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味噌用の「糀」ができるまでの記録

 味噌を手作りし始めて20数年になりますが、実は、糀はまだ手作りしたことがありません。しかしながら、滋賀県多賀町に越してきても、すんなり味噌づくりが続けられたのは、近くに糀屋さんがあるから。
 糀屋さんの存在に甘えて、今まで一度も糀作りにチャレンジしようとは考えたこともありませんでした。

 小倉ヒラクさんの『発酵文化人類学  微生物から見た社会のカタチ』や、『もやしもん』(石川雅之)、小泉武夫先生の『醤油・味噌・酢はすごい - 三大発酵調味料と日本人』で何となく知識を得て、ニホンコウジカビが胞子を増やしコウジが出来ることを頭で描いていました。本で見た知識しかなく、糀ができるまでを見学したいなぁ・・・と思い願っていたら、快く取材記録させていただけることになりました。感謝します。


昔ながらの糀屋さん

 滋賀県多賀町敏満寺集落にある糀屋、「渡辺糀店」で2024年3月の3日間、取材、記録、撮影をさせていただけました。創業100年ほどで、現在4代目だそうです。滋賀県内の糀屋さんは十数軒ほどしかなく、昔ながらの製法で作っておられる所はわずかなのだそうです。ムロ仕事も、今は機械化されていて、ローラーで混ぜてヒーターで管理しているところが多いと聞き驚きました。
 地域の人々の味噌づくりに無くてはならないお店で、糀は味噌作りだけでなく、お漬けもんや鮒ずしに入れる人も多いそうです。冬の間に買うといて、鮒ずしのご飯入れの時に糀を入れる方もおられるそうです。

昔ながらの街並みの中にあります

ジュウ

 糀作りをする期間は、10月から3月までの寒い間。
3日に一度、ジュウに100枚ほどの糀を作られています。糀を入れる箱、「こうじぶた」の事を、多賀の方は、「ばんじゅう」「じゅう」と呼んでいます。香川の実家では「もろぶた」と呼んでいました。
 渡辺糀店にある昔の「こうじぶた」は杉の木で出来ています。杉の木で出来たじゅうは、熱がこもりすぎて湯気の逃げ場がなくて、露だらけになるそうです。穴が開いているジュウを使うのは、温度を逃がすためで、1cmほどの穴を6個ほどあけています。

ジュウの上で仕上がった糀

糀か麹か

「麹」は中国から伝わった漢字、「糀」は、和製漢字でニホンコウジカビのみに使われるそうです。
 渡辺糀店さんの店名は「糀」を使われています。ニホンコウジカビが米に付いてできるので、「糀」とされたそうです。米に花とは、何とも美しい文字です。

お米

 お米は敏満寺の田んぼで、酒米用の「日本晴れ」を作っています。昔は5反ほど営農さんに田んぼをやってもらっていましたが、今は2反ほど。にこまるやコシヒカリ、ミルキークイーンなど、粘りが出るもっちりした食べ応えのある品種は糀が作りに適さないそうです。

カマドなど改修したのは平成元年

 1989年に今の作業場所に建てかえられました。
 平成元年当時、五箇荘町から90歳の左官屋さんが来てくださり、かまどを作ってくれたそうです。藁と棒を持ってきて計って行かれ、本当にそれで寸法が分かってできるのか不安になったそうです。当時、左官屋さんでも「おくどさん(かまど)」を作ることが無かったそうで、煙突に煙がひき込まれるように、風の流れをよめる職人さんが、90歳のおじいちゃんしかいなかったとのことです。
 以前は、台所の「デ」を使って、土間に「ムロ(コウジムロ)」とかまどがありました。半地下でドーム型のムロがあり、ドベ(土塀)のまわりを藁で囲っていました。地下にムロがあるのは、外気の影響が少ないので。
 2代目の時は、コークスをくべて米を蒸していました。4代目のKさんがお嫁に来た時は、すでにプロパンガスだったそうです。

改修前のかまど

1日目

 今回は、5斗8升、20㎏弱のお米から糀をつくります。蒸す前日の夕方に、米を洗って一晩ザルにあげておきます。

6:00 米蒸し開始

 羽釜の中、八分目までお湯を沸かし、木枠の台(シルバー人材センターの方が作ってくれたもの)を置き、上に手製の竹で出来た簾(す)を置き、その上に布(麻布を修理しながら使っている)を敷き、桶をのせます。

 桶は新調しています。鉄の鍋でも良かったのですが、重くて運べないので木製にしたそうです。岐阜木曽の桶。寿司桶を作っているところで、特注で作ってもらったそうです。サワラの木で、タガは金属製。タガが乾燥して緩んでくるので、タコ紐を編んで巻いています。
 木桶は、風が当たると「木がはしゃぐ」ので、夏場は、使う2~3日前から水に浸けておくそうです。

手作りの丸い簾。かまどの横に道具を吊るしています。
五円玉は、紐の先の目印に付けているそうです
大きな釜です。木桶と釜の間に麻の蒸し布

 蒸し布は麻で出来ていて、10年前までは京都の菱六もやしにもあったそうですが、今は無くなって同じ織り方の麻布を探しておられるそうです。簾は手作り、昔は棕櫚で編んでいたそうです。5円玉を付けているのは、紐の先の目印。

8:00 米蒸し終了

スコップで箕に出します
長年の感覚で、10等分が同量に分けられるそうです!!
リフトで2階に上げます

 蒸しあがった米を、スコップで箕にうつします。10等分に分けて箕にのせます。米を広げて冷やすために、リフトで2階にあげます。
「とにかく、なぶらんと(触らないと)冷めへん。かたよっていると中の温度が高くて冷めへん。」
 箕をのせるキャスター付き台は、ドラム缶に入った肥料を混ぜるためのものを改良しておられます。

蒸しあがった米を冷ます

 2階での作業。
蒸しあがった米を広げて人肌になるまで冷ましながら、ひたすら塊を手でほぐします。蒸しあがりの米はパラパラで芯があります。寿司米の方が糀を作るのに向いています。もち米系の粘りが強いお米はベタベタしていて糀作りに向かないそうです。

少し芯が残る蒸しあがり
広げて冷まします

 30~35度まで冷まします。温度が下がりすぎないように、様子を見ながら窓を開けたり閉めたりして作業します。夏場は扇風機を回しての作業になるそうです。

湯気で部屋が真っ白に。カメラのレンズも真っ白に。
糀つくり専用シートを引越し用の養生ふとんに縫い付けています

 20年ほど前までは、下に筵(ムシロ)を敷いていたそうですが、藁クズなど異物混入もあるので、カーペットに替え、そののち、引越し業者の養生ふとんを使っています。引越し布団にしたのは最近のこと。その上に、菱六さんで売っている糀つくりの専用シートを縫い付けています。

何度も混ぜて人肌まで冷まします

 温度を均一にするために、何度もひっくり返し混ぜます。20年以上、この作業は手伝いの人に来てもらっています。

タネコウジをふる

 人肌まで冷めたら、タネコウジ・モヤシ(コウジ菌)をふります。
 タネコウジをふってから、手でお米を潰しながらよく均一に混ぜます。タネコウジの成分のほとんどが米粉なのでサラサラで、混ぜると、さらにパラパラになるそうです。

タネコウジが入っている菱六さんの箱

 種麹、モヤシ(麹菌)は、「改良長白菌(カイリョウチョウハクキン)」京都の菱六(ヒシロク)で買います。200g入りですが、ほとんどが米粉で出来ています。

タネコウジをまきます
パラパラになります
保温のために三つ折りにします

 よく混ざったら保温のために三つ折りにして包みます。
リフトで運ぶ作業台は、近隣スーパーからもらったもので、これに合わせて家を建てる時にサイズを決めて作ったそうです。

リフトにのせて、2階から地下のムロへ

8:30 ムロ仕事

 1日目のムロ仕事は、1日4回。8時に種糀を振って人肌(約36度)まで冷めるまで置いておく、10時半、14時、17時と様子を見て、保温して一晩おく。ムロの温度は27~8度がベスト。

  リフトで地下のムロに運びます。オオダイバにひとまとめに重ねていきます。オオダイバは、昔から半地下で、地面で作業をしています。
 ムロの中で糀の山を作っている場所を、オオダイバと昔から言っています。

地下にリフトで運びます
改修前のオオダイバ(上)と、昔のたたずまい(下)

 もみ殻、布、ムシロ、布、の順に敷いて、その上に先ほどの保温している米を積んでいきます。
 ブロックの高さまでもみ殻を敷いていて、断熱の役割をしています。

もみがら
むしろ
糀作り用の布
スピード感が大事
布団をかけて保温します

 上から布団をかけて保温します。温度が下がりすぎないように一定のスピード感がいります。
 この時の外気温は5度。室温が19~20度がベスト。お米の中心部分の温度は、28~29度がベスト。
 午前中オオダイバのお米の中心の温度は1度下がり、お昼に27度くらいになります。夜は、30度を越えて一晩置き、翌朝40度超えます。発酵熱で上がります。

電気ストーブで室温調整しています
昔はムロに練炭を入れていたそうです

2日目

8:00 ぬるま湯をまいて混ぜる

8:00~8:40 
 糀にぬるま湯をまきます。糀と同じ温度のお湯、40度くらいのぬるま湯をまくのは、温度を上げるのと、米の塊をほどけやすくするため。
 かたよっているのを、手で砕いて混ぜ、右から左に寄せます。もう一度ぬるま湯をかけながら混ぜて、左から右に寄せます。糀の様子は、まだ蒸したお米のままの状態のもあります。この時の米の中心温度40.3度、室温17.3度、湿度81%。

ぬるま湯をまきます
塊を手でくだきます
右から左、左から右に寄せます。

 試しに、お湯をふらんとやってみたら、バラバラの糀ができたそうです。おばあさんも、なんでお湯をふるのかは、知らはらへんかったそうです。空気を混ぜてやるのも、さほどしんどくはないそうで、一番しんどいのは味噌混ぜるのがえらいとのこと。ムロ仕事は、そんなにえらくないそうです。
 しかしながら、時間に追われるのが小忙しい。
 コロコロの米の塊を潰しておかないとだめで、コシヒカリなど、もっちり系のお米はコロコロがたくさんできてやりにくいそうです。

コロコロはほぐしておく

糀に布団をかけます。今は引っ越し業者の布団をかけていますが、昔は全部ムシロだったそうです。ムシロを直にかぶせていたので、藁のスベが入ったそうです。

布団をかぶせて保温

10:00 ジュウに糀を盛る

10:00~10:30 
 一升(約1㎏)ずつジュウに糀を盛って小分けにします。盛ってから、枡の角で糀の真ん中に穴を開けます。ジュウに100枚前後とれます。
 温度が足らないと、糀の嵩が小さくなり、100枚より少なくなります。このオオダイバのサイズで最大140枚取れます。

一升ます
一升ずつジュウに入れて、熱を均一にするために真ん中に穴をあけます
じゅうとます

 ひと山に盛ってしまうと熱がこもり、ぶ厚いところは中がぬくとくなる(暖かくなる)。30~40度くらいがこうじ菌の活動が良いのですが、熱を持ちすぎるので真ん中に穴を開けます。
 ジュウに赤のシールを付けたのが蓋。ジュウを25枚(段)重ねて上に蓋をします(コウジブタ)。

赤いシールがコウジブタ

 昔からの古いジュウは、屋号の丸にカタカナのト、㋣の焼き印がはいっています。藤八(トウハチ)さんが初代でカタカナのトに〇です。これは100年ほど前の物。ジュウに穴を開けているのは、ジュウを新調してから開けたもの。新しいジュウは熱がこもりやすく、古くなったジュウに穴を開けたそうです。

消えかけて見えにくいですが㋣
100年前のモノ

14:30 混ぜて糀を山型に整える

14:30~15:00
 ムロの室温20度70%。糀の温度で室温が上がってきました。糀を混ぜる作業をしながら、温度が上がってきているかどうか?柔らかい感じか?を確認する作業を一つづつします。
 上下、ジュウを積みかえて、糀を山形に整えます。
 手のひらで糀をほぐして、コロコロの塊をつぶします。手のひらでこすりもって粒を崩して、空気を入れ替えるように上下をひっくりかえします。温かい所と冷たい所をまぜます。真ん中にオムレツのフライパン返しみたいにゆすって糀を集めてきて山にします。
 ムロの中の、ジュウの並びで、端に行くほど冷たいので、冷たいのは真ん中に並べて置きかえます。

空気を入れるように手のひらでまぜる
オムレツを作るフライパンのようにゆすって、真ん中によせて
中心をくぼませる

17:00 糀を4つの山型に整える

17:00~17:30 
 いきりやる(熱くなる)ので熱を逃すために、手でくずして糀を混ぜて上下返し、真ん中に寄せて、四つの山型に両手の小指側で押えます。糀の熱で結露が器に付くので、ジュウの淵に糀が付かないように真ん中に寄せます。
 混ぜて温度を均等にして穴あきと交互に積む。「身」だけにするので「蓋」を抜きます。「フウヌキ」蓋の穴あきのを取り、身だけにする「身蓋」。穴が開いていないのは「身」。
 一晩ムロに置きます。

 おばあさんが結婚する前に、京都でお針仕事をしていた時、近所に糀屋さんがあって、店先に飾ってあったのがこの四つ山があるカタチで販売されていたそうです。

両手の小指側で押さえて、山を四つ作る

3日目


9:30 ムロから糀を出して冷ます

ムロの中

 ムロの室温は20~25度、糀の温度は30~40度、自分で熱持っています。夏場は50度ほど上がり、50度になると自滅するので広げて熱を逃がしてあげます。
 コウジブタをリフトに乗せて、地下から二階に運び、畳の上に並べて冷まします。

畳に並べて冷まします
ふわふわに菌糸がのびた美しい糀!!

10:30 袋に入れる

 10:30ごろまで冷まします。窓を開けて湿度と温度をとばします。風がある時はすぐ冷めますが、温かい時は扇風機をかけます。

 出来上がった糀を、米用漏斗を使って袋に入れます。お嫁に来たころは、ビニール袋にいれていましたが、破れるので、シーツを縫製しているところがあって、綿で袋を縫ってもらいました。昔は米袋も布で、農協で紙の米袋を買うことも、しませんでした。
 オトシ板で糀を集めて袋に入れます。

 オトシ板で糀を集める
オトシ板で糀を集めて入れます

 今回はコウジブタ103枚分の完成。5斗5升、82.5㎏。1.5倍して㎏に計算するので、55×1.5=82.5 
 糀1升=1㎏の出来上がり量は、乾燥して1日経つと水分が枯れてくるので分量が900gまで減ります。糀を作っていた時、雨が降っていたら減らへんそうです。

糀の完成!!

昔は、糀だけを作っていましたが、大豆と糀を混ぜた状態まで作って、各家で保管できる状態で納品も数多くされています。いつの頃からか、味噌も作って販売するようになりました。また、塩こうじや甘酒も作って販売されています。糀屋さんの味噌作りと、甘酒作りは別で紹介します。

茹でた大豆と糀を混ぜた状態での販売もされています。


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