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随筆・日記
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2024年1月の記事一覧

【朔 #23】題は「春は素肌で」

【朔 #23】題は「春は素肌で」

 水鳥に逃げられた。久々の川に出てみると、もう、水が温んでいるような。川底には青い藻が発生していて、黒く固そうな古い藻の中で一層、予感めいている。
 皮膚を皮膚で擦るような、
 自慰にも似た光と水の擦過、
 或は、
 全き交わり、……
 鳥の恋、猫の恋、蝶の昼。
 唾液のように温む水。
 ああ、春の、
 全身を撫で回すこと数秒、
 倦みつつ産みつつ。
 昨日(二〇二四年一月三十日)、喜楽館に行った

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【朔 #22】この、朕(兆し)と出会うために

【朔 #22】この、朕(兆し)と出会うために

 フロッタージュなんてなまぬるい手法じゃない紙の裏の予感が立ってきていて、それに微妙に気付いた、和、多、紙、が俄かに紙(ノオトNo.133)を裏返したらしい。すると、普段インクや朱液を垂らして汚している机の上で書いていたものだから、赤く字や線が生まれていて、それは紙の血管、血脈であった。この、朕(兆し)と出会うために、今まで汚し続けていたのだ、と。
 眠気と渇き。時間は絶えず裁断されてしまうけれど

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【朔 #21】盤を移す(写す、映す、遷す)

【朔 #21】盤を移す(写す、映す、遷す)

 吉増剛造・羽生善治『盤上の海、詩の宇宙』(河出書房新社)を柚子の香の煙の中で読み終えた。机の上には、先ほど引っ張り出してきたプラスチックの将棋セットがあり、一応は羽生さんの対局の棋譜をもとに並べてあったが、どうも宇宙の拍動が無い。一度溶けて澄んだ蝋がまた固まっているのと同じだった。
 ふと、表紙カバーを外した。あまり漫画以外でこういうことはしない。外してゆく眼の方が先に驚いていた。渋い銅(あかが

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【朔 #20】時間の足跡(蹴り痕でもあり、摺足が地に遺すぎざぎざの線でもあり、校庭ですね──)

【朔 #20】時間の足跡(蹴り痕でもあり、摺足が地に遺すぎざぎざの線でもあり、校庭ですね──)

 異様な時間の跳躍といふものがあつて、あまりに陸続たるもので、大抵、一連どころか一体と錯覚するのだけれど、……今回はさういふ跳躍(牛若丸の、髪)をなんとか言語化できたら。

 昨日(二〇二四年一月二十七日)吉増剛造・羽生善治『盤上の海、詩の宇宙』(河出書房新社)を読んでいました。途中、羽生さんが吉増さんにある詩の朗読を頼むのですが、それがなんと、第一詩集『出発』(新芸術社)より「生命よそんな風に」

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【朔 #19】かんぱねら

【朔 #19】かんぱねら

 冬菫(冬菫しゃがむつもりはないけれど/池田澄子)。仏の座も、犬ふぐりも、もう咲いている。感応の断面を風に曝して。
 吐き気がするような(実際は嘔吐するような事態に至ったことはあまりない)日常の蝟集体を死児に供えたところで、意味がない。意味を見出す必要がない、というのはどんな至上主義?
 ら、
 かんぱねら。
 らら、
 光。
 ららら、
 アトムが、もう、子供の夢ではない時代。
 冬菫。
 ふず

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【朔 #18】たまらず駅で手を洗う

【朔 #18】たまらず駅で手を洗う

 煉獄を覗くようにして自分の詩作を省みると、忘却の記憶、という言葉が浮かんできた。どこまでも茫洋たるくらげなす記憶の数々を意味以前の海が育む、歪む、身体、世界、寛解。韻を弄するのも不愉快。
 最近は手放してきた時間の、真、穂、露、志、が現前することが多くなり、夢が脳の外に漏れ出ている気分。必死に上塗りしようとして吉岡実『土方巽頌』、田村隆一『腐敗性物質』、吉原幸子『昼顔』を古本屋で買う。渋沢孝輔は

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【朔 #17】彗星の斧激ち、尾を放ち、捩れ、撚れ、よれよれの野原にまた夜這星

【朔 #17】彗星の斧激ち、尾を放ち、捩れ、撚れ、よれよれの野原にまた夜這星

 風船、石鹼玉、鞦韆。
 風船、石鹼玉、鞦韆。
 臣の字の折々、とりどり、
 一日を煙のごとく過ごすのは
 容易ならざることだった、立った、発った(鯖も同じような狂乱)
 短命の、眼、の純粋な身体を紀行して、ああ、
 背中が腹よりも冷たい君よ!
 風船、
   石鹼玉、
      鞦韆。
 風船、
   石鹼玉、
鞦韆。
 鞦韆。
 例えば蛸の行軍は自慰の滴りに似て、……
 これは詩ではない、と

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【朔 #16】雪は予感

【朔 #16】雪は予感

 新しいエクリチュールの予感 or 余寒。
 一日中、今日は木曜日であり明日は金曜日だ、という錯覚に囚われていて、急いで諸々を準備していた。締切などの関係。殊に郵便を用いての投稿は曜日に気をつかう。
 否、だからまだ水曜日だったんだって。
 付け焼き刃の原稿が机の隅に置かれていて、今夜のバイトは憂鬱で、寒さはますます厳しい。
 春近し?
 ノン!
 本当は山の上で思いきり大声で朗読したいの、に、…

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【朔 #14】ずっと窓を見ていた

【朔 #14】ずっと窓を見ていた

 小砂川チト『猿の戴冠式』(講談社)を読み終えた。ポストに書いた通り(「否。表紙を見よ。鏡のような眼、眼は窓──」と)だった。絮、枝、はずっと窓を見ていた(覗いてはいない、決して)。とりあえず、ここで止めておく。弩を引き絞るように、綱を巻きつけるように。
 箒、蜂起、放棄。
 両輪が揃うまで、
 流星は夜這星だった。

【朔 #13】一月、我々の魂の浮腫み、捩れ、融解

【朔 #13】一月、我々の魂の浮腫み、捩れ、融解

 ヘッダーはある写真に写り込んでいた帛門臣昂。落語を聴く直前に、メルロ=ポンティと睨み合っている。

 小砂川チト『猿の戴冠式』(講談社)はまだ八十四頁で止まったまま。なにか、安心感のような芽吹きが意識を別方向へ、別乾坤へ遣っている。刈られた草が晩冬にも芽吹き、それは春の待望なのかもしれない。水仙の蕾のせりあがる、……一月、我々の魂の浮腫み、捩れ、融解。
 油は少なめに、且つレシピはパン生地で。

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【朔 #12】寧ろその浮腫みを執拗に記録しようとするカメラの眼のようなものだったのです、ね、根、寧

【朔 #12】寧ろその浮腫みを執拗に記録しようとするカメラの眼のようなものだったのです、ね、根、寧

 先ずは喜楽館、桂春蝶師のご報告を。
 春蝶師が主任を務める六日間のうち三日、半分を通うことができた僥倖に少しく遅れた淑気が満ち満ちる。今日(二〇二四年一月二十日)は千穐楽。生で観ておきたいと思っていた「東の旅・発端」(月亭柳正の開口零番です)と「芝浜」(桂春蝶師匠のトリです)を一日で観た。
 春蝶「芝浜」の空気の凝固、凄まじい。笑いもとりつつ、ぐっと惹きつけるところは惹きつける。立川談志「芝浜」

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【朔 #11】春蝶という名を初めて見た時、季重なりだな、と思った

【朔 #11】春蝶という名を初めて見た時、季重なりだな、と思った

 春蝶という名を初めて見た時、季重なりだな、と思った。

 今日(二〇二四年一月十九日)も喜楽館へ。トリの桂春蝶師を追うかたち。桂雀五郎のきびきびとしていながら穏やかな移動(うらら、……桂枝雀を思い浮かべたのは気のせいかしら、雀の、囀りor帰り。「寄合酒」です)、露の吉次の明るい高座の陽、日、火(二度目にして漸く慣れました。光学的エネルギー。「権兵衛狸」です)、月亭方正のテレビジョンの頃の空気が上

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【朔 #10】喜撰、という名のつまづくような形象に深く、息を吸いこむ──

【朔 #10】喜撰、という名のつまづくような形象に深く、息を吸いこむ──

 昨日の「潦(ニハタヅミ)」から「巽」が出てきて、百人一首で一番好きだった歌が思い出された。「わが庵は都の辰巳しかぞすむ世をうぢ山と人はいふなり/喜撰法師『古今和歌集』巻第十八・雑歌下」である。一首全体のユーモアに優って、小学生の耳には「タツミ」という不思議な響きをもって都から拓かれてゆく道に、その方角が宿す呪術的な意味に(方違が頭の隅にあったらしい)、途方もない魅力が感じられたものである。干支の

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