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『人生万景』イサオヒロミ

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イサオヒロミの『人生万景』です。 仕事やプライベートで感じたことを書きまとめています。
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#エッセイ

『東池袋』人生万景

『東池袋』人生万景

「これあげる」
 20代前半。僕は池袋にある飲食店でアルバイトをしていた。そのお店で主任をしていた社員(僕よりも10個くらい年上男性)から手渡されたのはHMVのポイントカードだった。
「いえ、ここの僕も持ってるので、」
「知ってる。それはそれ。俊政(僕の本名)が映画に出るようになったことで全く映画を観てこなかった俺も映画を観るようになったの。趣味ができたお礼。受け取って」
 一度、

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『漆黒の罠』 〜人生万景〜

とんでもなくこわい思いをしました。今まで生きてきた中で1位かもしれません。幽霊とかよりももっとこわいやつです。

今日、ガチャガチャが出てくるところに前の人が取り忘れたかのようにガチャガチャが既に出ていました。説明書みたいなやつが入っていて重さ的に中身が入っているように感じたので、「マジかラッキーじゃんこれ」と蓋を開けてみるとなんと黒いゴギブリが入っていました。古い家に出てきそうな黒よりも黒のゴギ

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『生きていても、死んでいても。』 〜人生万景〜

『生きていても、死んでいても。』 〜人生万景〜

お世話になっていた先輩が亡くなった噂を聞いた。本当かどうかはわからない。でもきっと本当だと思う。信じたくはないけど。本当だと思う。そんな気がする。

あそこに行って、そこで訊いてしまえばちゃんとしたことが判ると思うんだけど。行っていない。行けていない、じゃなくて、行っていない。これからも行かない。行っちゃうと本当が確定になっちゃうから。

時々、先輩が住んでいた家の近くを通ることがある。わざわさ通

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『責任者』 〜人生万景〜

『責任者』 〜人生万景〜

デパートの上の本屋で立ち読みしていると、「羽生結弦の本あります?」と如何にも金持ちそうなお婆さんが、本の整理をしていた男性店員(20代前半)に声をかけたのが横目に入った。
意外にも近くに羽生結弦特集というかフィギュアスケート特集みたいなコーナーがあり「あ、羽生結弦が書かれている本はこれと……これ……もですね」とお婆さんに羽生結弦の自伝本みたいなやつと羽生結弦が表紙の雑誌を手渡した。
「ねえ、ちょっ

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『らしい』 〜人生万景〜

『らしい』 〜人生万景〜

京都にある親戚の家に泊まっている。そのことを起床時に思い出した。

布団から体を起こすと……水槽が目についた。

水槽に顔を近づけて覗いていると、「ウーパールーパーやで」という声が肩を叩いた。

振り向くと、目を擦りながらの姪っ子が立っていた。

「そいつらすごいで。ノウ食われても再生するんやで」

「ノウってこの脳?」

「そうやで。その脳やで」

調べてみると、心臓や目の水晶体、脊髄までも再生

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『待ち合わせ』 〜人生万景〜

『待ち合わせ』 〜人生万景〜

原宿駅で待ち合わせだなんて。どれくらいぶりだろうか。しかも竹下通り口だなんて。記憶にない、くらいない。ないのかも。待ち合わせしたことなんて。ここで。

……いや、ある。あるような気がする。思い出せないだけで。まだ竹下通りを歩いても許される年齢のときに。

大人になったら忘れてしまうようなネバーランド的なあれなのかもしれない。ここは。
……いや、ウェンディは憶えていた。大人になっても。実写版のやつで

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『忘れられない味と道』 〜人生万景〜

『忘れられない味と道』 〜人生万景〜

「五反田なら、大江戸線から浅草線で移動しますか?」と訊くと、「いや歩き。ここから20分くらいだから」と先輩は答えた。
……20分? と疑問には思ったけど、「まあ話しながらいこうぜ」と数歩先を歩く先輩を追いかける形で僕は六本木ヒルズを出た。

全く車に興味がない、と言っている先輩が、ランボルギーニの横幅について語っていた。

40分くらい歩いたところで「正味な話、あとどれくらいで着きますか?

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『ヨドバシカメラ吉祥寺店』人生万景

『ヨドバシカメラ吉祥寺店』人生万景

建物を出ると、先輩と、先輩の子供・Yくんとバッタリ会いました。ゆっくり話がしたいなあ、と思っていたので驚きました。
先輩と僕は挨拶もそこそこに、それぞれ腕時計に目を落としました。僕はそのとき予定がありましたが、明日にズラすこともできるような予定でした。ただ、明日にズラすとバタバタしてしまうので今日の内に処理しておきたい用事でした。日も暮れかけていたので、先輩も早く家に帰りたいような顔をしていました

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