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いい日旅立ち、ワインの休日。アレクサンダー・ペインの「サイドウェイ」。
いずれ何処かへ行きたい。無理にでも、何か理由を見つけて。例えば、気の置けない男ともだちと、何処かに旅するのを夢見ては、いかがだろうか。
その気分をユーモアにのせて描いたのが、アレクサンダー・ペイン監督の「サイドウェイ」だ。
カリフォルニア州サンディエゴに住む、×イチで小説家志望の中年教師マイルス。
彼の大学時代からの悪友であり、落ち目のテレビタレントであるジャック。
凸凹ばかりの二人の人生も、マイルスはようやく書き上がった小説を出版社に持ち込み、ジャックは不動産屋の娘と結婚することで、一つの区切りを迎えた。
二人は、ジャックの結婚とマイルスの小説の完成を祝して、結婚式前の1週間、ワイン・ツアーと洒落込むことにする。
さて、その旅の行方は…? そして日常に戻って仕舞えば?
※あらすじ・キャスト・スタッフはこちら!
虫けらどもに寂しい春を。
要は、ワイン・ツアーというのは、ワイルスがジャックと一緒の旅に出るため、
いや、言ってしまえば、ジャックとふたりきりで一緒にいるための方便。
ワイルスにとって「ジャックとふたりきり」がなぜ良いか?
それは、付き合い長いダチだからだ。
だから、性格が真逆でも(実際それが原因で道中先々で揉めるのだが)、ちょっと喧嘩したくらいじゃ壊れない関係、気兼ねしないで済む。
だから、人を選ぶであろうワインのうんちく、人生の半分が過ぎたのに「何一つ達成してなく金も取り柄もない」と自認する中年男唯一の取り柄を、ジャックに気兼ねせず語れる、この時ばかりは彼以上に雄弁になれる。ただただ話に感心するジャックの前で、ちょっと得意な気分になれる。いつも他人にぺこぺこしてばかりのワイルスにも、たまには他人に対してマウント取りたい時だってある。
ジャックにとっても、ワイルスの前なら気兼ねせずに本性をむきだしにして済む。ずばり目的は女性!結婚前に羽を伸ばしたいという一心。
人生も半ば過ぎた、煩悩を抱えた大の男ふたりが、なんの気兼ねもなしに、気の赴くままに旅をするのだ。これで、どうして予定通りの旅になるだろうか!
案の定、二人の旅は、途上、ジャックが結婚指輪を入れた財布を失ったり、マイルスが前妻に絶縁を言い渡されたり、さんざんな思い出に終わる。
つよがり男に涙酒を。
そして、旅が終わっても、当たり前だが、日常は続く。
この映画、じつは旅から帰ってからのマイルスのドラマが、本番なのだ。
マイルスは重い荷物を抱えて、本以外何もないからっぽの家に帰ってくる。
もうすぐジャックもいなくなる。
ますます空っぽになる。ひしひしと迫る孤独感に、マイルスは苦笑いする。
淋しい男は、賑やかで幸せな場所には、いたたまれなくて、いられない。
ジャックの挙式後、二次会もそこそこに、逃げるようにしてそそくさに立ち去る。そして、ひとりハンバーガーショップで、ソフトドリンクの紙コップに、こっそり忍ばせたワインを注ぎ込んで、飲む。誰も聞くものもいない、得意のうんちくを飲み込みながら…。
せいいっぱい、「俺は寂しくないぞ!」とフリをしてみせるのが、切ない。
祭りのあとにさすらいの日々を。
監督のアレクサンダー・ペインのエラいところは、男たちの愚行をユーモアとペーソスを交えつつも、愛情たっぷりに描いていくことだ。
だから、間違っても、さびしい男をこのまま突き放して終わったりなど、しない。
だから結局、マイルスは、だからといって生活をむやみに荒らすこともなく、中学校教師としての日々に戻っていく。最後は、留守電に答えて、元の妻とよりを戻そうと、ドアを叩いたところで、終わる。
なんとなく希望を感じさせる終わり方。ふわっとしてて、それがいい。
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