の海がエヴリンに流れ込んできて溺れ、完全になんのサインも表に出せなくなってしまうという表現に集約されているか。

⑤この短篇で気になった表現(面白い、カッコいいと思った部分、あるいはよくわからなかった、つまらなかった、不快だった部分)は?

(1) 語り手
最終節を除き、完全にエヴリンの自由間接話法、という理解でよいのか? それとも名無しの第三者が語っている、という可能性はあるのか?

(2)名前

Then she would be married—she, Eveline.

D Ev.50-1

上記で初めて「エヴリン」という名前が宣言されるが、それが「結婚」と結びついている。20世紀初頭のアイルランドで、女が自立する(名前をもつ)とは結婚することである、というあざといくらいのアイロニー。

(3)兄弟・姉妹
エヴリンの兄弟は、brothers and sisters とされていて、兄(アーネストとハリー)がいて、the two young childrenがいるので、兄2人、妹2人という理解でよいか?
ノラがモデルかとも思ったけれど、そういうわけでもないか(brother 1人、sisters 5人)。

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