【朔 #21】盤を移す(写す、映す、遷す)
吉増剛造・羽生善治『盤上の海、詩の宇宙』(河出書房新社)を柚子の香の煙の中で読み終えた。机の上には、先ほど引っ張り出してきたプラスチックの将棋セットがあり、一応は羽生さんの対局の棋譜をもとに並べてあったが、どうも宇宙の拍動が無い。一度溶けて澄んだ蝋がまた固まっているのと同じだった。
ふと、表紙カバーを外した。あまり漫画以外でこういうことはしない。外してゆく眼の方が先に驚いていた。渋い銅(あかがね、……)色の地に黒く細い線で盤の目(眼?)が印刷されていたのだ。机上の盤と、隠されていた盤を見比べつつ、なんだ、……。既に、環、田、子、の掌に盤面は映っていたのだ、と。
波立つ時間を切断しようとする声、声、声。
更に読むことになるでしょうね。
蝋を余らせていながら、どんどん小さくなる火。
若さって、その状態が安定なのかも。
盤を移す(写す、映す、遷す)。日記を書く。思えば変だ。この文章こそ、日記みたいな物なのにまた別に日記を書くなんて。壊れてみるか。
熱燗(…………、)の良さが、冷え、冷えて、
冷えて、ないうちから、わからない、……
昨日の(能、野、乃)気付きの肉月に、お礼をくださつた旅人が、麗しい(…………、うらら)予感を曳き摺つて、さう、犬ふぐりみたいな小さな花を手渡して(て渡し手)くれた。
“どこへも行けない、日照りだから”(帛門臣昂「挨拶(家族をめぐる月の変容)」)
旅は、まだ、先に、
先に、旅は、まだ、
旅が、塩化ナトリウム水溶液。
き、きき、ききき、きっ。
この、吃りの思考が、見えてこないの、ね。