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美術家(絵画、写真、映像、インスタレーション)です。http://hideonakane.com/

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マガジン

  • hideonakane 映画日記

    中根秀夫の映画日記。美術家です。ふだんFBに書いているものをまとめ直して公開します。基本的に映画館でしか映画は見ません。

  • 2024富岡駅から

    2024年6月27日〜28日、29日〜30日 2015年から帰還が始まり、事実上「復興計画」が完了したと考えられる楢葉町と、未だ帰還困難区域を抱える富岡町以北の大熊町、双葉町、浪江町ら自治体とでは、当然温度差がある。木戸駅がある楢葉町は小さな自治体だ。2013年から始まる自分の小さなプロジェクトの区切りと、震災から14年目を迎えても未だ帰還が許されない被災地と被災者の抱える「傷」と、その二つは切り離し得ないものだと考える。 今回は東京と浜通りを2往復し、富岡を拠点に、同町の特定帰還居住区域となった小良ケ浜地区と、すでに2017年に避難指示が解除されている浪江町東部の浪江駅から請戸漁港を経て双葉町の伝承館まで、それにいつもの木戸駅から山田浜までを小一時間歩き、その後に夜ノ森駅から大野駅までを歩いた。合歓の花が咲く季節だ。

  • 2024富岡駅と夜ノ森駅と

    今年は3月に寒さが続いたせいで、東京でもやっと 4月に入り桜の開花を告げた。比較的温暖な福島県の「浜通り」だが、満開とは程遠い状況が予想された。昨年泊まった富岡駅前の町営ホテルを予約したかったが、それがまさかの満室である。この週末に「世の森桜まつり」が開催されるからだという。少し迷ったが、富岡駅から北東約3キロのところにあるホテルを予約した。Googleマップによれば徒歩で40分かかるが、タクシーなら6分で到着するという。 実は昨年12月に来たときからこのホテルが気になっていた。というのも、2019年に開業したこのホテルは、富岡町の7%にあたる「帰還困難区域」に隣接する居住区域のほぼ北限に立地しているからだ。

  • 2023富岡駅と

    2023年10月から11月末まで郡山のギャラリーで展覧会をした。富岡から郡山に避難して来たという方にお会いし、そのことがずっと気になっていた。富岡は長らく代替バスの起点となっていて自分も何度もバスで往復したが、富岡がどういう町なのか、正直あまり考えたことがなかった。今回は富岡町の夜ノ森駅と富岡駅の二つと、双葉駅、大野駅、木戸駅の現状などを短く記録しておく。

  • 2023 夜ノ森駅と

    夜ノ森は双葉郡富岡町にあり、かつては常磐炭田の北限であった。そして、夜ノ森から北東7.4キロの大隈に福島第一原発、南東6.2キロの富岡には第二原発、そういう位置関係にある。首都圏へのエネルギー供給の歴史として考えておこう。夜ノ森は桜の名所である。夜ノ森の桜は「戊辰戦争後の1900年、相馬中村藩郷士の長男半谷清寿(はんがいせいじゅ|1858〜1932)が農村開発の着工を期し「桜」の木を植えたことに始まる」と書かれている。なにしろ福島といえばの「戊辰戦争」である。夜ノ森の桜といえば、1500本ともいわれるソメイヨシノの並木が全長で2.5キロも続く堂々たる桜の名所であって、震災前はこの季節に10万人もの観光客が訪れたという。去年2022年には夜ノ森公園脇の道路の通行が可能となり、夜ノ森全域で桜が楽しめるようになった。

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うつくしいくにのはなしⅡ − forget-me-not

うつくしいくにのはなしⅡ - forget-me-not 展 2019年3月18日 から3月23日 @GALERIE SOL▶ ああ、明日にでもあそこへゆこう なぜならいまの僕には、 昼も夜も、あの湖の水の 岸にくだける柔らかな音が聞こえるからだ。 車道を走っていようと 汚れた歩道に立っていようと いつも     W. B. イエーツ「イニスフリーの島へ」*1 真冬のさなかに 彼は消えていった 小川は凍てつき 空港はどこも人影がまばらだ そして雪は 街の彫像の輪

    • 幻の光/是枝裕和監督

      是枝裕和監督の「幻の光」(1995年製作)を見る。宮本輝の同名小説を原作としたこの映画は、是枝監督の最初の長編作品であり、主人公ゆみ子を演じる江角マキコもこれがデビュー作、ゆみ子の(初めの)夫役の浅野忠信も随分と初々しい。映画は「生と死」「喪失と再生」をテーマとし、物語の舞台は関西の下町(尼崎だという)から石川県輪島市へと紡がれる。 ゆみ子の祖母は「四国に帰る」と言い残し、そのまま行方不明になってしまった。祖母を止められなかった小学生の彼女は自責の念に駆られており、そんな時

      • ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選2024

        ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の傑作選。37年の短い生涯で40本以上の作品を手がけたという。時代を走り抜けたというか…。 37歳は夭折ではないかもしれないが、ファスビンダー(1945〜1982)がニュー・ジャーマン・シネマを代表する「才能」であったことは、今回上映の3本からも十分伝わってくる。ヴィム・ヴェンダースが同じ1945年生まれ、フォルカー・シュレンドルフ(1939〜)は少し年上か。ファスビンダーはヌーヴェルヴァーグから影響を受けているが、ゴダールが1930

        • 至福のレストラン/三つ星トロワグロ/フレデリック・ワイズマン監督

          巨匠フレデリック・ワイズマン監督(1930年生まれ)の「至福のレストラン/三つ星トロワグロ」を見る。4時間の映画で途中に休憩がある(最近は上映時間が4時間と聞いても長いとまでは思わなくなった)。ところで一般的の人々には「トロワグロ」とワイズマン監督と知名度が高いのはどちらだろう。 ワイズマン監督のデビュー作「チチカット・フォリーズ」(1967)は、マサチューセッツ州の精神病院を撮った作品であり、「社会派」というか、アメリカ社会の「負のシステム」を炙り出す映画作品を撮る監督と

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        うつくしいくにのはなしⅡ − forget-me-not

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        • hideonakane 映画日記
          254本
        • 2024富岡駅から
          5本
        • 2024富岡駅と夜ノ森駅と
          6本
        • 2023富岡駅と
          5本
        • 2023 夜ノ森駅と
          5本
        • 2022年 竜田駅から
          5本

        記事

          夜の外側 イタリアを震撼させた55日間/マルコ・ベロッキオ監督

          マルコ・ベロッキオ監督(1939年生まれ)の「夜の外側 イタリアを震撼させた55日間」を見る。 1978年、冷戦下のイタリア。キリスト教民主党の党首のアルド・モーロが、極左武装グループ「赤い旅団」に拉致された「アルド・モーロ誘拐事件」。その顛末を巡る「政治」の混沌を描いた前後編6話・計6時間からなる大作。自分は今年一番だと思う。凄い映画だ。 戦後、イタリアが共和制になって初めての選挙(1946年)で、アルド・モーロ(1916〜1979)はキリスト教民主党から初当選を果たす

          夜の外側 イタリアを震撼させた55日間/マルコ・ベロッキオ監督

          風が吹くとき/レイモンド・ブリッグズ原作

          レイモンド・ブリッグズ(1934〜2022)は、「スノーマン」の作者と言えば分かりやすいだろうか。彼の両親をモデルにした絵本「風が吹くとき」は、突如訪れた「核兵器の危機」についての物語で、1986年にジミー・T・ムラカミの監督でアニメーション映画として製作された(翌年日本でも公開)。音楽をロジャー・ウォーターズ、主題歌「When the Wind Blows」がデヴィッド・ボウイということで当時見た人もいると思う。自分は今回が初見だ。 ジムとヒルダは郊外の小さな家に住んでい

          風が吹くとき/レイモンド・ブリッグズ原作

          マリウポリの20日間/ミスティスラフ・チェルノフ監督

          ミスティスラフ・チェルノフ監督の「マリウポリの20日間」を見る。 マリウポリは、ウクライナ東部ドネツク州にある石炭や鉄鋼の輸出で栄えてきた港湾都市だ。ロシアにとってマリウポリは、ロシアが併合したクリミア半島と本土を結ぶ重要な位置にある一方で、ウクライナにとっては黒海の北のアゾフ海にアクセスする要衝である。 2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻。各都市に爆撃を開始する。 AP通信社のジャーナリスト、ミスティスラフ・チェルノフとエフゲニー・マロレトカはロシア軍の侵攻

          マリウポリの20日間/ミスティスラフ・チェルノフ監督

          リッチランド/アイリーン・ルスティック監督

          アイリーン・ルスティック監督の「リッチランド」を見る。ハンフォード・サイトに核燃料生産拠点が建設された戦争末期の1943年、「マンハッタン計画」に従事する労働者とその家族が近隣の町リッチランドに移り住んだ。4年半に及ぶ現地での取材で、ルスティック監督は地元住民のさまざまな意見に対して慎重に耳を傾け、アメリカという国の「かたち」を静かに見据えてきた。 ドイツに先駆けて原子爆弾を開発すべく、秘密裏に進められた「マンハッタン計画」には3ヶ所の拠点があった。ロバート・オッペンハイマ

          リッチランド/アイリーン・ルスティック監督

          壁は語る/カルロス・サウラ監督

          先週の「情熱の王国」(2021年)に続き、カルロス・サウラ監督(1932〜2023年)の遺作となった「壁は語る」(2022年)を見る。一見すると古代の洞窟壁画と現代のグラフィティーを繋ぐドキュメンタリー映画と思うかもしれない。 「壁は語る」はドキュメンタリー映画ではあるが、例えばほぼ同世代のフレデリック・ワイズマン監督(1930年生まれ)の系譜(?)のような「静的な」それとは対照的に、監督自身が映画に主演しながら「興味対象に向かって」ぐいぐいと突き進む、そんな演出となってい

          壁は語る/カルロス・サウラ監督

          情熱の王国/カルロス・サウラ監督

          スペインのカルロス・サウラ監督の「情熱の王国」を見る。今回初めてサウラ監督の作品に触れるのだが、1932年に生まれ、昨年2023年に91歳で亡くなっている。「ミツバチのささやき」のビクトル・エリセ監督(1940年生まれ)より一世代上になろうか。サウラ監督もまたフランコ政権に強く反発したひとりである。 メキシコのとある劇場で、演出家のマヌエル(マヌエル・ガルシア=ルルフォ)が、若者が演じるミュージカルの主演と共同演出とをサラ(アナ・デ・ラ・レゲラ)に求める場面から始まる。とも

          情熱の王国/カルロス・サウラ監督

          アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家/ヴィム・ヴェンダース監督

          ヴィム・ヴェンダース監督の「アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家」を見る。 自分は美術家なので、こういう場合、映画の何を「語る」べきかを迷う。「ベルリン天使の詩」以来、ヴィム・ヴェンダースは自分がもっとも信頼する映画監督のひとりだ。たとえ前作の日本で製作した「PERFECT DAYS」は腑抜けた作品ではあったにせよ。 1980年代終わりから90年代にかけて、自分が大学生の時のことだが、ヴィム・ヴェンダースに憧れたのと時を同じくして、アンゼルム・キーファーというドイツのアー

          アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家/ヴィム・ヴェンダース監督

          夜ノ森駅から大野駅まで

          その5 2024年6月30日 日曜日 承前 ホテルをチェックアウトする。10時08分富岡駅発、10時13分夜ノ森駅着。 夜ノ森駅の西口側を出て北に向かって歩く。突き当たり左手に「福祉の里」の看板がある。今は5つの施設とも移転し、そこには何もない。4月に来たときには、旧福島県立富岡養護学校もすでに更地となり、春を彩るはずだった桜の木も全て伐採されていた。赤土の空虚な土地。もうそれに気づく者もないだろう。すぐ先の高台にある福祉施設も、随分前に解体されてしまった。もとの入口付近

          夜ノ森駅から大野駅まで

          富岡駅から木戸駅へ

          その4 2024年6月30日 日曜日 承前 ホテルの4階の窓から朝焼けが見える。 富岡駅から出る上り方面の始発は6時過ぎだ。昨日の合歓の花を見るため、早めにホテルを出た。庭木には、時々の「流行り」があり、映像撮影のためにその夏の花を随分探し回ったのだが、うちの近所 は1960年台に開発された大規模団地のためなのかついぞ見たことがない。木戸駅(楢葉町)の周辺にも合歓の木はないが、2021年7月に訪れた大野駅(大熊町)周辺は、そこかしこに花を咲かせていたのを覚えている。 06

          富岡駅から木戸駅へ

          富岡駅と

          その3 2024年6月29日 土曜日 富岡駅と 承前 前日にこちらに戻ったばかりだが、午前中の仕事を終え、横浜経由でふたたび品川へ。木曜日と同じ14時45分発常磐線特急ひたち17号に乗車。17時14分いわき着。下り原ノ町駅行き各駅停車に乗り換える。 17時17分いわき駅発。夕方の車内も、木曜日と土曜日とでは目に映る風景が一転する。私服姿の高校生が、労働者風の男性が、買い物帰りの親子がいる「日常」。隣で満足げにカプセルトイの空ケースを手にするのは…留学生なのだろうか。四倉

          浪江駅から請土漁港まで

          その2 2024年6月28日 金曜日 浪江駅から請土漁港へ 承前 夜ノ森駅10時20分発下り原ノ町行き乗車。浪江駅10時34分着。 古いブログを確認すると、6年前の2018年2月23日に浪江を訪ねている。2017年10月常磐線の竜田〜富岡駅間が復旧し、新しく整備された富岡駅前のターミナルから代替バスに乗り、帰還困難区域(夜ノ森、大野、双葉駅は閉鎖中)を通過して浪江駅で下車した。震災前には2万人が暮らしていた浪江町は、この時点で306世帯440人が帰還していた。現在は13

          浪江駅から請土漁港まで

          富岡駅から夜ノ森駅へ

          その1  2024年6月28日 金曜日 富岡町にある小良ケ浜地区は、今年2月に「特定帰還居住区域」に認定された。前回4月に訪ねた時は殆ど中には入れなかった。わかりにくい言葉だ。福島第一原発から北西方向に残り続ける「帰還困難区域の一部」に対して、まずは「特定復興再生拠点区域」が設定された。富岡町でいえば夜ノ森地区(2023年4月1日解除)がそれにあたり、また大野駅や双葉駅の周囲などでも「復興」の足がかりとなる地域の整備が行われた。常磐線が全線開通したのも、この「特定復興再生拠

          富岡駅から夜ノ森駅へ