Kazuyoshi Hara
あいつと俺の14年。 毎週土曜日更新。
全盛期から現在に至るまで、絶えず変わらず僕の「推し」であるスター「中森明菜」の楽曲を、あれもこれも全て受け入れ昇華させて語り尽くす。
各駅停車が好き。一人も置いてきぼりにせず乗せていくから…… 乗り合わせた見知らぬ誰かの人生が、音を立ててゆっくり動き出す。 そんな風景を描いた短編小説を、JR京浜東北線のとある駅をテーマに描いた9本です。
山口県宇部市旧市街地に存在する架空の商店街「金座商店街」。 ここで暮らす若い商店主兼発明家の下村恭介は、或る日出会った老人から鈍い光を放つ黒い石を渡される。 その日から、商店街の人々、街の住人、通り過ぎていく人々との間で起こる出来事に思いもよらず巻き込まれ、その人たちの未来を変えていく存在になっていく。 大事に推敲し温めてきた長編。 だいたい土曜日ごとに更新。
その街。そこに佇む人。また離れた人。 そのそれぞれに秘めた想いがある。 遠く離れた場所から、まるでそこに住んでいるかのような気分に浸ってみませんか?
「あんた…やっぱりバカだったか」 いきなりその言いようはないだろう。 「あんた、そんなに子供好きだったか?自分の子供も育てられんのに」 何も言い返せない。でも後ろのほうは、いくらなんでももう少し言い方があるだろう。 「あんたにもちぃとは情ってもんがあるのは分かったわ。でもね、人一人育てることがどれだけ重大なことかが分からんから、そんなこと平気でできるんと違うんかね?」 「……」 受話器越しの母親の声が容赦なく俺を責め立てる。 部屋は思いつく限りの子
私鉄で十駅ほどある新興住宅街。辿り着いた家もまた、建って間もなく煤けていないベージュのサイディング壁で囲われていた。 俺はチャイルドシートのベルトを外して、キラをアスファルトの上へと降ろしてやった。 ダボダボの服をそれなりに整えようとしゃがんだ俺の目には、キラの表情がどこか硬くなっているように見えた。 守谷巡査長がインターホンを鳴らすと、俺と似た年恰好の一見優しげな男と、その妻らしきちょっと綺麗目な女が現れた。キラの右手を握りながら、俺は一歩下がってそのやりとりをず
洗濯したての服を入れたレジ袋を左手に、手を繋ぎながら俺とキラは駅前へ向かった。目的地は駐在所。何の手掛かりもないのだから、嫌でも頼らなければならない。 「あ、あんた。どうしたの……えっ!?あ、あんたまさか、遂に!?」 「ち、違うっすよ!」 やっぱりか。予想通りの言葉を浴びせられ、俺は苦い顔をして頭を掻いた。 何故こんなことを言われるのかと問われたら、過去に何度も世話になった「前科者」的なヤツだからだと答えるしかない。 俺は妻から訴えられた。なんとか犯罪者には
俺はようやく自分の部屋の前まで辿り着いた。こいつを抱えたせいで、ポケットに入れた鍵に手が届かない。俺はヒクヒクと愚図るこいつを床に立たせ、取り出した鍵を挿してドアを開けた。無言で背中を軽く叩いてこいつを中へと促す。 外廊下にくっきりと残った濡れた靴の跡をちらっと見て、俺は深く溜息をついた。 「ほら。まず脱がねえとな」 油断した。でももう手遅れだった。こいつはベチョベチョに濡れた靴を脱いで、ベチョベチョに濡れた靴下のままで廊下へと上がった。先のことなど想像ができない
遮光カーテンを開けた起き抜けの俺には、差し込む光はただ鬱陶しいものだった。真夏の太陽はその邪魔臭さを数倍増しで感じさせた。 もう十時半過ぎか。こんな時間に起きた自分自身のせいで、更にその眩しさは俺自身をより一層憂鬱にさせた。 そういえば、日中の明るさを嫌い、遮光カーテンへと替えていた。それなのに習慣だけで反射的に開けてしまう俺は、やっぱりどこかやられている。 あんなに好きだった夏の暑さも、俺を不機嫌にさせるだけだ。シャツがベトベト肌に纏わりつく。学生時代はバリバリの
よくここまで育ってくれたものだと、本当にそう思う。 俺は靴紐を結ぶキラの背中を見つめていた。 その背中からは不安と期待…いや、それ以上の強い意志が放たれているようだ。 誰もかも打ち負かすような身勝手な強さではない。むしろそんな奴らや世界へ、敢然と立ち向かおうとする強さがそこにはあった。 黒革のブーツを履き終わったキラは立ち上がって振り返り、俺を真っ直ぐ見つめた。 俺は相変わらず、こいつのこの視線が苦手だ。照れて、何も繕えなくなってしまう。 せめて最後の日だけ
「禁区」 作詞:売野雅勇 作曲:細野晴臣 編曲:細野晴臣・萩田光雄 1983年9月7日発売の6枚目のシングル曲。 アルフィー「メリーアン」、杏里「CAT'S EYE」、葛城ユキ「ボヘミアン」、H2O「思い出がいっぱい」、杉山清貴&オメガトライブ「サマー・サスピション」といった、そのアーティストを世に知らしめた楽曲がヒットした時期。 これら以外のヒット曲は、長渕剛「GOOD-BYE青春」、岩崎宏美「家路」、シブがき隊「挑発∞(MUGENDAI)」、河合奈保子「UNバランス
答えは難しくなんてなかった。そうか。そうだったんだ。 「今の僕は、繋がること……繋げていくことだと思っています」 彼らは僕の言葉に、穏やかに頷いているように見えた。 「信頼し合える関係を誰かと築いて、その思いをお互いに、ずっと長く持ち続けられるように努力し続ける……それがきっと、誇りを持って生きることに繋がると思っています」 僕は手の中の万年筆を見つめながら、導かれるように正解を口にした。彼と峰夫さんは穏やかに微笑んだ。 若い頃……今でもまだ若造なのだけ
日もすっかり長くなってきた。 五月病ともすっかり無縁になった僕は、無事にその季節を乗り越えた。 祝日が来なくてうんざりし始めた学生やサラリーマンを尻目に、お客さんのお宅からの帰り道で、鼻歌混じりに自転車を走らせていた。 「あっ。頼まれとった……」 ここ最近頭だけは一年中春の僕は、すぐに頼まれ事を忘れてしまう。父から万年筆を預かっていて、それを文具店に修理に出さなければならなかったのだ。 家に着くと母が帰っていた。僕が大枚を叩いたくるくるドライヤーよりも、恵
「じゃあ、隣に行ってくるけぇ頼むね」 和己さんがラジコンレース会場へと向かった。お店には近所のおばあさんとお孫さんがおり、恵美さんはその男の子に向かってクマさんロボットを歩かせて喜ばせていた。 母はいつの間にか何の気なしに店へと入り、店内の商品をあれこれと手に取って眺めていた。 お客さんが帰り、店内には母と恵美さんの二人きりになった。 店内へ顔を覗かせる僕の下から、やはり気になる和己さんも顔を出してきた。 母はこれまた、何の気なしに恵美さんに声を掛けた。 「こうい
聞こえてくるのは、夜警のサイレンの音だけだ。 午後九時前の浅田家の二階は、腕組みする男女三人が押し黙って考え込み過ぎていた。重苦しい雰囲気に押し潰されそうだ。 「あぁーもうー。こんなん分からんってー」 溜息をついて両腕を上げ大きく背伸びする僕を見かねて、幸がサッと立ち上がった。 「気分替えよう。カリッとすればいい案も思いつくかも」 そう言って数分後に幸が持ってきたのは、大野漬物店の白い沢庵と藤井茶店の伊勢のかぶせ茶だった。この組み合わせは最高だ。さすが幸だ。気が利
「和己さん、久し振りじゃねぇ」 翌日の昼頃だろうか。浅田精肉店に和己さんが豚ロース肉を買いにやってきた。 「いや、恵美に精付けてやらんとね。久し振りにここのお肉食べたいって言ったんですよ」 心なしか力のない声の中にある重要な単語を、陽治は聞き逃さなかった。 お身体が良くないのかと尋ねると、昨日の昼に病院から帰ってきたのだと和己さんは答えたのだった。 「和己さーん。恵美ちゃん大丈夫?今度の月曜日にでもお邪魔しようかって思うとるんじゃけど、いいかなぁ」 変に気遣わな
再就職活動がいまいちうまくいかないので、気分転換に三瓶山(さんべさん)に行ってきました。SANBE BURGERのエッグバーガー🍔パティが炭火焼きの香りして肉肉しくて美味しかったです。
「落花流水」 作詞:松本隆 作曲:林田健司 編曲:坂本昌之 2005年12月7日発売のシングル曲。 テレビ東京系放送の新春時代劇「天下騒乱 徳川三代の陰謀」主題歌。 同時期のヒット曲は、 修二と彰「青春アミーゴ」、レミオロメン「粉雪」、 EXILE「ただ…逢いたくて」、SMAP「Triangle」、 BUMP OF CHICKEN「Supernova/カルマ」等々。 男性アイドル、アーティストが強い時期のようだ。 中森明菜ほど、日本の「赤色」である、 「紅」、そして「朱
水曜日は燃えないゴミの日だ。その日の陽治の朝一番の仕事はゴミ出しだ。 それは僕も同じで、大抵同じ時間帯に顔を合わせるのだった。 あれは桜も散り始めた四月半ばの水曜日だった。 陽治がゴミ袋を二つも抱えて収集場にやって来ると、ホビーショップの和己さんが一つだけゴミ袋を置いて帰っていくところとぶつかった。 袋の表面に幾つも突起があるのが、陽治にはとても奇妙に映った。 何気なく挨拶を交わして和己さんが去った後、陽治はその袋に手を触れた。 そしてその場に、僕もまたゴミ袋を
ときわ公園の梅が見頃になると、三月になったのだなと実感する。 そして街中に卒業証書の入った筒と花束とを持つ笑顔や涙顔の学生たちが溢れ出すと、いよいよ桜も彼らを祝うように咲き始めるのだと思うのだった。 あの石を彰君に貸してから二週間は経っただろうか。 鈴屋呉服店の裏口には、引っ越し業者の軽ワゴンが止まっていた。 彰君の荷物を運び出す作業服の男性が二人。店は昭次さんにお任せして、それを見守るひろみさんが路上に佇んでいた。 そこに現れたのは彰君だった。右手には何か色彩豊