◆事例比較の考え方等を基礎付けうると思われる「異化」と「ダイアローグ的(ないしポリフォニー的)」という二つの文学的視点について、C・ギンズブルグが歴史的考察に付している。 「異化 ―ある文学的手法の起源」 「他者の声 ―近世初期イエズス会士たちの歴史叙述における対話的要素」
◆「謎掛け・謎解き」は、厳密方面に行けば学問や法廷等となり、気楽方面に行けば推理小説・クイズ等となる。しかしC・ギンズブルグは、シャーロック・ホームズの方法を19世紀末頃の推論的範例の一つとし、これを長大な歴史を持つ思考類型の系譜に位置付けた。こうした自在な横断的知性が好きだ。
◆訴訟等法実務に飛び込めば、狭小で単調な実証主義的姿勢はすぐに行き詰まり、懐疑から楽天的に至るナラティブ的姿勢はお呼びですらない(これらが結局は「力への信奉」を生むことは興味深い)。そこで徴候からの推論的範例・徴候解読型パラダイムを駆使するのであるが、方法論の蓄積は十分だろうか。
◆対象を突き放して距離をとるとは、逆なでに読むことでもある。作り出し使ってきた者の意図に逆らい、そのテクスト・伝統・歴史を読めなければならない。その姿勢で判例を分析し文学を批評するなかで、新しい諸項の接続秩序が徐々に見いだされていく。カルロ・ギンズブルグ『歴史を逆なでに読む』参照
◆「小さな問題も大きな問題も、すべてはつながっているのですから、なんの予想もなんの期待ももたず、白紙の態度で研究を根本から始めても、幸運にさえ恵まれれば、まったく地味な研究からでも大問題の研究への糸口がひらけてきます」(フロイト『精神分析学入門」33頁)。神は細部に宿れり。
◆どう読んでいくか。「ある厳格な尺度を導入すると、その尺度にはずれるものは見えなくなってしまいます。そこで私は顕微鏡的視点の導入を考えたのです」(C・ギンズブルグ「歴史と想像力」現代思想 1986.14-12.p48)。これにより、一般化されていた認識を揺るがせることができる。
◆現実を掴むための資料や証拠の捉え方について、素朴実証主義(開かれた窓)でもなく懐疑的相対主義(妨げる壁)でもなく、徹底吟味を要する「歪んだガラス」と捉えるカルロ・ギンズブルグ教授。構築的作業を不可欠としつつ現実原則を堅持して対象に迫ろうとする。仮現実アプローチに類似するか。
◆「人間は、言語や思考に反映されているものを見る限りでは、現実を一つの連続体ととらえていない。むしろ不連続で、対立的な範疇に規定された一つの領域と見ている」C・ギンズブルグ「高きものと低きもの」 そこで通常の見方から離れて創造的な認識を得るためにレトリック的諸方策が必要となる。