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戦う敵を求めて鬩ぎ合う、イコ・ウワイスの「ザ・レイド」「GOKUDO ザ・レイド」。
シリーズ前作と旧作とで、ジャンルが180度変わると 期待値と違うから当然損した気分になる。しかしここで満足度を満たせば得をした気分になる。
インドネシア出身のアクション俳優イコ・ウワイスは、この転換をうまく活かした。
該当するのは「ザ・レイド」二作品。第一作目はゾンビもの、第二作目はヤクザもの、と180度作風が転換した稀有な例。
共通しているのはイコ・ウワイスが演じる警官ラマの不屈の精神、ネバーギブアップの根性だ。
「ザ・レイド 」。 圧倒される新米警官・ラマ。
インドネシア、ジャカルタのスラム街にそびえる30階建ての高層ビル。麻薬王リアディが支配するそのビルは、ギャングやドラッグの売人たちのアジトである。この悪の巣窟に、新人警官ラマを含むSWATチームが奇襲を仕掛けるが、各階を制圧しながらリアディの部屋を目指すなか、途中で彼に気づかれてしまう。ビル内のスピーカーからリアディの声が鳴り響く。「住人諸君、当ビルの害虫駆除に協力せよ」
リアディの右腕、マッド・ドッグ率いるギャングの怒涛の銃撃に遭い、退却の道を絶たれる隊員たち。しかし彼らは超人的な身体能力の高さと格闘スキルを駆使し、敵を一人ずつ始末しながら上階に向かうーーやがて明らかになる衝撃の事実とは?
キャスト
イコ・ウワイス、ジョー・タスリム、ドニ・アラムシャ、ヤヤン・ルヒアン、
レイ・サヘタピー
スタッフ
監督・脚本: ギャレス・エヴァンス
インドネシアのうだる熱気が浮かび上がってくるよう。
魔境としての閉鎖病棟の様に細く狭く、蒸し暑く、かつゾンビの様に住民が群がってくるひとつの朽ちかけた建物の中で、特殊部隊が右往左往させられる。
住人たちは、灰色の顔をして、情け容赦なく、群れとなって、襲いかかるのだから。倒しても倒しても次から次へと湧いてくる。要は「ゾンビを相手しているようなものだと」思えば良い。
中盤、ここに警察上層部の陰謀:特殊部隊を全滅させんとする狙い がアクセントとして加わる。警官とギャングの癒着が生み出した魔の巣を、警官ラマは、手負いの仲間を庇いながらも、腕っ節ひとつで制するのだ。
さて、ここからが続編「ザ・レイド GOKUDO」のはなしとなる。
新宿ミラノ、閉館。ザ・レイド、開戦。
この惹句が道行く人の目を惹いたのは、2014年12月末日のことだった。
新宿ミラノ座 シネマスクエアのクロージングを飾ったのが、本作だった。
まだTOHOシネマズ新宿が落成するより前。
その一帯、新宿歌舞伎町一丁目というのは、若い人々にとって「場末」だった。
新宿ミラノ座も、そのイメージを漂わせていた。
そんな土地柄だからこそ、「ザ・レイド GOKUDO」という邦題は、猥雑で、直球で、実に相応しいように思った。
「新宿ミラノ座より愛をこめて〜LAST SHOW〜」がなければ、この看板の掲げられた新宿TOKYU MILANOビルに入ることはなかったと、思う。
特集上映された作品すべてに圧倒された。
「インファナル・アフェア」三部作ぶっ通しに圧倒された。
「青いパパイヤの香り」「仕立て屋の恋」で大人の香りのする映画を知った。
「まごころを君に」のブーイングシーン。自分が座ってる座席を確かめた。
もう何度目かの「戦場のメリークリスマス」が今までと全く違う映画に見えた。
そして「エグゼクティブ・ディシジョン」がスティーブン・セガールの名前を覚えた最初だった。
そんな思い出の強い場所 に掲げられた作品だからこそ、
本作には、私にとって強い思い入れがある。
「ザ・レイド GOKUDO」 圧倒する警官・ラマ。
マフィアとの壮絶な死闘で生き残った、新人警官ラマ(イコ・ウワイス)。そこで明るみに出た警察組織の大規模な腐敗。
そして、インドネシアマフィア、ジャカルタ汚職警官、日本ヤクザによる三つ巴の抗争が勃発する―。
キャスト
イコ・ウワイス、アリフィン・プトラ、オカ・アンタラ、ティオ・パクサデウォ、松田龍平、遠藤憲一、北村一輝
スタッフ
監督・脚本: ギャレス・エヴァンス
タイトルはVシネだが、「猥雑」というよりかはきわめて「洗練」された映画であることに、驚かされる。
それは、前作「ザ・レイド」より遥かに垢抜けたイコ・ウワイスの容貌のためだろう。角刈りかつ全身黒に包んだ姿は、野生的と知的という両局面を持ち合わせ
「荒野の七人」のクリス=ユル・ブリンナーの様に、王侯の風格を備えている。(そして、彼は本作の翌年、「スターウォーズ」の端役でハリウッドデビューを果たす)
インドネシアで勢力を拡大する見慣れた顔、もとい遠藤憲一・松田龍平ら日本人俳優たちの風貌もある。
予算が増えたおかげか「蒸し暑さ」が減っている。
だから洗練して見える。
だから前作の「量」に対して、本作は「質」で攻めたのだろう。
本作の見所は、手を変え品を変え次々繰り出されるアクション。
イコ・ウワイスは次から次へと、新手の敵と戦い続ける羽目になる。
前作の後、潜入捜査官として、受刑者に身をやつしたラマ。
案の定、刑務所では、暴力が支配する世界の中で、泥水塗れで這いずり回る。
出所したら今度はギャングの舎弟にさせられ、麻薬取引、尋問、誘拐、危険な地に飛び込まされる。
折り目正しいラマが周囲に振り回されるがまま、暴力を振るわざるを得ない所に追い込まれる。彼が、インドネシア・マフィア、ジャカルタ汚職警官、日本ヤクザによる三つ巴の抗争に振り回されつつも、目の前の敵だけはしっかり討ち果たす所に、本作のカタルシスがある。
クライマックスは「死亡の塔」方式。
インドネシア・マフィア 対 ジャカルタ汚職警官の血で血を洗う戦いの果て、敵の親玉の首を取りに行く過程で、舎弟たちに連戦を挑まれる。
両手の金槌で頭をかち割りにくる女暗殺者&金属バットで頭をかち割りにくる男暗殺者と二対一で狭い通路で戦わされ、
ガラス張りの厨房で、仕込みナイフを装備した老練のカンフー使いと戦わされ
さんざ傷を負った挙句、ようやく、這々の体で敵のボスの元にたどり着く。
敵のボスの首を獲った後に現れるのが、漁夫の利を狙いに来た日本ヤクザ。
多勢に無勢。奴らには重火器も弾薬もたっぷりある。
それでもラマはギブアップしない。
満身創痍でも、奴らを睨みつける、見得を切るところで、映画は終わる。
まとめると、
相手がゾンビでも、ヤクザでも、変わらず、不屈の闘志を見せつける。洗練されたアクションで敵を薙ぐ。そこが、カッコイイ。
なお、二作の監督を務めたギャレス・エヴァンス 最新作はNETFLIXで公開中。
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