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【短編集】 誰でもない誰かの話

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音楽に乗せて読み進める暗がりに転がった 小さなストーリーを書いています。 少し未来が見える話たち
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【短編】日が昇る四畳半②

【短編】日が昇る四畳半②

①はこちらから。

カーテンの色がブルー。
僕の部屋ではない場所で目が覚めた。レモングラスの香りがして頭が冴えていくが少し気持ち悪くて起き上がれなくて横になっていた。これが二日酔い。人生初めてだ。
「あき、おはよう。」
秋夜さんが、声をかけてくれて、ようやくここが秋夜さんの部屋だと分かった。
「ごめんなさい、僕…。」
「止めなかった俺も悪いよね。ごめんね。」
秋夜さんがペットボトルの水を渡してくれ

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【短編】梨花さんと僕

【短編】梨花さんと僕

「家にまっすぐ帰りたくないの。
休みの日に夫と出かけるのも嫌。
深夜帰って夫が起きてると、なんで?って思うの。
ゾッとしたのは、パスタ。
わざわざ作って置いてあったの。
もう、うんざりよ。
深夜に帰ってパスタ一人前食べると思う?」

ファミレスに僕を呼び出して、梨花さんが言った。
僕は夜9時前にはお風呂に入って、10時からはドラマを見ながらウトウトして、半分くらいでもう寝よって、眠りに就くのが至福

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【短編】ロマンチックな猫と現実離れな煮干したち 2

【短編】ロマンチックな猫と現実離れな煮干したち 2

歌が好きな従兄弟には昔の記憶がないらしい。
無理もないと思う。11年前の海で大事なものを全て失ったから。大地震の後に津波が来て街を飲み込んで行った。私はその話、話で聞いただけだから言葉以外では知らないんだけど。
目の前で飲み込まれる全てを見ながら従兄弟は気を失って、そのまま、うちに来たのだ。

従兄弟は生まれつきで金髪だった。
私は不思議に思いながら、羨ましくてその髪をよく触っては怒らせた。形のい

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【短編】結末はわかっていても

【短編】結末はわかっていても

期限付きの恋を始めたのは、
カラオケに一緒に行った帰り道だった。

佳奈美は、歌がうまくて、
でも別に歌手は目指していない。
学祭のカラオケ大会は優勝賞金三万円だから、
そのお金欲しさにエントリーを決めた。

ちょっと付き合ってって誘われて、
トマトジュースを飲みながら
田舎の老人しか来ないカラオケ屋で
ひたすら同じ歌ばっかり聞かされた。

たまに歌えって言ってくるし。
なんか面倒だなって思いなが

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【短編】青い月が見えたなら

【短編】青い月が見えたなら

誰でもない誰かの話

学校で飼っている
パンダ柄のウサギが子どもを産んだ。

大事に大事にみんなで育てましょうって
全校集会で校長先生が言ったんだそうだ。
6年生の飼育委員長が教えてくれて
ダンボール箱の中を見せてくれた。

ふーんって感じだ。

俺は、ビルメンテナンス会社から
派遣されている用務員で、
派遣先が小学校と聞いた時は驚いたけど
毎日、コイツらといたら慣れてきた。

大学を卒業しても就

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【短編】さよなら現実

【短編】さよなら現実

誰でもない誰かの話

「高校野球が人生の全てではない。」

随分、無責任なことを言う医者がいるんだなって
病院を出た夕焼けの下、
頭の中で言葉が何度も再生された。

それが、4年前。

俺は、高校時代、試合で投げすぎて肘を壊し、
野球をやめた。

夕焼けを見るたび、
あの頃通った医者の言葉を思い出してしまう。

こんな綺麗な夕焼けが
こんなに痛いのはなぜだろう。

今日も面接に手応えがなかった。

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【短編】ドリンクバーと幸せを

【短編】ドリンクバーと幸せを

誰でもない誰かの話

誰にも気を使いたくないから飯は1人だ。

とりあえず、残業も終わって、
運転して
開いているチェーン店に来る。

個人店だと、なんか悪いなって思うから。
弁当屋が開いていれば、個人店も良いけど。
開いてないし、うちにゴミを増やしたくない。

今日はガストに寄って
「いらっしゃいませ、何名さまですか。」
俺は人差し指だけ立てて
「おひとり様ですね、空いているお席にどうぞ」
席に

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