マガジンのカバー画像

唸る!

179
唸ったり、ホロリ、ホンワカ、キュン、、、な、皆様の素敵な作品や御記事を集めました✨
運営しているクリエイター

記事一覧

【短編小説】ヒトリ珈琲

【短編小説】ヒトリ珈琲

■バニラマカダミア~金田由紀子(45)

消える、ってどんな感じだろう。

夕食をテーブルに並べながら、ぼんやりと由紀子は考えていた。
死んでしまおう、なんて絶望感はない。痛いのも苦しいのも、いろんなところがぐちゃぐちゃになるのも嫌だ。もとからそんな勇気は持ち合わせていない。

そんなことではない。

カレンダーを見る。
赤丸のついた日はパートにでる日だ。

明日は早出で、苦手な増山さんとコンビを

もっとみる
短編小説:さよなら7

短編小説:さよなら7

空が透明に晴れた日曜日、あたしはナナと電車に乗っていた。

普段あたしは一切外出しない、それは生活のすべてが家の中で完結するからで、かつあたしは、外の世界があんまり好きじゃないからだ。

いつもならナナが何を言おうが、「イヤや、行かへん」とあたしが言えば、大体ちょっと不満そうな顔をしてから「こんないいお天気やのに」なんてぶつぶつ言いながらナナは一人で出掛けて行く。あたしはこの「あんたがひとりで行け

もっとみる
夏の残り火 ネコミミ村祭りスピンオフ企画

夏の残り火 ネコミミ村祭りスピンオフ企画

 

 残 照   【579字】

熱波の絶えぬこの頃。暦の如何に拘わらず、ここは真夏の底に埋まっている。
そんな中に一筋の秋がある。点Aの私と、そして点B。この線は秋を持っている。
点Bは時に虫の声、時に傘から滴る雨、ふとした陽射しの緩み(太陽だって完璧ではなく、私のように寿命を持つ身)、鳥に忘れられた空蝉、日陰の水たまり、俯いた向日葵、ちぎれ雲、水鳥の夏羽とさまざま。

盛大な花火大会は既に

もっとみる
俳句|猫はみな名をもつと君のいふ秋

俳句|猫はみな名をもつと君のいふ秋

 ねこはみななをもつと きみのいふあき

 SNSで、可愛い、オモロい犬猫のネタを探しているとき、「猫の数だけ名前があるね」と言われた。猫の大勢集まるお寺さんでも、全員に名前がつけられているようだ。
 そんなこと、とくに意識していなかったな、って感慨。秋とは繋がらないけど。

 どんな映画か忘れたし、他の場面も記憶にないのだけれども、お爺さんが小さな子どもに、「猫には名前が三つある」と教えていた。

もっとみる
【謹賀新年】ドレミの歌を考察し隊

【謹賀新年】ドレミの歌を考察し隊

「ドレミのうた」には原曲がある。

もともとミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」内で使用されていた"Do-Re-Mi"がそれに当たる。1961年にペギー葉山氏が日本の唱歌として発表し、今や誰もが知っている名曲となった。2007年には、文化庁と日本PTA全国協議会により「日本の歌百選」にも選定されている。

前置きはこれくらいで良いだろう
さっそく本題に入る。
本稿では「ドレミのうた」の歌詞

もっとみる
ふたたびのエモ1グランプリ

ふたたびのエモ1グランプリ

前回の記事はこちら。

パソコンの画像フォルダをつらつらと眺めておりましたら…
昨年撮った写真がありました。

わりとエモいと思うので、ふたたび「エモ1グランプリ」に参加します。
前回が日の出の写真だったので、今回は日の入りです。

撮影場所:大阪・マーブルビーチ
使用カメラ:LUMIX GF6
使用レンズ:G X VARIO 12-35mm/F2.8 II ASPH.

このレンズ、中古で買った

もっとみる

不幸に安住する人

 書くかどうかはわかりませんが、幸せの定義がずれている人を描きたいです。とてもグロテスクな生き方です。そういう状況に陥っている事こそが怖いという事になるでしょう。
 怖さを極める事は、このnoteでは受け入れにくいことかもしれませんが、他に書くところがわからないので、怖い事ばかりを、ここでも考えていこうと思います。
 以下、大まかなストーリーラインです。

暗闇の檻
 身体が壁に叩きつけられる音が

もっとみる
響灘 夕涼景

響灘 夕涼景

残暑お見舞い申し上げます

 夏の夕暮れ時になると、この小さな岬には日没を眺めるために、いつも数十人が集まってくる。見晴台、波打ち際の岩の上、丘のごつごつとした岩肌など、思い思いの居場所に腰かけ、静かにその時を待つ。たとえ曇りの日でも、日没の直前に太陽が顔を出すことがあるので、その一瞬のドラマチックな光景を求めて、必ず誰かが来ている。

この日は朝から快晴の一日。しかし黄金色の雲のヴェールを

もっとみる
炭酸刺繍

炭酸刺繍

有言実行の私。
この企画も〆切ギリギリ、ギリギリガールズで参加します🙋‍♀️
普段575で考える癖がついていて、短歌のようなものになりますが、俳句や短歌も短い詩ということで秋さんどうぞよろしくお願いします。

赤い糸
炭酸の泡繋いだら
あなたの胸に
ブツブツ刺して
私の名前刺繍する

コレハワタシノモノデス、と。

炭酸の泡が弾けた瞬間に
プッツリ切れた
私の理性

透明な炭酸水に
まっ黒なコー

もっとみる
SS【風向き】#シロクマ文芸部

SS【風向き】#シロクマ文芸部

小牧幸助さんの企画「風鈴と」に参加させていただきます☆

お題「風鈴と」から始まる物語

【風向き】(1378文字)

 風鈴といえば夏だと思うのだが、トモエさんの家の縁側には一年中風鈴がある。
 三月に私が引っ越しの挨拶にうかがった時、家の奥から『ちりーん』と音がして、あれ?風鈴みたいな音……と思ったら、やっぱり風鈴だった。

 私が引っ越してきたのは祖父母の家で、二人が亡くなってから長く空き家

もっとみる
大暑の午後に

大暑の午後に

灼熱の太陽に 蝉の声が止んで

私の耳の奥の蝉が鳴く

昨夜の花火のにぎやかさを最後に

時は数え歌を忘れたように なりを潜め

うだるような暑さの中で

私の思考が溶け始め

煮えたぎる血が どろどろと身体にまつわり

これから先の地球の夏を憂う

乾いた土に空けられた無数の空洞を見つけ

そは 蝉の巣穴かと問うまでもなく

かすけき希望の穴をみつめながら

耳鳴りの蝉と灼熱の身体を持て余しつつ

もっとみる
短編小説:かつて僕らの世界のすべて

短編小説:かつて僕らの世界のすべて

それは、ミナミの雑居ビルの中にあるカウンターだけの、別に洒落てもいなければ綺麗でも新しくもない小さなカラオケスナックだった。店の名前は『五月』さつきではなくてごがつ。店主である僕の母の名前がメイなので、つまり自分の名前を付けたのだ。

六月の蒸し暑い金曜の晩、その日は週末だというのに夕方降った大雨のせいか客足の酷く悪い日で、母はカウンターの中で常連のキープボトルのウィスキーを炭酸で割って勝手に飲み

もっとみる
谷郁雄の詩のノート21

谷郁雄の詩のノート21

これは永福町に買い物に行く途中で発見した壁画です。正しくは、きれいに白塗りされたブロック塀に描かれた「クレヨンしんちゃん」でしょうか? しんちゃんは怪獣の着ぐるみを着て、楽しく遊んでいるようです。これを描いたお宅のご主人はクレヨンしんちゃんがよほど好きなのかもしれません。他にもいくつものバージョンのしんちゃんが描かれていました。なんだか、見ているだけで、こちらの顔がゆるんでしまいました。これだから

もっとみる