
贖罪、ワルツ、聖杯、「フィッシャー・キング」。ロビン・ウィリアムズが贈る大都会の魔法。
ちょうど1週間前の8月11日が、名優ロビン・ウィリアムズの命日だった。
アラジンのジーニー(の声)、ロボッツの発明家・フェンダー博士(の声)、
ライセンス・トゥ・ウェディングで主人公カップルのため一肌脱ぐ牧師、
そして、何といっても、ミセス・ダウト、ジュマンジ、ナイト・ミュージアムほか数多の名作映画で演じたネクスト・ドアーなお父さん役…
人生の指針になってくれた人、こんなオトナになりたい!と思わせてくれる人
だったと言えば、リアルタイムに彼の出演作に触れたことがない人にも、分かるだろうか。
自ら命を絶ったのが、亡くなって6年経った今でも信じられないし、彼のことを想うたびに辛くなる。
今回は、ロビン・ウィリアムズの数ある名作の一つ、鬼才テリー・ギリアムと組んだ大人のためのファンタジー「フィッシャー・キング」をお送りする。
過激なトークで人気絶頂のDJジャック。ある日、彼の不用意な発言がきっかけで銃乱射事件が起き、地位も名誉も失ってしまう。失意の中で3年を過ごすが、ある日、ジャックはパリーと名乗るホームレスと出会う。パリーが3年前の事件で妻を失ったことを知ったジャックは、彼の力になりたいと考えるようになり、奇妙な友情が芽生えていく・・・。
監督:テリー・ギリアム
製作:デブラ・ヒル
製作:リンダ・オスト
脚本:リチャード・ラグラベネス
撮影:ロジャー・プラット,B.S.C
音楽:ジョージ・フェントン
パリー:ロビン・ウィリアムズ(池田 勝)
ジャック:ジェフ・ブリッジズ(大塚明夫)
リディア:アマンダ・プラマー(島本須美)
アン:マーセデス・ルール(小宮和枝)
キャバレー・シンガー:マイケル・ジェッター(山寺宏一)
ソニー・ピクチャーズ 公式サイトから引用
墜ちるところまで堕ちてから、始まるものがたり。
不思議な出逢いというものに、僕は弱い。
舞台はニューヨーク。 過激な発言を連発、今でいう炎上マーケティング的な人気を得ていたDJ・ジャック(演:ジェフ・ブリックス)は、ある日しっぺ返しを受けてしまう。
「ヤッピーを殺せ!」
この放言を真に受けたリスナーが、銃乱射事件を起こしてしまったのだ。
バッシングされるのは当然?結果、彼は名誉も職も家族もすべて、失ってしまう。 この落ちぶれて見る影もないジャックに、奇妙な男が手を差し伸べる。
男の名前はパリー(演:ロビン・ウィリアムズ)。 聖杯を探す使命を神から与えられたと、彼は語る。「胡散臭い」やつだと思いつつも、しかし、ジャックはパリーをほっとけない。
やっぱり、ロビン・ウィリアムズは魔術師だ。
ロビン・ウィリアムズという役者は、周囲の人間を(そして観客である僕らを)、今の世界とはまったく別の世界へと導いてくれる、魔術師だった。
いまを生きるしかりジュマンジしかりナイト・ミュージアムしかり…。
彼の代わりは、他にいない。
彼だけが操れる魔法に、本作ではテリー・ギリアムの「現実と幻想とを横断させてみせる」魔法が加わる。 幻想的な世界が、いつしか現実をも凌駕するほどの圧倒的なリアリティを伴って立ち現れる。
例えば、こんなシーンがある。
パリーには、リディア(演:アマンダ・プラマー)という想い人がいた。 ふたりは、偶然にもニューヨーク最大級の駅:セントラルステーションのメインコンコースで巡り会う。 周囲は、顔を持たない人たちでラッシュアワー。
その雑踏のなかに、姿を見つけあったふたりは、互いに惹かれ合う。
瞬間、周囲は絢爛豪華な舞踏会の世界へと変わる。
ビジネスマン、主婦、学生に老人:見も知らぬ人同士が、互いの手を握り合い、軽快なワルツを踊る。 そのワルツの中をくぐって、ふたりは接近する。
ふたりの行く手をダンスの人垣が、モーセの奇跡のように分かれて通す。
ふたりが話を始めた途端、ワルツの輪は途切れる。 もとの雑踏に戻る:
広大かつ華麗なコンコースの空間がまさに劇場や音楽ホールを思わせる世界に切り替わる。 本来互いに無関心な雑踏が、ほんの一瞬だけ、優しい表情を見せる。不思議を、ギリアムが、ウィリアムズが、起こしてみせる。
ギリアムの魔法は、「ゼロの未来」といい「未来世紀ブラジル」といい、悪趣味でビビッドな世界に陥りがちだ。
本作では、それとはまったく無縁な「優しい世界」を作り出す方向へ100%働いているのも、ジョン・ウィリアムズという役者がうまく「良心」となって、「悪趣味」を「粋」へと属性転換させているからだろう。
ロビン・ウィリアムズだよ?ハッピーエンドに決まってる。
最終的に、聖杯を手に入れる(というか持ち逃げする)ことで、パリーとジャックが、「目の前の相手の傷を癒す」互いの願いを互いに叶えることができる。
人間として、ジャックは、パリーは、再生する。
夜の中、ふたりの男は、それぞれの想い人と肩を寄せあう。 夜空に打ち上がる花火は、彼らふたりの救済を祝福する。
ロビン・ウィリアムズなくしてはこの結末はあり得なかっただろう。(テリー・ギリアムは、丸く収まる話しすら最後でひっくり返しがちだ。)
心が寒い日、あったかいところが欲しくなる日にこそ、不意に観たくなる映画だ。
※本記事サムネイル画像はCriterion公式サイトから引用しました。
いいなと思ったら応援しよう!
