うつ病になった親友と話した、「私とあなたを大切にすること」
自分で思っていた以上に、悪い状態だったみたい。
目の前の親友は、ビールをひとくち飲んでからそう話しはじめた。
うつ病で2ヶ月間休職したのち復職、少しずつ勤務時間をのばして今は以前と同じようにフルタイムで働いているという。
私が彼女の異変を初めに感じたのは、今年の6月にもらったLINEから。
なんだかずっと身体がだるくて集中できなくて、夜は眠れない。急に涙が出てくるときもあるんだよね
この文面を見て私は、こう返した。
もしかするとうつの初期症状かもしれないから、一度病院に行ってみたら?
友は最初、
そんなに悪いわけじゃないから、様子を見るよ
と言った。そう言いたくなる気持ちに私も覚えがあったので、
ちがったらちがったで良いんだし、自分のメンテナンスのために病院に行ってもいいんだよ
と返し、私が冬の間に通っていたメンタルクリニックのURLを送っておいた。
私はこれとまったく同じやりとりを、他の人としたことがある。そのとき自分は、通院を勧められる側だったのだけど。
勇気を出して行ってみた病院で「冬季うつの傾向があるね」と言われ、漢方を出してもらいながら通院した。(幸いなことに軽度ですみ、仕事は休まずに通えたし、春がきたらすっかり元気になった。)
今思うとあの頃はかなり元気がなかったのだけど、しんどい渦中にいるとき案外、自分では気づけないものなのだ。
そして、自分に対して「今は頑張らない」という決断に○を出せるという意味でも、通院してよかった。対応が遅れるほど、状態は悪くなり回復は遅くなる。
そんな話をしてからしばらくして、友は病院を受診。うつ病と診断され、休職することになった。
ストレスの一番の原因は、職場の人間関係だったという。
クリニックでは、「認知行動療法」(思考や行動の癖を把握し、自分の認知・行動パターンを整えていくことでストレスを減らす方法)のセッションを受けているそうで、そのことを話してくれた。
この治療法で不可欠なのは、自分の心の動きに注目して言語化していくプロセスだ。
「相手ばっかり優先していたと、初めて気がついた」
友:セッションのなかで、実際にあった出来事を振り返るんだよね。例えば同僚とのやりとりの一コマを詳細に思い出してみる。「で、あなたはそのときどう思ったの?」と先生に聞かれて、びっくりするほど説明ができなかったんだ。
「ーさんが喜んでくれた」「ーさんが不機嫌になってしまった」と、相手の気持ちばかりが出てきて、自分の気持ちが全然わからないの。
「自分の気持ちを置き去りにして、相手の気持ちばかり大切にしている自分」に、生まれて初めて気が付いたんだ。ずっと無自覚だった。
私:無自覚って危険だね。人間関係において「相手に合わせること」が必要な場面もあるんだけど、それを自分の意志で選択しているのか無意識にやってしまうのかは、大きくちがうよね。
友:そうなんだよ。意識的に「自分」と「相手」とのあいだに境界線を引くことや、自分の気持ちに目を向けることを、今必死で学んでる。
私:「自分」と「相手」の気持ちを両方とも大切にしながら関われるのが一番いいよね。自分をないがしろにして相手だけを大切にするというのは、長期的にはうまくいかない。
友:あなたのために言ってるのに、なんでわかってくれないの?って思っちゃったりするしね。健康的な関係じゃない。
私:私、以前に発達障害の子に教える仕事をしていたころ、コミュニケーションを学ぶ「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」のクラスがあって。よく「I(アイ)メッセージ」という方法を教えてたのね。相手じゃなくて、自分を主語にして伝えるやり方。
「あなたはこういうところが良くない」とか「これではあなたが困る」じゃなくて、「私はあなたに〜をされて、悲しかった。」みたいに、自分(I)を主語にして気持ちを伝えるの。結果的に、自分と相手の両方を尊重することになる。
頭でわかってても、実際やるのが難しいことは多いけどね...
友:自分の気持ちに目を向けるところから、始まるんだよね...
「自分で自分を苦しくしていた」
私:「自分の気持ちに目を向けること」って、どうやって学んでるの?
友:日々、修行だよ。日記を書いたり、先生に話したりね。この前先生と議論になったのはね、「忘年会が5回ある」という話。
私:そんなあるの!?笑
友:いろんなチームの人と仕事をしているからね。当然出るつもりだった、5回。だって私は下っ端だし復帰したてだし、断るという選択肢はないと思って。
そしたら先生に「本当の自分の気持ちは?」って聞かれたから考えてみたんだけど、行きたいと思えるやつはひとつもないんだよね。笑
それを先生に伝えたら「じゃあ出るのは一個くらいにしといたら?」って言うんだけど、いやいや、絶対に無理です!って。
私:行かないと、その後の仕事に響いたり人に迷惑がかかるものなの?
友:いや、よくよく考えるとそんなことないんだ。人によく思われたい、っていう自分の気持ちの問題だったんだよね。でもそのことをなかなか認められなくて。議論になっちゃった。笑
私:私も似たことあった。仕事でちょっとタスクオーバーになっちゃってしんどくて、上長に相談したの。もともと担当していた仕事と、新しく担当するようになった仕事の両方をやろうとしてたからなんだけど。
上長は私の話を聞いて「それは、ひとつに絞った方がよいね。片方の仕事を手放すうえで、何がネックになってるの?」って聞いてきて。
「え、私がこれをやらないとパフォーマンスがさがるし…」って、言いながら気づいたんだ、そんなことないぞって。むしろ両方やろうとしてチームのパフォーマンスを下げてるぞって。
要は、自分の気持ちの問題だったわけ。
もともと担当していた仕事は好きだし、できるイメージが湧く。対して新しい仕事は未経験で難易度も高くて、失敗するのが怖い。だから、後者にフルコミットするのを避けてたんだなって、「あーこれは自分の問題だー!」って。笑
それで、元の仕事は他の人に引き継ぐことにしたんだ。実にあっさり手放せた。
友:私の忘年会の話もそうだけど、結局自分を苦しめているものや縛るものは、自分自身だっていうこと多いよね。
私とあなたを、大切にすること
そんな感じで私たちは、「自分と相手を大切にすること」について延々と語り合ったのだった。そして、こういうことを日常的に学ぶ場が今までほとんどなかったことに気づく。
親友は「病気になったことをきっかけに、大事なことを学べた」と言っている。その通りだと思うし、病気そのものに善悪をつけるつもりはないけれど、同じことを病気になる前から学べたらもっとよかったのに、と思う。
基本的に子どもの頃から習ってきたことって「人とうまくやるスキル」で、それを人は「社会性」と呼び「コミュニケーション能力」と呼ぶ。
人を大切にできる人は「優しい」と評され、自分を大切にすると「わがまま」「マイペース」と陰でささやかれる。でも、自分を置き去りにして人のことばっかり大切にするのって、本当に良いことなんだっけ。
「私」と「あなた」の両方を大切にすること、そのためにまず「私」の気持ちに目を向けること。これがもっと当たり前になれば良いと思うし、その実践ができる場をもっと広げて行きたいなあと思う。
その文脈で注目している活動があるのだけど、それについてはまた改めて。
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