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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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2020年8月の記事一覧

相克と赦し。映画「戦場のメリークリスマス」と原作「影の獄にて」。

1983年の邦画「戦場のメリークリスマス」は当時大ヒットを記録し 今でも「なぜか」クリスマス映画として親しまれている 大島渚監督作品 だ。 ジャワの日本軍捕虜収容所を舞台にしたローレンス・ヴァン・デル・ポストの小説「影の獄にて」の映画化を構想した大島は、イギリスの若手プロデューサー、ジェレミー・トーマスと組み、ニュージーランド領ラロトンガ島で撮影を敢行して本作の完成にこぎつけたが、衝突する日英の軍人をデヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけしという異色のキャストが演じて騒然

新藤兼人が描いた記憶「さくら隊散る」_まだ40年しか経っていなかった。

忘れてはならぬ鎮魂の記憶。 現在公開中の大林宣彦の最新作にして遺作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」は「さくら隊」を題材に取り上げた。 「さくら隊」とは何ぞや? 昭和十八年の大映映画「無法松の一生」でヒロインに抜擢され、大戦下の暗い時代、凛として優雅な姿で日本人をうならせた女優・園井恵子。 彼女は、苦楽座の移動劇団、俳優丸山定夫のひきいる「桜隊」の一員として、昭和二十年六月末に広島に来て、そこを中心に中国山陰各地を巡演する。 爆弾が落ちることを知らなかった、彼らの1945

熊井啓「地の群れ」_差別、怨念、憎悪。マリアも崩れる日本の映画。

この邦画は、政治の季節の産物だ。 60年代末の日本に潜んでいた、あらゆる差別を告発する。と同時に「差別が憎しみあいを生み出す」構図も告発する。スパイク・リーや同様の烈しさで。 非常にラディカルな複数の題材をテーマに扱っているため、できるだけオブラートに包んで紹介する…そう、および腰にならざるを得ないほど、非常にポリティカルで、痛い映画だ。 だけど、書く。 過去に朝鮮人の少女を妊娠させながら逃げた男、宇南は医者として佐世保で診療所を開いている。その患者に原爆病と思われる少女

時代劇映画「ひとごろし」。 クールじゃない、弱虫毛虫の主演・松田優作。

村上透監督とタッグを組んで飛翔する前、松田優作が未だジーパン刑事を演じていたころ。「テレビ人気に肖って」主演した映画が存在する。 「あばよダチ公」「ひとごろし」「暴力教室」「龍馬暗殺」の4つだ。 後期の作品のようなドライでクールな感じはないけれど、どの作品にも優作らしさが見事に刻印されている。 今回は、このうち一番マイナーと思われる「ひとごろし」を紹介しよう。 原作は時代小説家・山本周五郎。 その早すぎる死で今や伝説的存在となったスター、松田優作が「太陽にほえろ!」の"ジ

夜行バス乗ってどこまで行こう。フランク・キャプラの「或る夜の出来事」。

ようやっと、高速バスに乗って旅しても良い(かに見える)ご時世になった。 夜行バスの旅のロマンを、スクリューボールコメディの中で描いたクラシック映画が、1934年製作、フランク・キャプラ監督「或る夜の出来事」だろう。 原作が「Night Bus」という名の小説である通り 夜行バスにヒロインが乗り込むところから、物語は始まる。 『或る夜の出来事』『IT HAPPENED ONE NIGHT』これは、フランク・キャプラの監督です。 もうアメリカの最もアメリカらしい作品です。そ

陰鬱で世界の果て。ドイツ映画の古典「カリガリ博士」。

たまには壊れた世界を覗きたくなる。歪んだ世界を目の当たりにしたくなる。 白昼夢の世界。 100年前の映画「カリガリ博士」は、いかがだろうか。 白昼に見る悪夢! あらゆるホラー映画の出発点になったドイツ表現主義の至宝。 あるドイツの田舎町、奇妙なカリガリ博士は夢遊病者を連れて見せ物小屋を開こうとする。 冷たくあしらった役人は死体になり、見せ物小屋の客は夢遊病者の予言通りに死んで行く…。 極端に白と黒のコントラストが強い映像とゆがんだ書き割り調のセット、不安定な空間に呪われ

映画「真田風雲録」_日本一カッコ悪い真田幸村、がんばる!

気魄、勇気、機知に溢れた名将。 真田は、五月七日の合戦にも、家康卿の御旗本さして一文字に討ち込む。家康卿のおん馬印臥(じるしふ)さすること、異国は知らず日本にはためし少なき勇士なり、ふしぎなる弓取なり。真田備えおる侍を一人も残さず討死させるなり。合戦終りて後に、真田下知を守りたる者、天下にこれなし、いっしょに討死させるなり。 山下秘録より引用 と家康の陣を震撼させた快挙、講談で謳われたのはもとより、後世の二次創作でも真田幸村はカッコいいものと、相場は決まってる。 実写

地球人の宇宙人、醜いのはどっち?2つのSF映画「The Day the Earth Stood Still」

「地球が静止する日」は、ちょうど十数年前の2008年に日本で公開、興収28億円を上げたSF大作だ。 「マトリックス」「コンスタンティン」と、甘いフェイスとスタイリッシュなアクションがバズったキアヌ人気も、緩やかな下り坂に入った頃。そこにトドメを刺した気がしてならない。 予告編が良さげだったので、リアルタイムで観に行った悪夢が蘇る。 NYのセントラルパークに巨大な球体が出現。降り立った宇宙からの使者クラトゥが現れた。アメリカ政府は危機対策チームを発足。幼い義理の息子を育てる生

「ラ・ジュテ」「過去を逃れて」「東京戦争戦後秘話」_ 過去と記憶と歴史を巡る断章、虚無。

過去、記憶、歴史。 どれも不可思議な存在だ。 過ぎ去ったものを忘れようすればするほど、何処までも追いかけてくる。 必死で逃げようとする:しかし、追いつかれた時、絡みとられたとき、ひとは死を選ぶほか、なくなる。 過去、記憶、歴史が孕む虚無 というものに男という生き物は惹かれるのだろう。そこから宝物を掘り当てようとする。真実()を突き止めようとする。 どうあがいてもそれは、深淵を覗くと同じ:どの男も最後、破滅からは逃げられない。 以下、作った国も、時代も、人間も、まるで違うが

今はなきミニシアターと、大林宣彦監督初体験の記憶を辿って。「長岡花火物語」。

ちょうど8年前の2012年夏、今はなき富山のミニシアター「フォルツァ総曲輪」で、大林宣彦を初体験した。わりと衝撃的な出会いだった。  普段ろくに映画を観ない(ジブリ作品すらよく知らない、この再上映に機会に慌ててスクリーンに駆け込む)父に誘われるがままだった。 いま(2020年)60近くの父は、80年代角川映画の洗礼を間違いなく受けた世代だった。「時をかける少女」の原田知世にときめいたひとり。監督の名前を見て、懐かしくなって、一緒に観に行こうと声をかけたのだろう。 暗がりの中

映画「マシニスト」 それは、襤褸をまとったココロとカラダ。平衡崩せばもどれない。

いま、この記事を書いている午前3時24分時点で、まったく眠気がない。 別になにがあったわけでもない。仕事でクタクタになった脳みそが欲するまま、昨夜午後23時40分に床につき、本日午前0時32分に浅い眠りから覚める。以降、ずっと頭が冴えている。 エンドルフィンがびゅーびゅー出てるのだろう。 テレワーク推奨なのは幸い? 別に不眠は私にとって珍しくもないが、こういう事態が何日も続くと、心が参ってしまう。 だから、本作品のクリスチャン・ベールの気分は、よく分かる。 工場で働く機械

贖罪、ワルツ、聖杯、「フィッシャー・キング」。ロビン・ウィリアムズが贈る大都会の魔法。

ちょうど1週間前の8月11日が、名優ロビン・ウィリアムズの命日だった。 アラジンのジーニー(の声)、ロボッツの発明家・フェンダー博士(の声)、 ライセンス・トゥ・ウェディングで主人公カップルのため一肌脱ぐ牧師、 そして、何といっても、ミセス・ダウト、ジュマンジ、ナイト・ミュージアムほか数多の名作映画で演じたネクスト・ドアーなお父さん役… 人生の指針になってくれた人、こんなオトナになりたい!と思わせてくれる人 だったと言えば、リアルタイムに彼の出演作に触れたことがない人にも

翼の汚れた十二人の使徒=無敵の人が暴走する戦争アクション「特攻大作戦」。

「十二」という数値は、西洋文明において重要な意味を持つ。 すなわち、ペテロ、ヨハネ、アンデレ、セベダイの子ヤコブ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの子ヤコブ、ユダ(ヤコブの子、別名タダイ)、熱心党のシモン、イスカリオテのユダの一二人=キリストの高弟の数。 法廷ものの傑作「十二人の怒れる男」がいまなお胸を打つのは、人が人を裁く、という非常に困難で、しかし高邁な使命を担わされる、巡礼者であることを見事に描き切っているからだ。 では、その担わされる任務が汚れていた

不愉快な言葉より、キザな言葉を!日活アクションの粋な世界、その極致「紅の拳銃」。

顔突き合わせれば、とかく不愉快な言葉で互いに傷つけ合う今日。 不愉快なコトバから逃避して、昔の映画を見ようじゃないか。 陽性で、朗らかで、らんらんらんな言葉のキャッチボールを味わえる。 そういう台詞回しが通用するのは、ファンタジーの世界以外にあり得ない。 高度経済成長期ニッポンを風靡した日活アクションが、まさにこの世界だ。 ひとことで日活アクションといっても、ふたつのベクトルがある。 ひとつは、「日活銀座」と呼ばれ全盛時代には名物だった(日活調布撮影所内の)広大な銀座のオー