至福のレストラン/三つ星トロワグロ/フレデリック・ワイズマン監督
巨匠フレデリック・ワイズマン監督(1930年生まれ)の「至福のレストラン/三つ星トロワグロ」を見る。4時間の映画で途中に休憩がある(最近は上映時間が4時間と聞いても長いとまでは思わなくなった)。ところで一般的の人々には「トロワグロ」とワイズマン監督と知名度が高いのはどちらだろう。
ワイズマン監督のデビュー作「チチカット・フォリーズ」(1967)は、マサチューセッツ州の精神病院を撮った作品であり、「社会派」というか、アメリカ社会の「負のシステム」を炙り出す映画作品を撮る監督という印象だ。脚本や台本(ナレーションや字幕)も音楽も無いドキュメンタリー映画のスタイルを作ったのがワイズマン監督で、そのスタイルは今も多くのドキュメンタリー作家に受け継がれている。
自分は最近では「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」(2019)を見ているが、今は多少は丸くはなった感はあるが、手法としては変わらず人と人との関係性を丁寧にカメラで追い、それが不思議と社会の構造として可視化される。
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今回の映画は、三つ星レストラン「トロワグロ」の3代目ミッシェル・トロワグロが、先代が築いた遺産であるロアンヌの店舗を閉め、ウーシュの森の中のオープンした新しいレストラン(オーベルジュ)を巡るドキュメンタリーである。広大なキッチンで働く料理人チーム、様々な生産者たちと土地の食材へのこだわり、ホールのスタッフと一流の味を求める客、それにミッシェル本人が加わり、人と人との会話や、言語外のコミュニケーションから、実に多くのことが語られる映画なのである。
とはいえこの映画に通底するのは、現場から退いたミッシェルと3人の子どもたち、4代目としてトロワグロを引き継ぐ長男セザール、新たな店に挑戦するレオ、そして宿の運営業務を担う長女へと、文化的資産を「次世代」へと引き継がれていく「響き」なのではと感じている。おそらくコロナ禍をして、ミッシェルにそのことを決断させたのではないか。
長男セザールの料理人としての誇り、あるいは次男レオがコースのテーマに選据えた「ウクライナ」のこと。1930年生まれの映画監督フレデリック・ワイズマンの栄光はまた、同じく1930年にオープンし、55年間三つ星レストランの栄誉と賞賛を受けてきた「トロワグロ」の歴史と重なると気づいたのだろう。最高の料理を提供する人生も映画を撮る人生も、同じように尊いことである。