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公園のベンチ

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女性同士の関係性がつよめな文字置き場
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【詩】ここにだけ在る

【詩】ここにだけ在る

隣にいても同じ景色はもう見えない
それでもこびりつく未練が目を凝らさせた
惹かれ合いすれ違うドラマの中の恋人たちに重ねた過去がバラけてく
嵌まらないピースばかりが溢れて散らばる枠のなか、四隅に沈む名残が体のどこかと繋がり引き攣れた
最初に忘れるのは声だというけど鼓膜に沁みた囁きは生き続け
寄り添った体温が消え去ろうとも擦れた粘膜の熱さはさめやらない
私の体という枠の中でだけ存在するパズルを果たして

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【掌編小説】レモンパイに連なる欲と真夏の一頁

【掌編小説】レモンパイに連なる欲と真夏の一頁

 レモンパイが食べたい、それかレモンケーキ。というかレモン味でクリームいっぱいだったら何でもいい。口を開けばレモンレモンレモン。確認するまでもなく暑さにやられている彼女は、それが自分を救う唯一のものであるかのように繰り返す。
 この場合、『買ってくればいいじゃん』という台詞は禁句だ。行けるものならとっくに行ってるし、それが出来ないからこんなにもおもいが募るんであって、このもどかしさを分かりきった一

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【詩】声

【詩】声

のし掛かる夏を掻き分けて留守電を聞く
街を埋め尽くす熱波、ぶつかり合う蝉の声、拭えどもしたたる汗は耳に押し当てたスマートフォンをも不快で括る
短気に侵食さていく脳と四肢、三度目でようやく上がったボリュームに舌打つまでがワンセット
こんなにもあんまりな自分なのに
比べて伝わる音のやわらかみといったらない
しっとりと響く木琴みたい
当社比六割増しの短気をたちまち飼い慣らした声が言う
『ごめんだけど、遅

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【詩】邂逅

【詩】邂逅

敢えて脇道に逸れ、靴を放り裸足で草を踏んで駆け出したくなる夜
ラム酒を垂らしたバニラアイスをベランダでひと掬い

もったりと纏い付く七月の熱に晒され、つめたいかたまりは一秒と経たず舌を濡らして口内へ満ちた
上顎に舌を擦り付けるのは、そこがとても甘いから

するりとした粘膜の感触が不在を突きつけ、カップの隅に溜まった乳白色がアイスの存在を証明する

酸いも甘いも凝縮された日々は止める間もなく過去と成

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【掌編小説】アメリカンドッグの女

【掌編小説】アメリカンドッグの女

 時刻は早朝、早くて四時台から遅くとも八時までの間にその人はやって来る。注文は決まってアメリカンドッグ、これは絶対。あとは牛肉コロッケか、はたまたハッシュドポテト。夏場はそこに焼き鳥の塩(皮かモモのどちらか)が選択肢に加わる。
 コンビニで働いていると、よく来る客や一癖ある客のことは割と覚えてしまうものだけど、彼女もその一人だった。
 客の少ない深夜から早朝は、廃棄を減らすためにフライヤーケースは

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【掌編小説】炎天下の彼女

【掌編小説】炎天下の彼女

これは、上記作品のメグ目線のお話です。

 立ちのぼる蜃気楼は打ち水をもろともせず、あっという間に乾いた路面を踏んだ彼女の白いサンダルを、健康的に日焼けした首筋を伝い落ちる汗を、私はこっそりと盗み見る。
 地面に焼き付いたみたいな彼女の影を踏まないように少し後ろを歩いていると、「また変な遊びしてる!」と彼女の声が飛ぶ。
 誤魔化すように笑いながら、本当は言いたかった。

『汐ちゃんの影を踏んで、そ

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【掌編小説】同級生

【掌編小説】同級生

 カノジョの周りの空気は何だかキラキラしていて、口を開けばそこにふわふわが加わる。そして何気なく返した言葉に飾らない笑顔を向けられたら、制御困難なドキドキまで乗っかってくるんだから勘弁して欲しい。
 甘いお菓子の匂いがしそうなあの子は自然と男どもの視線を引き寄せちゃってんのに、当の本人はまるで無頓着なんだからアブないったらない。自分を良く見せることに必死なクラスメイトとは別の種類みたいな。とにかく

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【掌編小説】風鈴

【掌編小説】風鈴

 人差し指の第二関節に引っかけた風鈴を差し出すと、彼女は得意気な様子でニッと笑った。湿気った暑さに耐えかねて、『アイス!』と唸りながら出て行ったのが少し前。十五分余りで戻ったその手首に戦利品の入った袋を提げながら、どこで出会ったものか、新顔の風鈴が鈎型に曲げられた指の下で涼しげな姿を晒している。
 冷房が効いていようが、払いきれない暑気の滲む室内で交わすおかえりのハグは一瞬だ。炎天下から帰還した背

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