2022年9月の記事一覧
ハードボイルド書店員日記【104】
「そのやり方、盲点でした」
もうすぐ21時。閉店業務に要する時間は、少し前にレジが新しくなってから15分は縮まった。単純に機械任せのパートが増えたからだが、営業中の人為的ミス減少も大きい。特にお釣りを全自動で排出する機能に助けられている。いまや誤差が出る頻度は町の本屋でカフカ「城」にエンカウントする率と変わらない。かつては沢木耕太郎「深夜特急」だった。
すでに一台のレジは締めが終わり、電源も落
ハードボイルド書店員日記【103】
「なーんかいいアイデアないかなあ」
3連休前日の金曜日。あと10分で開店を迎える。取次から送られてきた段ボールを全て開け、書籍をブックトラックに乗せた。雑誌の品出しも終わった。ようやく各々が己の業務に取り掛かる。
ビジネス書の品出しと棚整理を同時に進める。10時半までに終わらせれば、版元から直納されて仕入れ室に積まれた荷物も午前中に出せる。出せば動くかもしれない。黄泉の国から蘇ったサリンジャー
ハードボイルド書店員日記【102】
「ない? ないかなあ」
珍しく平和な木曜日。週末に備えたカバー量産の好機だ。カウンター脇に置かれたPCの前に小柄な老紳士が立っている。「少々お待ち下さいませ」アルバイトの女の子が戸惑い気味にキーを叩く。折る手を止め、もうひとりのレジ担当に断りを入れて救援に向かった。「大丈夫?」「あ、すいません。この雑誌をお探しなんですけどヒットしなくて」折り畳まれた正方形の紙片に「棋道」と記されている。しばし筆
ハードボイルド書店員日記【101】
「どっちがいいと思いますか?」
1月始まりの手帳軍団が到着した月初。展開は中旬からと朝礼で言われた。それまでの宿泊場所が問題だ。近々来襲する家計簿連合のステイ先も考慮すると、仕入れ室は文字通り一触即発。カレンダー共和国との国境紛争まで勃発しかねない。
隣のレジに背の高い女性が来ている。モデルの富永愛に似た別の人だ。カウンター上に文庫が2冊置かれていた。「えっと、どっちがいいというのは」対応して