成瀬巳喜男監督「あにいもうと」_不幸な兄きよ、永遠に。
大正時代を代表する作家・有島武郎(1878−1923)は、1916年に妻を亡くした。
その時彼は遺された三人の子供に、短編小説の形を借りて、次の言葉を贈った。
お前たちは去年一人の、たった一人のママを永久に失ってしまった。お前たちは生れると間もなく、生命に一番大事な養分を奪われてしまったのだ。お前達の人生はそこで既に暗い。この間ある雑誌社が「私の母」という小さな感想をかけといって来た時、私は何んの気もなく、「自分の幸福は母が始めから一人で今も生きている事だ」と書いてのけた。