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レビー小体型認知症の母の幻視/幻聴/妄想etc.

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2007年〜 レビー小体型認知症の母の幻視、幻聴、妄想(あるいは夢と現実の区別がつかない状態)を始めとした症状についての記事です。
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2023年4月の記事一覧

転院

転院

2008/10/24
(この記事は2008年のものです)

昨日、母は小手指の方の病院に転院した。中野の病院を去るとき、ストレッチャーに乗ってエレベーターの前で待つ母のもとへ、次々にナースがやってきて、見送ってくれた。
「お元気でね」
「良い病院が見つかって良かったですね」
「また逢いましょうね」
母は眉を八の字に歪めて、泣く。

母はこの頃、よく泣く。傍にいた私も、ついもらい泣く。丁寧に頭を下げ

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センチメンタル

センチメンタル

2008/10/26
(この記事は2008年のものです)

何日か前から母は、「あの歌が聴きたいの」と言っていた。

何でもCTを撮るときに検査室の中で流れていたとかで、母はおぼろげに記憶している歌詞の断片を私に聞かせる。
「会いたいとか恋しいとか、あなた言ったじゃないのとか。恋人が死んじゃった歌よ」

なんだかわかるようなわからないような、私は歌謡曲、それも子育て期間中の歌やドラマにはとんと疎い

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病棟からの声

病棟からの声

2008/10/31
(この記事は2008年のものです)

「ああーーっ!  ああーーっ  ああーーっ!」
母のいる4人部屋の向いには、いつも大きな声を出しているお婆さんがいる。いったん声が始まると、それはかなり長い間続く。

母の担当医でもある女性医師が向いの部屋を訪れ「○○さん、どうしたの?大丈夫よ」と優しく声をかけると、お婆さんの声はピタリと止む。

そして医師が病室を去ると間もなく、前以上

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絶好調

絶好調

2008/11/07
(この記事は2008年のものです)

私は小手指からいつもより何本か早いバスに乗って、母の病室を訪れた。

母は目を丸くして、「当たった! アンタの靴音かと思ったら、当たった!」と言って喜ぶ。私が来るとわかっている日には、母はベッドサイドの時計を睨んで、1時を過ぎたあたりから、「今来るか今来るか」と待ち侘びているらしい。

「今までも、何度靴音に騙されてきたことか!?」って、

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小手指の晩秋

小手指の晩秋

2008/11/11
(この記事は2008年のものです)

寒い寒い。23区内ではおそらく結構寒いはずの練馬よりも、埼玉県所沢市の小手指はさらに寒い。

ブーツの靴音を鳴らして母の病室へ向うと、娘の足音と確信していたのか私が顔を出した瞬間、母はすでに片手を挙げて、出迎えてくれた。

今日は母がずっとずっと恋焦がれていた「たこ焼き!」を練馬の西友で買い、貼るカイロをふたつ、たこ焼きを挟むようにして保

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病棟の現実

病棟の現実

2008/12/16
(この記事は2008年のものです)

母はひと月半くらい、抑肝散を服用していない。今の病院では抑肝散を扱っておらず、担当医師はその存在すら知らなかった。けれど抑肝散は量も多く大きな顆粒なので、服用には結構なストレスが伴う。
だから飲まなきゃ飲まないでもいいのかなと、私達も医師に対して
特に要請するようなことはしなかった。ちょっとした幻覚くらい、あったらあったで良いのかな? な

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鼠と猫とナースコール

鼠と猫とナースコール

2009/1/18
(この記事は2009年のものです)

母はほぼ一日中、幻覚を見ているようだ。私がベッドサイドにいるときでも、目はじっと遠くの壁や天井を見つめていて、ネズミの行方を気にしている。

「白いハツカネズミよ。ハムスターもいるわ」母いわく、向かいのベッドのお婆さんの顔にベッタリと、白いネズミが張り付いてしまうのだという。
「ナースコールしようかと思ったけど、どうせまた頭がおかしいって思

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蛇の憂鬱

蛇の憂鬱

2009/1/20
(この記事は2009年のものです)

「リスがスタンダップ(stand up)!」と母がのたもうたのは一昨日のこと。

今日は蛇である。蛇は向かいのベッドのお婆さんの頭の上で、トグロを巻いている。「ああん、コッチに来たらどうしよう…」と母は怯える。

「ほら! 見てごらん。ネズミが煎餅の袋持って歩いてる」と、母は天井を見つめる。それってちょっと可愛いな。

母の口からは、不思議

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ワケのわからない人

ワケのわからない人

2009/1/6
(この記事は2009年のものです)

母はこのところまた妄想爆裂である。病室を訪れた私に向かって「よく来たね! よくココがわかったね!」と驚嘆の声を上げる。
「また倒れてしまってこの病院に入院させられることになった、この部屋にいるっていうことがどうして分かったのか?」ということらしい。

昨日はデニーズかどこかの地下だとかに入れられてしまって家に帰れないだとか、いろんなことを言っ

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特殊能力

特殊能力

2009/1/23
(この記事は2009年のものです)

母の幻覚はどんどんエスカレートしていく。向かいのお婆さんの顔は血で真っ赤。だってネズミがお婆さんの顔の上にのっかっていて、目の中に手を突っ込んだりするからだ。

そしてその隣の女性(意外とお若いが、一日中口を開けて微動だにしない方)のベッドサイドの仏壇(実際は収納棚だが、仏壇として使っているのだと母は言う)の前に、女性そっくりにつくった人形

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食べて出して、見えないものを見ること

食べて出して、見えないものを見ること

2009/1/27
(この記事は2009年のものです)

母の興味は、食べること。そして、排泄。
人間のもうひとつの三大欲求である睡眠に関しては、母はちょっと遠いところにいる。寝ることに執着するより今は、自分だけに見える世界に没頭しているようだ。

ネズミと猫と犬とリスと蛇。そして新たに登場する、不思議な生き物。顔が鶯色だったり頭に白いリボンを巻いていたりする新入りに、「なかなかいいヤツ」とキャラ

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幻覚の品格?

幻覚の品格?

2009/1/31
(この記事は2009年のものです)

今日は大雨の中、母の病院へ。

母は眼をパッチリと開いて、窓の方をじっと見つめている。幻覚を見ているというより今日は、ただぼんやりとしているように映る。

火曜日と金曜日は入浴日。
「今日はまだお風呂じゃないのね」と言うと、「私は昨日入ったから…」と言う。時々排泄の具合で身体を汚してしまい急遽入浴することがあるので、またそんなふうだったのか

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母の脳

母の脳

2009/2/11
(この記事は2009年のものです)

最近の母は相変わらず。
冴え渡った脳とこんがらがった脳のごった煮みたいな。

天井の隙間に見える頭蓋骨にネズミが群がって齧りついていたり、隣のお婆さんの口いっぱいに、ウサギが入っていたりする。

キライなスタッフは自分に酷い言葉を浴びせるというし、向かいのお婆さんは夜中に、ベッドヘッドの隙間に頭を挟まれて顔が変色してしまっているので母が慌て

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気持ちの良いこと悪いこと

気持ちの良いこと悪いこと

2009/1/23
(この記事は2009年のものです)

顎関節はいったいどうなってるんだ? と疑いたくなるくらい、人間は意外なほど大きな口を開けられるものらしい。母の隣のベッドのお婆さんだ。

隣のお婆さんの口の開き方は、その時々によってもちろん変わる。
中くらいのときもあれば、母の幻覚のように、本当にウサギが口から入ってしまうんじゃないかと思うくらい、大きく開いていることもある。

枕元のテレ

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