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家族のこと

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娘や夫のはなし
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#日記

春に包まれる話

春に包まれる話

「いま、見て、なかったでしょー!」
もー、と言う声に顔をあげた。

全身で抗議する娘のジーンズを夫が手で払っている。遠目でも、夫の手が触れるたび小さな何かがはらはらと落ちるのが見えた。芝や落ち葉がついたのだろうか。大きく転けた?
わずかな不安がよぎるが、娘はまっすぐこちらを見て頬を膨らまし、その娘の腕や背をはらう夫が肩を揺らして笑っているのを見て気掛かりは安堵に変わる。

「次はちゃんと見ててねー

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祖母と手紙と1万円

祖母と手紙と1万円

毎週末、祖母へ手紙を書いた話。
(写真は昨年のお花見で、娘が祖母にプレゼントしていた桜の花びら)

祖母私の祖母は、大正生まれの97歳。

若いころ女学校の先生をしていて、その頃から90歳になるまで、ずっと趣味の踊りを続けていた。元気で、声が大きいおばあちゃん。
毎日寝る前にカーラーを巻いてくるんとさせた、まっくろなショートヘアー。
10年以上前、私の祖父にあたる夫を亡くしてからは、ずっとひとり暮

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いつか見る打ち上げ花火へ

いつか見る打ち上げ花火へ

「はなび、きれーい」

夕方のニュースで、今年中止になった花火大会の話題が取り上げられていた。画面には昨年の映像が流れている。テレビいっぱいの、鮮やかな大輪。

ぱらぱらぱら、と散っていく映像をぼうっと見ながら、少し気持ちが萎む。本当は今年、家族揃ってはじめての花火大会へ行くつもりだった。

今年の4月、少し早めに小さな甚平を買った。娘が選んだホタル柄。夏に入る目前、花火大会が全国で軒並み中止とな

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娘とくつしたの話

娘とくつしたの話

自分でなんでもやりたい娘と靴下の話。

「娘ちゃーん、お母さんお迎えにきたよー!」

先生の言葉でパッと顔を上げ、ニコニコした顔で腕を振って走ってくる。まだ加減を知らない3歳の娘を、ドンっという音とともに胸で抱きとめる。止めていた息を小さく吐きながら、少し前まで娘が座っていた場所を見る。机には塗りかけのカラフルなカブトムシ。その横には、茶色、黄色、黄緑、出しっぱなしのオレンジ色のクレヨン。

カブ

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いつだって子どもは、私たちの先を行く。

いつだって子どもは、私たちの先を行く。

#3歳の娘は昆虫が好き

「みて!虫がいるよ!」

娘は虫を見つけると、満面の笑みで報告をし、繋いだ手を力強く引っ張っり教えてくれる。私は、虫と出会ったことを大袈裟に喜び、発見した娘を褒める。

傷だらけのカナブン、寿命を終えたセミ、蟻に羽を食べられたトンボ。目に入る虫たちを、地面スレスレまで顔を近づけて、時間を掛けてじっくりと観察する。(観察対象はだいたい死んでいる)

娘が熱心に観察をしてい

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手のはなし

手のはなし

娘の小さな手の思い出話。

0.0しおしおとして、触れると壊れてしまいそう。小枝のようだった。ふるふると震えるのは、この小さな娘か、私か。脆く崩れそうで、触ってもいいのだろうかと迷う。自分の子どもなのに。息を吐き、ゆっくり、右手の人差し指で肩を撫でる。あたたかい、ちいさい、生きている。大きく泣くたび、ぐっと力を込めるこぶしの関節がじんわりと白く滲み、ただひたすらに、命を感じる。

0.1泣いている

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母と回転寿司の話

母と回転寿司の話

私の母、私、娘と回転寿司に行った時の話。

離乳食期、3世代のお店選び私の娘が産まれてから、母とごはんを食べる機会が増えた。60代の母、30代の私、そして娘。娘が離乳食期の頃、お店は決まって回転寿司だった。

脂っこいものが苦手な母。騒音が苦手な私。静かで落ち着いた場所は少し気を遣ってしまう娘。

回転寿司は、メニューや環境が母と私の希望に合う。何より、子ども用の食器や椅子があって、小さな子どもも

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娘が歌う「恋」のうた

娘が歌う「恋」のうた

3歳の娘が日々歌う「うた」について。

うた1日に何度も耳に流れてくる娘のうた。大きな声でにこにこ楽しそうに歌う時もあれば、覚えたてでたどたどしく、つぶやきほどの小さな音を紡ぎ出すこともある。

保育園でみんなと歌ったうた、

テレビで流れるキャッチーなCMのうた、

好きな番組のオープニングで流れるうた、

そして、私や夫の好きなうた。

「恋」のうた私の夫は仕事柄運転が長い。高速道路の情報を得

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雨の日、餃子の話

雨の日、餃子の話

大雨の7月、前日から朝にかけ警報レベル4が出たため、保育園の登園自粛要請を受け、お休みしていた日のこと。

はじまり夕方テレビを見ていると、餃子のCMが流れた。ホットプレートの蓋を開けると、じゅうじゅうという音とともにぶわっと蒸気が舞う。

「わぁーぎょうざだ、娘ちゃん、ぎょうざ、すちなんだよね〜」

娘のお食事事情娘はたぶん、少し小食。たぶん、というのは平日保育園へ通っていて、保育園の先生曰く、

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あいすくりーむ解禁の話

あいすくりーむ解禁の話

3歳目前の夏、娘がアイスクリームを初めて食べた時の話。

アイスクリームのうた昨年夏、保育園で「アイスクリームのうた」を習ってきた娘。今年もふとした時に歌っていた。

 あいすくりーむー

 あいすくりーむー

 どこか〜ら どこか〜ら だーべよっかな〜

 ぺろん ぺろん

そしてこちらに視線をうつし、

「娘ちゃん、あいすくりーむ食べてみたあい」

と言う。

娘は3歳目前にしてアイスクリーム

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