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映画「いちご白書」…つぶれかかった「Give peace a chance」のために。

2020年3月に公開された「三島由紀夫VS東大全共闘」。
(予告編を見てもお分かりいただけるとおり)証言者が口を揃えて言うのが
1969年は「言葉の力が信じられていた最後の時代」だったということ。
三島由紀夫が全共闘1000人に対し、自衛官1000人に対し、自分の言葉を費やして何を賭けたのか、確かめる価値はある。


もちろん、学生運動の当事者たちが、皆が皆ここまで真面目に生きてた訳でもなく、「赤頭巾ちゃん気をつけて」「僕って何」な日和見たちも存在した。


同時代、おなじく学生運動の嵐が吹き荒れていたアメリカにも、日和見学生がいた。流れに任せるまま彼は運動に足を踏み入れ、最後には揃って歌を唄う。簡単にいえば、そんな話だ。

ともあれ、本作がなければ「いちご白書をもういちど」は生まれなかったのだ。

名門大学にやっと入学したサイモン(ブルース・デイヴィソン)はボート部のノンポリ学生。子供たちの遊び場になっている大学そばの公園に軍が施設を建てようとしたことが原因で大学はストライキ中だ。遊び心から学生運動に参加したサイモンは、知り合ったリンダ(キム・ダービー)と意気投合するが、運動に積極的ではない彼の態度に彼女は離れていってしまう。そんな時、大学当局と企業の腐敗が暴露され、学生の怒りは最高潮に達した。サイモンはリンダや数百人の仲間とともに大学の講堂に立てこもり、包囲する武装警察隊に絶望的な抵抗を挑む―。
【スタッフ】
監督:スチュアート・ハグマン
製作:アーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフ
原作:ジェームズ・クーネン
脚本:イスラエル・ホロヴィッツ
撮影:ラルフ・ウールジー
音楽:イアン・フリーベアン=スミス
主題歌:バフィー・セント=メリー(作曲:ジョニ・ミッチェル)
【キャスト】ブルース・デイヴィソン、キム・ダービー、バッド・コート、ボブ・バラバン、ケームズ・クーネン、ダニー・ゴールドマン

アンプラグド「語り継ぎたい映画シリーズ」より引用

主人公が虚弱、だから話も貧弱。

サイモンは気弱なメガネ男子。「何かまだ僕を引き止めているものがある」内省的または屈折した人間だったらまだしも良かったが、残念ながら、何も考えていない、頭からっぽの男。

こんな男が主役なのだから、取り立てて大した筋はない。ガールフレンドにがっついたり、彼女のおクチでムラムラを処理してもらったり。学生運動?ゲームのつもり。リンダへの義理で参加してるだけ、蚊帳の外。
全く共感できない、最低な男だ。

本編がしょーもないからこそ、歌で彩るシーンが、妙に印象に残る。
冒頭と終幕の歌ふたつ。彼の運命の暗転を、みごとに暗示している。


耳に残る歌ひとつ、Circle Game。

冒頭を彩るのは、バフィー・セント=メリーが歌う「サークル・ゲーム」だ。
屈託無い、伸びやかで、どこまでも明るいうたごえ。
そして青春を謳歌するサイモン君の明るい笑顔のクローズアップ、端麗な映像によって、いっそう透明な美しさを感じさせる。これはCMを多数手掛けた監督ならではの巧みさ、みずみずしさだ。

彼の人生も、同様に、どこまでも不安なく晴れ渡っている、はずだった。
のはずが、学生運動に足突っ込むのである。これを悲劇と思うか喜劇と思うか。


耳に残る歌もうひとつ、Give peace a chance。

クライマックス。サイモンは全くその気ではなかったが、リンダや数百人の仲間とともに大学の講堂に立てこもる羽目となる。

日が沈み、夜が来ても、当たり前だが警察隊は包囲網を解く気は無い。

学生たちにできることは、それでも、異論を唱えることだけだ。
だから彼らは円座を組んで合掌する、ジョン・レノン「平和を我等に」。
(トレイラーの1分50秒〜)レノン本人が歌えばラブ・アンド・ピース。
しかし彼らの歌は、どこか悲壮だ。
Peaceの発音は潰れて、「Give me a chance」
もう一度、チャンスを。
に聞こえる。

それは、粛々と暗雲に突き進む運命に、抗う、悲鳴のようだ。
サイモンもこの悲劇を逃れることはできない、形はなんであれ「学生運動に参加した」自分の将来は暗いだろう:その不安を振り解いて、いつしか彼もリンダの手を繋いで、目一杯の勇気で、歌うたう。


警官隊が講堂に突入する。彼らは殆ど抵抗できないまま押しつぶされる。

せめて、サイモンはリンダの手を離すまい、とする。

しかし、呆気なく、人の波に、二人の腕は引き離されて、終幕。

いつ、どの時代でも起こる、日和見たちの青春の終わり、明るい未来・夢の終わりを痛感させて、映画は終わる。


本記事のサムネイル画像はアンプラグド「語り継ぎたい映画シリーズ」より引用しました。
また、本記事中盤の2つの画像は、原作者が実体験した(それをもとに「いちご白書」をうんだ)アメリカ・コロンビア大学の1968年講義運動の実際の写真から引用しました。

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ドント・ウォーリー
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