きみしろみ

いつも心に片耳を。短編、趣味の記録を載せています。

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短編小説「かたち」

愛について皆さんはどう思うだろうか。 僕は多様され使いこなしているようで、その実態を理解できて居ない人が多いと思う。 「愛とは」と多くの哲学者がうん百年に渡って語っている側から、恋愛本でも「愛される10の秘訣」、「自分を愛する方法」とかの切り口で、愛という壮大さを形付けるものが世の中に行き渡っている。そしてそれを熱心に探求する人間がいる。 僕はそんな愛を軽々しく口にしたことはない。なぜなら、それが真摯でもなく紳士らしくもないからだ。 感じたことも、実態が分からないから正

    • 自由詩「嗜みの6ドル」

      マンハッタンの一角 家賃600ドルの屋根裏部屋 時給7ドルの私にはお高い嗜み この街の人々は暖を取る クリマスのイルミネーションが辺りを照らす 電気代すら節約できる光 部屋の隅々に行き渡る お目が高いというこの街 目が出ない私は時を嗜む 身を固め、寒さから凍えながらも 外の光で心を温める 暖を灯りから感じ 心を好奇心に晒す この街に潜む私は ボサノバが流れるカフェバー オバオバオバと リズムを刻みながら 今日を60ドルを掴み光に照らされる

      • 短編小説「勝手なメロディ」

        行き先も分からず、車に揺らされるがまま、 今日はどこに向かうのだろう。 スーパーか、それともただのドライブなのか。 運転席ではハミングしながら歌詞を口ずさむ母親がいた。メローな音楽に耳を傾ける両親とはなんだか世代の違いを感じる。 ミニ軽自動車の廃れたカセットに、ブルーのテープを差し込んで、またメローな音楽が車内で響いた。 「また同じ音楽かけるの?つまらないよ」 母はひたすらハミングを続けて何も答えない。 「もうウンザリしちゃうよ」 音楽が鳴り止んで彼女はやっと口を

        • 短編小説「拝む街びと」 -前編-

          この街では、猫だけは飼ってはいけない。 猫だけは、野良猫にして待ち人全員で育てるルールがある。 この街との出会いは至って普通だ。 和と洋が混ざる独特の雰囲気の町をネットで見かけ週末に観光がてら行ってみることにした。 街の入り口では大きな門があり、門前の看板には「ペトラスへようこそ」と書かれている。 ペトラスでは、猫を神聖な神々しい神聖な動物として讃えるようだ。そして、それに従う者のみが住居人として認められている。 猫が道路を通り過ぎると、歩行者は立ち止まり、車も運

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        短編小説「かたち」

          自由詩「手探り」

          あてもなく空を仰ぐタカ あてもなく辺も彷徨うネズミ  手探りで道を掻き分け 通りを開拓しつづける私達は 忙しく、泥臭く、恍惚に進む あてもなく歩いてみること。 本能に従うようで逆らうようなことか。 動画を逆再生する。 本来の目的とは変わった視点でものを見る。 そんな開拓があっても悪くない。

          自由詩「手探り」

          短編小説「僻地のテキーラ」

          僕の生まれたメキシコの僻地、ミランディリアスは世界から一線距離を置いた街だった。 小さい頃は庭で畑仕事をする母の背を見ながら、父から譲り受けたオンボロの自転車で 何もないカラッとした土地を永遠に回ることが遊びだった。 どこまでも赤土の平面が広がる景色とカラッとした熱い空気。 空気には少し砂埃が混じっていて、ここにしかない香りが漂う。 父は家畜に餌をやり、昼には食事のために家に戻ってくる。 広々した畑にぽつんと浮きたつ瓦屋根の家は、父が結婚手前に手作りで建てた家だ。

          短編小説「僻地のテキーラ」

          短編小説「ささやかな偏見」

          仕事が終わり、向かったのはあるシーシャのお店だった。 シーシャ屋は私にとって喫茶店のようなものだった。 今まで行ったお店は一人客も多く、作業や読書をしながら悠々と過ごす空間だった。閑静な街に佇むお店は、ひとり客が作業や読書をしている場所も多いのだ。 シーシャと言うと呑んだくれた大学生の集団、マウントを取り合うサラリーマン、小洒落たカップルの場所と聞く事が多い。 確かに、そういうお店もある。そういう場は、独特の欲や匂いが漂う動物園のようだった。 例えるとキリンがシマウ

          短編小説「ささやかな偏見」

          自由詩「魅せる音」

          軽快な足音を耳にする 窓の外から吹き入る音 通りに彩りを魅せる靴 人通りを彷彿させる顔 木々の揺れと涼しい風が隙間から流れる おとなしい白い部屋 壁一面に浮かび上がる風景 筆となった音は 色となった靴 点となった顔 日めくるごとに変貌する

          自由詩「魅せる音」

          自由詩「嘆きのランチ」

          ランチにはうどん うどんにはだしの素 どちらも揃わない今日という日 冷蔵庫には赤黄緑の野菜がたくさん 食品棚には調味料が有り余る ただ、『だし』 がないと何も作れない うどんが無いと何も始まらない 諦めで作った生姜鍋 心にはぽかんと浮かぶ穴 永遠に嘆いたランチタイム

          自由詩「嘆きのランチ」

          短編小説「香りの記憶」

          3年間という期間は中学生の私にとって限りなく永久に近いものだった。 大人になると3年なんてあっという間に過ぎる。 そして、歳を重ねるごとに不思議と時間感覚は鈍っていく。 中学時代の記憶はほぼ残っていない。 特にこれといった事を成し遂げた訳でも、希望を何かに抱いていいた事もなかった。 ただ、数少ない記憶の中でも未だに蘇る香りがある。 あの頃私は、大部分の時間をホコリと古書と一人の先生だけで完結するある一室で過ごすことに全てをあてた。 広い机に、多い時は5人くらいが何

          短編小説「香りの記憶」

          短編小説「フィット・イン」

          ニュースでは、コロナの現状ばかりが流れる。3密、リモート、ニューノーマル。 私は、地元青森から離れず社員50名ほどの小企業の広報部に勤めている。 リモートワークは社員のコミュニケーションの妨げになると、上層の考えから緊急事態宣言の期間だけに導入された。 それ以降は、何事も起きてないかのようにマスク出社を命じられている。 広報部は女性5名で構成されていて、連日何かしらのお祝い事が行われている。 「小林さん結婚したんですって!おめでとうございます」 「そうなんです。あ

          短編小説「フィット・イン」

          小編「触れたい足し算」

          私たちには、体と心で触れらるものがある。 体でいうと、五感として触れるもの。 手足の甲、指から触れる感触と温度。 嗅覚だと香りや匂い。 耳からは音やその重み。 視覚からは光景や人、街、光の色彩や光沢を。 その総体は頭から心へ血流のごとく流れていく。 そこから物事に対する感情と認識が誕生する。 触れるものの感触と私たちのこれまで培った経験や知識を足し算して、頭から号令が出る。 「次はこうした方がいい」 その号令によって、挫折や成功、幸せや闇、何より欲が垣間見えてくる

          小編「触れたい足し算」

          詩「鏡の間」

          あたりの光景に目がくらむ 通り一面グレーに染まる 人型をしたその色は僕の顔を映し出す 行くつく先々に見える顔 誰もそれは求めてはいない 対面するその顔は、近づくごとに薄れていく 直視すればブルーやレッド グレーはやがて華となる

          詩「鏡の間」

          短編小説「上野の限界」

          その日暮らしの毎日。 僕は毎月、県から県へと場所を移り替えていた。 誰にも見られないよう、出かける時は深ぶかと帽子を被り、できるだけシンプルな装いで単純な用事だけを済ませるために外に出向いた。 「おい、見ろよ。あいつなんか可笑しいことしてるぜ」 ビクッとした。 やばい、見られた。もう終わりだ。 「なんだよ、一哉のいつものことだろ 笑」 なんだ。高校生がはしゃいでるだけか。 一瞬これまでかと思ったよ。 頭の中で独り言をつぶやく僕は、そんな生活を続けて早10年。 時

          短編小説「上野の限界」

          鍋と買付とイーロンマスクについて

          仕事を終えて、晩ご飯のことを考えた。 寒い夜には暖かい汁物またはグラタンまたは… 同棲している彼と相談して、海鮮鍋に決定。 食料調達をすべくスーパーに向かう途中 「鮭いいな…鮭…」 とそっと声に出す彼がいる。 私は聞いてないふりをしてスーパーへ直進した。 魚介は好きだけど、鮭だけは昔から気分が乗らないから、ごめんなさい。と心に言い残し真顔で前を突き進んだ。 このスーパーは現金払いのみ。 今日は二人合わせて所持金2000円。 まあ、晩御飯がそんな超えることはないだろ

          鍋と買付とイーロンマスクについて

          音楽小編「心の内側」

          Brenda Lee  (1963)台所にあるラジオの周波を合わせた。 夫の帰りを待つ私は、いつもとは違う曲を耳元に傾け思いに耽けていた。 来週は結婚50周年記念。部屋を見回すと、至る所に子供の背丈の記録が残っている。 この部屋には、50年経とうと色褪せない記憶が吹き込まれている。 手元の薬指には、あの日母から貰った今も温かい贈り物。 「アンナ、あなたは幸せになるのよ」 結婚式前日に母がかけたあの言葉。 去年の夏、しっかり娘に受け継いだ。 扉が開く音で、夫の帰りを

          音楽小編「心の内側」