はじめてシーザードレッシングを作った。おいしいけど、『エイリアン』に登場するアンドロイド・アッシュの目や口から漏れ出る液体に似ている。
「僕は、とんでもないものを託されたようです」 「どうしたの?」 困り顔のアッシュを、心配そうにマリカが見る。 「僕の中で色々な機能がアンロックされて…」 ムウの遺産は、扱いを間違えば世界を滅ぼす。愛が、解除の鍵? 「とりあえず、観測ドローン起動。ピサロ軍の動きを探って」
「アッシュ、これは何なの?」 「ビリヤードですね。チェスのように戦略が問われます」 見守るマリカは、赤子のマリオを抱いていた。敵地で大した度胸だ。 (長靴半島の人はみんな、家族を大事にするわ。それにどんな悪党でも、赤ちゃんを見れば和むでしょう) 周囲の反応は、狙い通り。
結婚式には、アッシュの母タイムもポータルで招かれていた。 「父さんにも、お前の晴れ姿を見せたかった」 「火山で会いました。でも勇者オレガノが生きていると、不都合な人がいるようですね」 このまま、カラカラに移住してほしいと。ムウ国王の危険な野心について、アッシュは母に語った。
宝珠とヨミコの呪力は、想定を遥かに上回った。 「マリカさん、これでシャルロッテさんと逃げて」 パラシュートを託すアッシュ。 「ムウの人造勇者、逃せば後の災いとなる」 八つ首の巨大な影が、少年を襲う。 「アッシューッ!!」 マリカの悲痛な叫びが、ピラミッドにこだました。
今日こそはフリウリの教会で、アッシュとマリカの結婚式。見守るのは、神父役のシャルロッテ。厳密には救世教徒でないが、二人の強い希望で。 「愛は寛容で、親切でち。人を妬まず、驕らず…愛は絶える事が無いでち」 そして、一同が見守る中。 「誓いまちゅか?」 「誓います」
ベスビオ山に行くのは初めて。ポータルは使えない。 「アッシュは力を温存なさい。あたしが全力で送り届ける」 全速で魔法の箒を飛ばすマリカ。しっかり掴まるアッシュ。 「たぶん、マリカさんの力も必要です」 「シバルタ1回分くらいは残しとくわ」 空を駆ける二人。間に合うか?
シャルロッテたちが、カラカラへ戻ると。 アッシュが、カルカス市内へのポータルを開いていた。 「勇者のチカラで、一度行った場所へポータルを開けるようになりました」 「オレは、拒まれたはずだが?」 事情を聞いたクワンダが察する。 「ゲニン。お前の夢が、宝珠にも伝わったかもな」
「おぬしら、どちらでもないのじゃろ?」 「わしらが留守を預かるゆえ、行ってくるがいい」 アントニオとおばば、いつ仲良くなったのか。 「外交に行くなら、エウロパのお土産が要るでち」 「フリウリのワインに、ヴェニスのガラス細工とかどうかしら」 後日、ヴェニスから了解も取れた。
数日後、国王に謁見するアッシュ。 「よもや、呪いに打ち勝つとは」 「仲間が助けてくれました。旅に出るお許しを」 すると、王は古文書のページを示した。 「世界に散らばる、7つの宝珠を集めるのじゃ」 同じ頃、フリウリ村でも。 「行ってきます」 「気をつけるんだよ」
歓待を受けた日の夜。 目覚めると、夢の中のフリウリ村。 「起きたわね。彼があたしの勇者様よ」 「どうも、アッシュです」 「シャルロッテちゃんが来た以上は、安心するでちよ」 やや頼りない少年だが、いい目をしてると思ったそのとき。 「いたぞ、怪しい奴が」 警戒を促すクワンダ。
彼女の話によれば。 この村の住人は、寝ている間に魂が身体から抜け出し、遠くの土地で豊作を守る戦いに加わるらしい。 「僕はアッシュ。勇者オレガノの息子として、旅立ちを期待されてたけど」 「あたしが助けを呼んでくるから。悪夢に負けないで」 つないだ手の温もりを、僕は忘れない。