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#エッセイ
移動すること、意味もなく(信濃毎日新聞連載4)
信濃毎日新聞での連載「思索のノート」の第4回です。2020年6月の文章。大学の授業も会議もオンラインになり、移動が極端に減った日々について。その後、年度後半は対面授業が再開されましたが、一年後の今、緊急事態宣言によって大学はまたオンラインで、ずっと自宅周辺にいる生活。移動することの必要性を、一年経った今でも同じく切実に感じています。
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新しい日常、なのだろうか。いつもの喫茶店はテーブルをひと
好きを口に出すことと、好きが磨耗すること
二年ほど前に、突如としてお笑いコンビの和牛を好きになった。
当時はまだ全国放送でのテレビ出演が今ほど多くなくて、私は毎日、彼らの動画を漁った。
日に日に思いが募る。次第に、その気持ちを自分ひとりの胸のうちにしまっておけなくなった。和牛が大好きなことを、誰かに言いたい。
感情が重すぎてひとりで背負うのが苦しいから、切り分けてほかの人にも背負わせたいのだ。
同時に、「誰かに言ってしまうのが勿体
世界はあなたを発見しない
日曜日は夫、(川内イオ)の新刊「農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦」(文藝春秋新書)のトークイベントへいってきた。私は、受付や本の販売など裏方担当しつつ、トークを聞いていた。
たくさんの美しいハーブと共に広島からさっそうとやってきたのはハーブ農家の梶谷ユズルさん。梶谷さんは自他共に認める「スーパースターファーマー」だ。
現在、梶谷さんは三ッ星レストランを中心にハーブを取り引きをしている。そ
あの日の焼きそばと「PV=C/(r-g)」
投資銀行の勤務時間は9時5時で、これは朝9時から朝5時の意味である。終電を見送りながら晩御飯を食べ、始発と競争する毎日だった。帰宅してシャワーを浴びたらスーツを着て、そのまま玄関で寝た。
僕がそんな世界に入ったのは、大学を2留したからだ。それでも受け入れてくれる会社を探していた。面接ではたまたま前日に観たニュースについて聞かれ、僕はまるでイタコのようにニュースキャスターの口ぶりを真似した。そのま
仕事のことばかり考えていたら、感性の根っこが腐った
生活のすべてを無印良品に委ねた無印良品ばかりを買うようになったのは社会人になった頃だったろうか。
無印良品は、暮らす上で必要な日用品が揃っている。無印良品を選んでおけば間違いないから、必然的に身の周りのものが無印良品だらけになった。
無印良品の良いところは、これを買う理由がきちんと説明できるところだ。生活になじむ、値段が高すぎない(= 質に見合っている)、そこそこおしゃれ。つまり、東京で一人暮