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みちのくを彷徨う仲代達矢=一文字秀虎=リア王。それが邦画「春との旅」。


個人的な悔しさぶつけて いいですか?

仲代達矢率いる無名塾の東京公演 今年は、折からの事情のために、中止。
週末の楽しみが、奪われてしまった。

世間にとっては「終わった人」なのかもしれないが、自分は、仲代達矢の舞台を、ずっと追いかけている。
老いてもなお主役を演じ続けようとするひと。老いの恍惚と愉楽の間際で、舞台の上で楽しく笑うこの人が、好きなのだ。追いかけ続けたいのだ。
(それは、名優の最後の姿をまぶたに焼き付けておきたいという、観客として残酷にすぎる感情と、紙一重ではあるのだが!)

コミカルに徹した2016年の「おれたちは天使じゃない」

狂気の間で彷徨う老醜無残の「かつての名優」を演じる一人芝居にシビれた
2014年の「バリモア」。

善とも悪とも言えない、しかし最後あてもなく荒野を流離う姿は悲しい、
2018年の「肝っ玉おっ母と子供たち」。


ぜんぶがぜんぶ「乱」一文字秀虎の延長線上。
老いてもなお安らぐことない、激しい<内なる力>を爆発させる。
生々しく激しい花火、エンターテインメント。その醍醐味にまた逢えることを楽しみにしていた、なのにこの仕打ち。

悔しがっても仕方ないので、
「あなたの知らない仲代達矢の素晴らしさ」お届けしたいと思う。
今回紹介するのは「春との旅」
期せずして「震災前であった」東北を舞台に、ある老人が、秀虎よろしく、子供たちの間を行ったり来たりすることとなる。
この作品から、10年代の仲代達矢は、始まる。

「バッシング」「愛の予感」の名匠・小林政広が、仲代達矢を主演に描く家族のドラマ。共演に徳永えり、大滝秀治、菅井きん、田中裕子、小林薫、柄本明、香川照之ら豪華キャストが揃う。4月の北海道。孫の春に面倒を見られながら静かに余生を過ごす元漁師の忠男は、人生最後の住まいを求め、親戚縁者を訪ねる旅に出る。家族との確執や過去との対面により、忠男と春は人生そのものをじっくりと見つめ直すことになる。
【スタッフ】
監督、原作、脚本    小林政広
【キャスト】
仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、菅井きん、小林薫、田中裕子、淡島千景、柄本明、美保純、戸田菜穂、香川照之
引用元:映画.com  作品情報

一言でいえば「ものすごく身勝手なおじいちゃん」。


70歳を過ぎ、人生が終わりに近づいているのに、今もなお自分自身が抱え込んだ夢を追い続ける中井忠男(演:仲代達矢)。自分の夢のために周囲を顧みず、可愛い孫(演:徳永えり)すら省みずに振り回す。

いろんなところにお邪魔し、厄介になろうとしても、発作的にいちゃもんつけてしまい、結局去る羽目となる。たとえ肉親、それも兄弟の家であっても、必ず喧嘩をしてしまう。(お邪魔する相手=喧嘩相手が、柄本明ほか、人が良さそうな役柄の面々揃えているのが、なんとも切ない。)

あてもなく(期せずして、まだ震災の被害を被る前の)東北の大地を(鉄道を乗り継ぎながらも)さまよう姿は、間違いなくリア王。
仮にもサムライで精悍だった名残のあった一文字秀虎と違って、いや、舞台の上の孤高でカッコいい姿とすら異なって、この凡人たる忠男は、腹が突き出して太っているのが目に見えてわかって、醜い。老醜が日本の街路を歩いている。

それだけで、2時間持たせる。それが本作の製作をひとりで引き受けた小林政広の力量だ。

監督・小林政広とは?


1954年生まれ、処女作撮った時38歳、「春との旅」のとき56歳、現在66歳。

意外と歳を食ってる、遅咲きの作家だ。

彼自身が話すところによれば
かつて、彼はフランスの名匠 フランソワ・トリュフォーに近づくことを目指していた。徹底的に模倣するため、70年代には実際にトリュフォーの助監督になろうと渡仏したほどだ。 
が、自作が出来上がって見るとトリュフォーとは別物になっている。

やがて、「バッシング」を経て、
彼の関心はトリュフォーの避けた「ポリティカルな題材」に向かい、仲代達矢を主役に、日本が抱える問題を題材とした映画を作るようになる。
それが本作であり、その次の「日本の悲劇」、「海辺のリア」につながっていく。(しだいに「正気」よりも「狂気」の方が幅を占めていくようになっていく。)
とはいえ、かつてトリュフォーを追いかけた影、の様なものは残っていて。
彼の作品にはフランス映画的なある種の芸術至上的というか、ストイックな精神が満ちている。 画面に緊張感がみなぎっている。
「闇中、スクリーンで拝むだけでも、劇場に足を運ぶ甲斐がある。」
そう思わせてくれるだけの、徹底的な絵作りへのこだわりを見せる映像作家だ。


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ドント・ウォーリー
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